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ユリウスの使者

「別に、親父が死にそうなのかどうなのか知りたいのは子供として当然じゃないか」

 クロードは不敵に笑いながらガリオールを見返す。

「親父などと仰ってはなりませんよ、クロード様。確かに貴方様のお父上であられますが国王陛下ですよ」

 タンと机をクロードが叩いた。

「国王陛下の『鍵』はどうなってるの? 俺、ユリウスの使者だよ。ユリウスにどう言ったらいいんだ」

 クロードの強い態度に僅かにたじろいでガリオールが答える。

「今は存知ませんが今朝ご機嫌を伺いに参りました時には剣になっておりましたが」

 ユリウスが知りたいっていうのは嘘だけどこの際、俺の知りたい事も駄賃代わりに聞いても罰はあたらないだろう。

「ボルチモアと廟には私とルーク、リチャードが行きます」

 リチャードという名は初めて聞く名だ。

「リチャード?」

「リチャードは、初代国王ヴァイロン様のお子でございます。知っておられるかもしれませんが王がお亡くなりになるまでの半身の名はすべてクロードです。王が無くなった後、王の半身は王の御名を頂いて正式に魔道師庁へ下られますからそれ以降は「様」はつけません」

 ……そうなんだ、――初耳だった。

「じゃあ俺はクライブになるのか、あいつが死んだら」

「ご逝去されたら、ですね。もちろんそうですよ」

 わざわざ言い直されてクロードは憮然とするがまあ、役目は終わったし、聞きたいことも聞けた。

「解かった。じゃあユリウスに伝えるよ」

 竜門の扉を開けて出て行くクロードをガリオールは立ち上がって見送りながらつぶやく。

「ボルチモアですか、結界が緩んで忙しいときに面倒な事になった。その最中に主がいるなんて。先に私に調べさせて頂きたかったが。こちらからも直ぐに調べなければ……」

 クロードは竜門から出ると、部屋の四隅に置いた呪符に『解』と唱えて印を結ぶ。すると、呪符はもろく崩れて粉々になって消えた。それを確認してから外に出ると、丁度そこへラドビアスがこちらにやって来た所だった。

「クロード様、そこにおられましたか、もう直ぐ夕食の時間です。下へおいで下さい」

 クロードが出てきた部屋を一瞥(いちべつ)だけして、ラドビアスは下へ降りて行った。

 気付いた? まあ、いいか。ラドビアスほどの魔道師を出し抜くなんて難しすぎる。あいつの相手はユリウスに任せとこうとクロードは思った。

 一階の食堂に行くとユリウスはすでにテーブルについていた。話は後で聞くと、開口一番ユリウスは牽制するように言うが、その理由はすぐに分かった。ユリウスの真横には当然のように座っているトラシュと向かいに座るアリスローザが目に入る。アリスローザはクロードを見ると手を高々と上げた。

「クロード、やっと会えたわ、楽しみにしていたのよ」

「アリス、大声を出すものではないよ、はしたない」

 妹のその明け透けな行動にトラシュが眉をあげる。

「クロード、小宮を熱心に見て回っていたらしいけど、この城は気に入って貰えたのかい」

 トラシュが笑いながら聞く。そういう事になっていたらしいとクロードも話を合わせることにした。

「とてもすてきなお城ですね、どの部屋の趣向(しゅこう)もどれも綺麗で快適そうです」

 答えながらトラシュに他意はあるかと顔をうかがう。しかし優しそうな笑みを浮かべた顔は、あくまでも爽やかでクロードには裏があるようには見えない。

「ユリウス、君はどうだい、気に入ってもらえましたか」

 トラシュがさり気なくユリウスの手を握る。

「勿論ですとも。ここはとても落ち着きます。お心遣い有難く思っております」

 クロードにはうそ臭さ全開の笑顔を見せて、ユリウスは重ねられたトラシュの手をさっさと外した。

「私達は持ち物をすべて失いましたので今日のところは着替えなどもお貸し頂くとして。明日の朝、私の従者に調達させに城下に行かせたいと思っています」

「私ので良かったら何でも使ってください」

「有難いですが私はトラシュ様に比べて背も低いし体も細くて、トラシュ様の服を着ても可笑しいだけです。ラドビアス、悪いが滞在に入用な物を見繕って来ておくれ」

「畏まりました」

 ――ただでは起きない奴というか、もしかして襲われる事前提だったのかとクロードはユリウスを見る。これでラドビアスを半日はこの州城から追い出せるのだ。その間に何をする気なのか。しかし、『悪いが……』なんて普段言わないくせにラドビアスにバレちゃうんじゃないの?

「今晩の夜着なら私のはどうかしら。ユリウス様細いし、お兄様のは大きすぎるでしょう。この前あつらえたのが丈も長いしお揃いのガウンもあるし」

 アリスローザの提案にトラシュが厳しい顔になった。

「女物など失礼じゃないか」

「では、そうさせて頂きます」

 ユリウスの返事にえっ? とトラシュが口を開けたままユリウスを見た。

「今晩寝る時だけですから誰に見せるわけでもありませんでしょう? お湯を使わせて頂いてから貸してもらえますか、アリスローザ様」

 ユリウスの返事に気を良くしたアリスローザがクロードに聞く。

「クロードはどうする?」

「じょ、冗談、俺、じゃなくて私はトラシュ様に貸してもらいます」

 自分まで女物を着る羽目になるのを防ぐためクロードは勢い込んで言った。

「私の衣装部屋からこの前作った、水色の夜着とガウンを持ってきなさい。銀糸で蝶の刺繍がある物よ」

 アリスローザは女官に言いつけると嬉しそうにユリウスを見た。

「きっと、お似合いになるわ」

 夕食が終わって先にお湯を使って言った通り、だぶだぶのトラシュの夜着を大きくウエストで弛ませて着たクロードの横には、ユリウスの夜着姿を見てから主城に戻ると言い張るアリスローザが座っていた。

 かちゃりと軽い音をさせてユリウスが部屋に入って来たのを見て、クロードはため息をつく。水色の薄い生地にレースがついた夜着にガウン姿のユリウスは、完全に見た目が女の子だ。長めとはいえ、アリスローザ用の夜着はユリウスの脛までしかなく、白い足がにょっきり出ている。それが呆れるほど男の脚ではありえない。

「……自信が無くなってしまいますわ、ユリウス様……」

 アリスローザが溜息交じりに言う。

「何をばかなことを、アリスローザ様は本当にお可愛いですよ。私と比べるなんてとんでもないことです。ラドビアス、アリスローザ様を主城にお送りして差し上げなさい」

「あら、私従者がいましてよ」

 首を傾げるアリスローザにユリウスが優しく言う。

「お供させてください。確かにお帰りになったか心配ですから」

「では、お送りして参ります」

 アリスローザと女官の後をラドビアスが続いて部屋を出て行った後、クロードがまったくもうと唸る。

「それ着たのもラドビアス、追っ払う為だろう。アリスローザが見たがるのを予想してたんだな」

 クロードの言葉を無視して、ユリウスは長椅子に行儀悪く脚を投げ出した。

「で、ガリオールは何と言っていた?」

「ガリオールとルーク、リチャードが来るって」

「そうか、解かった。じゃあ私の収穫は」

 ユリウスが起き上って羊皮紙を広げた。

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