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山賊の襲撃

「見られましたか」

「誰と会っていたの?」

「知り合いですよ、クロード様」

 悪びれる様子も無くラドビアスが言う。

「それをユリウスは知っているの?」

「さあ、言ってはおりませんが、知っておられるかも知れません」

 しれっと答えるラドビアスにクロードは唖然とする。

「ラドビアスがユリウスに黙って行動することがあるなんて……ラドビアスはユリウスの僕なんだよね」

「はい、そうですが」

「じゃあユリウスに不利になるような事はしないよね」

 問いに応えず、クロードに笑顔を向けただけで歩き出すラドビウスの背中に、クロードは切迫した声をかける。

「ラドビアス」

「私は主を敬愛申し上げております」

 ラドビアスは、背中越しにそう返すと、すたすたと従者に割り当てられた部屋に入りぴたりと戸を閉めてしまった。そのラドビアスの不自然な態度にクロードはわけが解からず、ふらふらと貴賓室へ入る。するとユリウスが、じろりとクロードを見た。

「私より先に出てったくせに今までどこにいたんだ?」

「それは……」

 思わず絶句して立ち尽くすクロードに何か隠し事があるなと、聞き出すつもりで口を開いたユリウスだったが、そこににノックの音がした。

「ラドビアスです、失礼してもよろしいですか」

 ぎょっとしてクロードは戸へ目を向けた。

「良い、入れ」

 ユリウスの応えの後に、ラドビアスともう一人の背の低い従者が盆を手に入って来た。

「クロード様、甘い物でもお召し上がりになりませんか」

 ラドビアスのなにも無かったかのような落ち着いた声にさっきの事が夢かと思ってしまう。勧められるままに盆の上から小さいタルトを取って齧ると甘い味が口に広がった。何だか体の力みが抜けた気がする。考えすぎか……本当に単なる知り合いだったかもしれないとクロードは思い直し、もう一つタルトを齧った。

「ユリウスは要らないの? このダークチェリーのタルト旨いよ」

 ユリウスはここでも書物を読んでいたが顔も上げずに答えた。

「私は要らない、お茶だけでいい」

「ユリウス様、先ほどここの関所の者と話しましたがこの先、物騒な輩が多く出没しているようです。今日はこのままここにお泊りになるか、夜にかからないように早めに出立する方がよろしいかと」

 従者はユリウスがそっちへ目をむけると慌てて瞳を伏せた。

「そうだな、じゃあ直ぐ出発だ。たらたら馬車に乗っているのも飽きるし、これ以上移動に時間をかけたくない」

 ユリウスの答えにラドビアスは出発の用意に部屋を出て行く。

「それとクロード、その手に持っているやつで食べるのを止めろよ」

 ユリウスがびしっとクロードに指を突きつけた。

「解かったよ」

 言いながら手に持ったタルトを口に押し込み、盆の上から尚も両手にタルトを掴んだクロードにユリウスは露骨に嫌そうな顔をした。

「一緒の馬車に乗りたいならその甘ったるい匂いのする手を洗ってこい。でないと置いて行くからな」

 その声にクロードは急いで下男に水を持ってきてもらって手を洗った。何せユリウスの事だ。本当に置いて行かれる恐れが大いにある。かくして休憩は瞬く間に終わり関所の建物を後にしてまた、深い森の中に入って行く。

 聞こえるのは鳥の鳴き声と馬車のたてる音ぐらいだ。馬車の前後左右を守るように馬に騎乗した従者が警戒しながら進んでいく。何事も無くこのまま二日目が終わるのではないかと思われた。



 ひゅっと風を切る音がしたと同時に右側と前を守っていた従者が落馬した。

「クロード、頭を下げろ」

 ユリウスがクロードの頭を押さえて座席にうずくまる。後ろに付いていたラドビアスが早がけで前に出て来た。

「族が現れたようです。馬車をおいてこちらへ」

 馬車のドアを開けて身を乗り出したクロードを軽々と抱き上げて自分の馬に乗せる。その間にも射掛けてくる矢を腰から抜いた剣で振り払う。

「ユリウスは?」

 心配そうな声を上げるクロードに左に付いていた従者が答えた。

「私が」

 差し伸べる手をぐいっと掴んでユリウスが従者の馬に飛び乗った。

「お前達馬車を捨てて逃げなさい」

 ラドビアスの言葉に馬車と荷馬車は急停止し、御者と下男たちが我先にと逃げ出して行く。

「できるだけ急ぎますので後ろに回っていただけますか」

「えーっ、そんな曲乗りみたいな事できないよ」

 言いながらも必死でクロードは後ろにまわってラドビアスの腰にしがみついた。

「しっかり掴まっていて下さい」

 クロードが自分の腰に掴まったのを確認するとラドビアスは、後ろのユリウスに目で合図を送り、体を低くして馬の横腹を蹴った。猛然とスピードを上げる馬に乗り慣れているはずのクロードも振り落とされそうになってしがみ付いた腕に力を込めた。



 山道を全力疾走すること、ニザンばかりした後。

「もう大丈夫みたいですね」

 ラドビアスの声と共に馬の速度がぐんと落ちた。やっと身を起こしてクロードが辺りを見ると、森を抜けて畑が散らばる開けた場所にいつの間にか出ていた。

「ユリウスたちは?」

 姿が見えないのに心配してクロードが後ろを振り返って聞く。

「もう少ししたら追いつくでしょう。少し飛ばしすぎましたから」

 そう言ってラドビアスは馬の横面を優しく叩いた。

「何もかも無くしちゃったね」

 逃げたもの達は大丈夫だったかと心配になったが、戻るわけにもいかないのもわかっている。

「金目当てなら馬車と荷馬車を置いてきましたから……まあ大丈夫なのでは?」

「ならいいけど」

 術を使っていれば誰も死なずに済んだろうに。この騒ぎもどこかで見張られているのだろうか? だったらクロード達が術を使わなかったのは大正解だろう。二人も死んでしまった。そのことで自分がすごい悪人になったような後ろめたい気分に陥ってクロードは気が塞いだ。



 規則正しい馬の(ひづめ)の音が聞こえて、クロードが目を凝らしていると、やがて馬が疾走して来るのが見えた。

「クロード様もご無事で何よりでございました」

 一人生き残ったデイビットという名の従者がほっとした顔をみせた。

「ユリウスが遅いんで心配したよ」

「その割には後ろも見ずにスタコラ走って行ったけど?」

 ユリウスがクロードとラドビアスをじろりと見た。

「私は主を信じておりましたからクロード様をお守りする事を優先させていただきました」

 ラドビアスはけろりと言って馬を進ませる。

「このままプリムスという町に向かいましょう」


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