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弱気な二人

「はあー」

 今日何度目かのため息をつき、ラドビアスは何ということもないように、ユリウスがナイフを持つ手をあっさり掴む。 そして一瞬のうちに体を反転させると、ユリウスを壁際へ押し付けた。

「私にナイフを向けるなんてお酒に酔ってらっしゃるんじゃないでしょうね? ふいをついて術をかける方が、何倍もあなたに勝つ目がありますのに」

「悪かったな、剣が使えなくて」

「何をお知りになりたいのです」

 ずるずると壁に背中を預け、座り込もうとするユリウスをラドビアスが抱きとめた。 そして顔を背けたユリウスの顔を強引に自分に向かせる。

「カルラ様」

「その名を呼ぶな、おまえは本当に嫌な奴だ。おまえしか使える僕がいないというのに信用できない事がどんなに腹立たしい事か、おまえにはわからないのか」

「どこでどうなっても私はあなたの僕ですよ、ユリウス様」

 ユリウスが腕を突っ張って、ラドビアスの腕から距離を取って見上げる。

「じゃあ聞くが、インダラは誰と一緒に国境を越えた?」

「どうしてインダラだけだと思われないのですか」

 答えるラドビアスにためらい無く平手が飛ぶ。

「答えろ! ラドビアス」

 その声にあきらめたようにラドビアスは小さく息を吐いた。

「……バサラ様とクビラ様です」

 ユリウスがごくりと唾を飲み込んだ。 顔色も変わる。 ――バサラとクビラ……。

「一人にしてくれ」

 ユリウスの言葉にラドビアスが首を振る。

「今の主を一人にしてはおけません。離しませんが……殺しますか」

「ばか! だからおまえは嫌いだ!」

 ユリウスはぎりりと唇を噛んだ。 ラドビアスの腕の中でユリウスは負けそうな気持ちと戦っていた。

 ――くそっ、どうにかしてあいつらの裏をかいてやる。 こんな弱気になっている自分は本来の自分ではない。 絶対になんとか……してやる。




「クロード様、今日は何のご用で?」

 竜門から現れたクロードにガリオールが立ち上がって迎えた。

「用っていうか、ユリウスにサイトスに行けって言われて。俺が居ない方がいいってさ」

 自分で言葉に出してみて、いかに自分が傷ついたかを認識させられ、クロードは泣きそうになる。

「そうですか、主には何かお考えがあるのでしょう。では直ぐ部屋をご用意いたしましょう」

 別にしょげているクロードを(なぐさ)めるわけでもなく、ガリオールは側の魔道師を呼ぶ。 用意された部屋の寝台の上でクロードは転がりながら(わめ)いた。

「くそーっ。信用してるとか言ってたくせにもう、用済みかよっ」

 ユリウスもまた、自分の気持ちと戦っていることなど解かるはずも無く、クロードはただユリウスに打ち捨てられたように感じていた。

「ショックだ。ちくしょう、落ち込んでしまった」

 産まれてこのかた、誰かに期待されたり、誰かのためにがんばったことなど経験が無い。 今まで自分のためだけに生きてきたクロードにとって、初めて感じる類の感情にどうやってやり過ごせばいいのかわけが解からない。 他者にあてにされてないことが、こんなに苦しいなんて思いもしなかった。

「あー立ち直れないかも」



 ごろごろ寝台を転がりながら眠れない夜が更けていく。 もう少しで朝日が顔を見せる一歩手前。 薄紫に変わった空を窓から眺めてクロードは思う。

 ――必要だと思わせてやる。 くそっ、ユリウスが窮地(きゅうち)に陥ったところを颯爽(さっそう)と助けてやるからな。

「やっぱりおまえがいないと私はだめだな。ラドビアスなんて屁の突っ張りにもならないよ」

 そう言わせてやる! ぐっとクロードは両の拳を握り締めたが、果たしてユリウスがそんな言葉を使うかは考えの外だ。

「いい事を思いついた」

 そのいいことは誰にも話さないで実行するつもりだった。

「待ってろよ、ユリウス」

 急に眠気が襲ってきてクロードは目を閉じた――その時に備えて休養は必要だ。


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