行ったり来たりの異世界譚
自衛隊の事なんてほとんど知らないけど、なんとなく書いてみようかな、
的に始めちゃった、なんちゃって日本のなんちゃって自衛隊in異世界です。
自衛隊は武器持ってる人、災害救助してくれる人、時々海外派遣もあるらしい…その程度の知識の人間が書いてますので、その辺のつっこみは無しでお願します。
それは突然の出来事だった。
「…え?」
「…何だぁ?」
「「えーと初めまして…?」」
偶然にも一番最初に出会った者達は非常事態にも関わらず、とりあえず挨拶を交わすという、混乱の末の行動とはいえ、相手と自分の間に意思の疎通が可能であることを示す行動をとった。
後々まで語り継がれるその一言。
「挨拶は大切。」
そうして、とりあえず相手がいきなり自分を襲うような存在ではなさそうだと認識した、二人は次に困った様に、お互いの周辺を見渡した。
「お前さんどこから来なすった?」
「はあ、日本です。」
「ニホン?どこだそりゃ。」
「あの…すみません、ここはどこでしょう?」
「ここか?ここはサーサ村の端っこのモンス草原の入り口だよ。」
「…すみません、どこですか、それは…。」
「ガルアシア王国の端っこだ。」
「……すいません、解らないです。」
「だろうなあ、ところでお前さんの後ろのそのでっかいモンは何だい。」
男の言葉に、彼は後ろを向く、前方の非常識、後方の常識…、そんな下らない事を考えつつ、はっきりと答える。
「自分の職場です。」
「ほお、何をするとこだ、ずいぶんとでっかいが。」
「主に、国防を担っています。」
「何だ、お前さん軍人かい。」
そうとは見えない、男の顔にはありありとそう書き込まれている。
男の言葉に、彼は困ったような表情で、訂正をする。
「いえ、自分たちは軍人ではありません、国では自衛官と呼ばれています。」
やっていることは軍人だけど…。
そんなことを心の中だけで呟く青年に、男は首をかしげながら。
「何だそりゃ、軍人じゃあないのか?」
「違いますよ。」
「でも国防を担ってるなんて軍人の仕事だろ。」
「ええ、でも自分の国ではこの仕事に着く人間の事を軍人と呼んではいけない決まりなんです。」
青年の言葉に、男は呆れたように呟いた。
「へんな国だなあ。」
まったくもってその通り、でもいいのだ自分としてはこの曖昧さも含めてこの職が気に入っている。
そんなこと思いながら苦笑を返せば。
やっぱり軍人には見えねえ、と呟かれる。
「まあいい、お前さんら迷子だろ、だったら城に行って来い、そしたら役人が色々
教えてくれる。」
「お城…ですか。」
まあ、王国と言うのだから有って当然なのだが、日常的に知っている城と言えば純和風の物か、某テーマパークのアレなのできちんと機能している城と言う物に縁がないため、城に行けと言われてもピンとこない、日本なら警察か役所に行けと言われるところだろう…、ああいや、だから城が役所なのか…。
そんなことをつらつら考えていれば、別の事で戸惑っていると思われたのか、男が朗らかに。
「なあに、うちの国はお前さん達みたいな迷子には慣れてるから、大丈夫だよ、城までは馬車で一か月もあれば行けるから近いもんだし、よければうちの若いモン道案内につけてやれるしよ。」
今はちょうどニゴリハの収穫が終わって暇になったところだしな。
とんでもないことをさらりと言いつつ、男は笑っているが、青年は軽く固まっていた、馬車…、一か月…、解ってはいたがそう言う世界らしい。
いや、まあ、薄々は気づいてはいた、思い切りRPGな恰好しているおじさんが、犬の代わりに大型犬とさほど変わらない大きさのどう見てもウサギな角の生えた獣を紐につないで連れており、弓をかついでいるのだ、なんてファンタジー…。
対して自分はと見やれば、ジーパンにTシャツ、呆れるほどシンプルな恰好でこちらの感覚では下手をしたら下着で歩いてる浮浪者にでも見えかねないだろう、…うん文化の違いがあるだろうから気を付けよう。
そんなつまらないことを考えつつも、ひきつった笑顔を浮かべながら。
「…上司に相談してきます。」
と言って、少し待っててくれるよう頼みつつ、混乱しきっているであろう職場へと踵を返した、ああせっかくの休暇が…。
泣き言を呟きつつ、彼が足早に職場に戻れば案の定、職場は上へ下への大騒ぎになっていた、そして何故だか電話や無線がガンガン鳴り響いている。
「…もしかして通信できてる?」
えー、完全に外は異世界なのに、そんなのありなの?
そんなことを思って固まっていれば、バタバタと先に外出していたはずの同僚達が走りこんで来た。
「どうなってるんです!?駐屯地がまるっと消えてて!なのに東門だけあって、そこ
から入ってきたら普通に建物があるなんて!!」
疑問解決…、それこそありなの…?
「あの、北門はふつうにこっちの世界に出ます…、そこに現地の人に待ってもらってるんですけど。」
おずおずと、そう告げれば、一斉にぎらぎらとした目がこちらを振り向くので思わず「ヒッ」と声を上げて後ずされば、上官である小隊長に。
「来い!」
と引っ張るように、指令室へと連れ込まれたのだった。
そうして、とりあえず待っていてくれる男に聞いた話を伝え、今も外で待って貰っていると言えば、よくやったと安堵のため息を漏らされ。
青年や司令官を含む数人が改めて男の元に戻り、協力を請えばにこやかに承諾され改めて名を名乗られた。
「俺はサーサ村の村長でグルっていうんだ、ここから一番近い村だし、しばらくは何かと顔を合わすことになるだろうからな、まあよろしく頼むよ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
地元住人の代表ににこやかに迎え入れられたことに、心底ほっとしたように、司令官は深々と頭を下げた、それを見ていた、数名の部下たちも。
うわああ、こんなあっさり受け入れられるなんて思わんかった。
解って無いからなんだろうけど…、まあ取りあえずなんとかなりそうだな…。
そんなこと勝手に決めていいのか?それとも来ちまったものはしょうがないって考え方なのか?こっちは助かるけど…。
と複雑な心境ながら、各々、よろしくお願いします、と頭を下げるのだった。
ちなみに、後日そのことを彼に話せば、グルは笑いながら。
「そんなもん、一応軍人だってのに、普通にあいさつして、武器も持たずに話合いに来るような連中の何を疑えっていうんだよ、俺はずっと弓を背負ってたのによお、自分の陣地に入れてもそれを取り上げもせず飲み物まで出して、丁寧に頼んでくる連中相手に警戒するだけ無駄ってもんだ。」
と言われて、ああ、と脱力した。
一応こちらだって警戒はしていた、と呟けばまた笑いながら。
「まあ、俺一人くらいすぐにどうにかできるからだったかもしれんが、そんなことおくびも出さずに丁寧に扱ってくれるんでな、悪い奴らじゃないと思ったのさ。」
…地元住人や何かと騒がしい元気な団体からの突き上げに合わないために身に着けた、謙虚な低姿勢がこんなことに役立ったことに微妙な気分になりつつ、はあ…と何とも頼りない返事を返せば、そういうところが警戒できないんだと大笑いされた。
ともあれ、自衛隊駐屯地が異世界に転移したという珍事は政府に報告され、恐々と調査に現れた役人たちを絶句させ、それでも自分達ではどうにもならないことであるのは確かであったため、日本政府及び駐屯地の面々は、城に行き素直に頭を下げることに決定した。
「すみません、どれだけかかるかわかりませんがしばらくよろしくお願いします。」
もっとめんどくさい言い方だったが要はそういう事を言いに行けば。
この国の大臣だという老人に。
「大変かもしれないけど、よろしくね。」
的な事を、小難しく言ってもらい、ついでにとばかりに両国は国交を結び、二つの
世界に正式に発表したのだった。
時々大きな迷子の来る、ガルアシア王国側の国々は冷静に受け入れ。
そんなことは物語の中だけの事だった地球は立派なパニックが起こった。
主にお隣とか、ご近所とか、どこかの「俺様世界一ィィィ!」な某国だとかが。
「「「「てめえ!日本だけずるいぞ!うちによこせ!」」」」
とぎゃいぎゃいと言ってきたのだ。
「知るか!誰がやるか!うちの領土内なんだよボケ!」
と丁寧に対応し続ければ、じれた一国が思いきりヘリで突っ込んできたが、結局元々の自衛隊駐屯地のある、原っぱに降りただけで一切転移できず、ならばと此方側との唯一の通路である、東門に車両で突っ込んでみてもこれまた一切転移できなかった、そのことに、驚いていても、逆に自衛隊の車両は当然の事の様に出入りし、ヘリすら普通に飛び回っている、わけもわからず、逃げ遅れる間にあっさりと拘束され、外交のカードにされてしまい、うっかり強硬手段に転じた国々に地団駄をふませた。
自爆乙WWWWW
ネットではそんなコメントが乱立した。
そうして、地球側の情報が解るにつれ、ガルシア側は、微妙な表情でひきつった笑いを浮かべながらしみじみと思ったという。
転移してきたのがニホンのジエイタイでよかった…と。
転移してきた国が好戦的であったり、侵略できる地を虎視眈々と探っているような国であったなら間違いなく侵略されていた。
そして現在の地球にはそういう国は多くは無いが、少なからず存在する、それを考えればジエイタイの転移などもう幸運としか言いようがない。
何せ戦争に負けたせいとはいえ、侵略戦争はしないと明言し、それを50年以上守ってる穏やかな国の
などなかなかないという事を彼らだって解っているのだから。
「隊長そっちに二匹!」
「だあ!うぜえ!とっとと燃え尽きろ!」
「なんでこんなに蚊がデカい…て、ぎゃあああああ!」
「北野!とっとと燃やせ!」
「すまぬ、島田殿!こいつらは一匹でも逃すとまたすぐ大群を作るので一匹も逃さないでくれ!」
「了解!ってベルーダさん後ろ!」
「だあああああああああ!うぜええええええええ!」
一年に一度やってきて人の血を吸い尽くす大型昆虫であるモンカの群れを、騎士団の面々と共に火炎放射器なるもので燃やす自衛隊員を見ながら、グルはしみじみと思った。
こんなのんきなモンカの群れ退治は初めてだ…と。
モンカの特徴を聞いた時に自衛隊から気休めにと渡されたカトリセンコウなる物はモンカに絶大な効果を表した、女子供や年寄を非難させた小屋の周りに置いて焚いてみれば一匹たりとも寄ってこず、自分たちどころか自衛隊の者達まで驚愕させた。
自衛隊員曰く
「昔からあるけど本当に気休め程度の効果。」
らしいので。
おかげで、モンカの逃げ込みそうな場所にカトリセンコウを焚き、広場に集めて一掃するという作戦が取れた。
そうして、避難小屋の方も、大きな納屋の中に五十人近い人間をギュウギュウ詰めにし、雨戸を完全に閉めてしまうので、毎回気分を悪くする者が多く出たのだが、自衛官が避難小屋を一目見た瞬間。
「換気悪すぎ!」
の一言で鉄で編んだ戸のようなもの持ってくるなり、雨戸の外側に打ち付けた。
「風が通る!」
驚きのあまり、唖然としていれば、これなら雨戸を閉めなくていいはずだと言われ半信半疑でいたが、あんな細い物で編んだ戸だというのに、ただの一匹もモンカを入り込ませずにいた。
村人どころか領主から派遣されてきた騎士団まで、尊敬の念で自衛隊を見つめれば、自衛隊員たちは困った様に、しかし嬉しそうに。
「お役にたてたようで良かったです。」
と微笑んだ。
毎年モンカの群れがやってくると分かっていて、自分たちなりにしていた準備を自衛隊は一瞬で上回り、それでもなんでもない事だと笑う。
そうして、今もモンカに血を吸われそうになりながら、ペラペラの服で甲冑を着た騎士と共に走り回っている。
彼らは思う。
この国に来たのがジエイタイで本当に良かった…と。
こうして自衛隊ガルアシア駐屯地の日々は穏やかに(?)過ぎていくのだった。
続きをもしかしたら書くかもしれません、その時はよろしくお願いします。