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僕の想い

「クロード様、ですか」

 クロードはラドビアスに背を向けていたが、背中越しにもラドビアスの視線が感じられて何かうまく言わなくちゃと思うが何も浮かんでこない。

「部屋を綺麗にしようと思ってさ」

 自分でもこりゃ嘘だと思うような事しか口に出来ない己の正直さを呪った。

「綺麗は綺麗ですが後で問題になりますよ、私が手直しして宜しいですか」

 クロードの嘘っぱちに何の突っ込みを入れるで無く、ラドビアスがクロードに問う。

「お願いするよ、助かった」

 クロードはほっと胸を撫で下ろす。

「それより服をお持ちしましたよ、早速お着替え下さい。ユリウス様もその小汚い夜着をお脱ぎ下さい」

 話が他へずれて、やれやれとクロードは服を着替え始め、その横でラドビアスはユリウスの着替えを手伝っていたがユリウスの手首に目を止めた。

「それはどうされたんです」

 うっすらと残る手首の赤い紐の跡にこれは……と、ユリウスが言葉につまる。

「これは、何ですか」

 ラドビアスが畳み掛けるように聞くと「これは――クロードがしたんだ」苦し紛れにクロードの名前を出してユリウスがそっぽを向いた。

「クロード様がですか」

 片眉を上げてラドビアスがクロードを見る。

 何で俺なんだよ……と思いながらも「ごめん、俺です。俺がやりました」と、クロードはやけくそ気味に大声を出した。何でとか、どうやってとかというラドビアスの追求が始まる前に部屋を飛び出す。

 ラドビアスは脱ぎ散らかった二人分の服を片付けながらクロードが出て行った方を見やった後、つと屈んでユリウスの方へ顔を向けた。

「インダラが来たのですね」

 ユリウスの目の前に一本の長い絹糸のような黒髪を突きつける。

「さあな、髪を結ってくれ、ラドビアス」

 片手でラドビアスの手を払いのけて、ユリウスが今着替えたばかりの深紫の服と同色のリボンを突き出した。

「この後、ドミニクに挨拶に行ってトラシュのサロンに顔を出す」

「はい」

 ユリウスの髪にブラシをかけ、片側に寄せてリボンで結び、髪を前に垂らす様にまとめながらラドビアスは頷く。

「それと、クロードを呼んでくれ」

 クロードは部屋に戻るとガリオールから渡された呪符の分厚い束を懐から取り出して、ユリウスから預かっている品々と一緒に寝台の下に隠した。それにしても今日は朝から左胸の辺りがじくじく傷んで仕方がない。

「竜印が完成するときはもっと痛いのかなあ」

 竜印が完成したらクライブに仕えて何十年かの後に魔道師庁に組み込まれてクライブと名を変え、ユリウスともラドビアスとも別れているのだろうか。

 その考えはとても寂しくて自分で考えておきながら急いで頭を振った。俺らしくもない。その時はその時だ。

「クロード様、主が呼んでおります」

 外からラドビアスの声が聞こえた。クロードが部屋に入るとユリウスが手招きする。

「私が主城に行っている間にこの州城の城壁に沿ってガリオールから受け取った呪符を貼って来い。場所はこの地図を見ろ」

「解かった」

 返事をして踵を返して部屋を出ようとするクロードの腕をユリウスがやや乱暴に掴んで引き止めた。

「何?」

「クロード、おまえを信用しているからな」

「どういうこと?」

「もう、いい、行け」

 怒ったように言うユリウスにわけも解からず部屋を出ると、ラドビアスが入れ違いに入っていく。

「主城においでになりますか」

 無言のまま先を行くユリウスにラドビアスが声をかける。

「何かお気に障ることがありましたか、カルラ様」

 わざと主の嫌う昔の名前を出すが振り向きもせず、答えないユリウスにラドビアスが溜息をついてユリウスの右手を掴んで振り向かせた。

「何をするんだ、手を離せ」

「……主が私を避けていらっしゃるからです」

 ラドビアスがひたとユリウスを見る。

「そう思うのは自分に後ろ暗いところがあるからじゃないのか」

 ユリウスはラドビアスをじろりと見ながら自分を掴まえている彼の手をゆっくり剥がす。

「私は、主を、あなたを失いたくないだけです」

 ラドビアスが再度離された手を掴んで強く引いて自分の方へ倒れこむユリウスを抱き抱える。

「あなたを失いたくない」

 絞りだすように言いながら背中に手を回す。

「やめろ、ラドビアス、離せ」

 もがくユリウスをさらにきつく抱きしめて目はユリウスの薄い唇へと移るが……。ラドビアスは、ユリウスの顔に怯えの色を見つけてはっと腕を緩めた。

「お許しを」

 言葉が終わる前に拳が頬に飛んだ。

「許せるわけないだろう、大ばか野郎」

 ユリウスがもう一度拳を握る。

「私に二度とこんな事をしてみろ、殺すぞ」

「それは……確約出来かねます。ベオークにいらした頃からお慕い申し上げていたのですから」

「ベオークのことなど言うな、思い出したくも無い」

 ユリウスが目を閉じて嫌な物を吐き出すように言った。


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