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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【競作】 死に愛された夏と二人

【競作・承】 死に愛された夏と二人

作者: 暁 時雨

始まりました四連続競作イベント『起・承・転・結』


 今回は第二回目『承』。お題は『鈴』です。


 今回の作品は四部完結の第二章となります。


 前作を読んで頂いた方も、今回が初めての方も楽しんで頂けたら幸いです。

 今回は少しホラーテイスト強めです。この蒸し暑い季節に少しでも涼しくなって頂けたら幸いです。


 それではどうぞ!

第二章 『鈴の音、風鈴の君』




【一、風鈴と少女の夢】


 リィーン……リィーン……。


 風鈴の音が響いている。

 目の前に並んだ沢山の風鈴。

 風が吹くたび、それらの風鈴が夏を感じさせる爽やかな歌声を奏でる。


 リィーン……リィーン……。


 だがそんな穏やかな風景にも関わらず、俺の心はざわついていた。

 不安、恐怖、絶望……そんな感情に心が蝕まれていく。

 どうして?


 リィーン……リィーン……。


 風鈴の音に混じって声が聞こえる。

 女の子の声だ。

 一体なんて言ってるんだ?

 俺はその声に集中する。

 沢山の風鈴の音に混じってその子はこう言っていた。

 とても楽しそうに……とても嬉しそうに……。


『わたし、つとむ君にプレゼントを用意したんだ!』





【二、目覚め】


 リィーン……リィーン……。


 涼しげな風鈴の音で如月奨きさらぎつとむは、浅い眠りから目を覚ます。


(朝か……)


 ふと奨はカレンダーを見る。

 今日は八月三十日。

 長かった夏休みも明日で終わりだ。

 沢山の楽しい思い出を作ったこの夏休み。

 だが、奨の心は重く暗いコールタールのような気持ちに支配されていた。

 奨は再び風鈴に視線を戻す。


(鈴乃……)


 涼しげな音色を奏でる風鈴を見ながら、奨はこの風鈴をプレゼントしてくれた人物……松本鈴乃まつもとすずののことを思い出す。


(……っ)


 鈴乃の光を失くした瞳から流れる涙が脳裏をよぎり、奨の心をチクリと鋭い針が刺す。





【三、始まりと終わり】


---ずっと、奨君のこと好きでした……---


 八月の頭に鈴乃に呼び出され、そこで奨に告げられた鈴乃の想い。

 長いストレートの黒髪に大きな瞳、そして人形のように整った顔立ち。

 学年でもかなりの美少女に入る鈴乃からの告白。

 だが、奨が鈴乃に告げた返事は『NO』だった。


「ごめん……俺、好きな子がいるんだ」


 友達以上、恋人未満……常に周りの人間からそんな風に呼ばれていた奨と鈴乃。

 それくらい親密な関係だった奨への告白。

 鈴乃の中で奨の答えは『YES』以外ないと確信していた。

 だが、鈴乃の期待は裏切られ、奨の答えはまさかの『NO』

 大きく見開かれた鈴乃の瞳からスッと色が失われる。


「好きな子って、もしかしてめぐみちゃん……?」


 突然、自分の想い人の名前が鈴乃の口から飛び出し、奨の心臓が大きく跳ね上がる。

 香月愛こうづきめぐみ……奨の幼馴染であり、想い人でもある女の子。

 

「そうだよ」


「っ! そんな……そんなのっ!」


 奨の真っ直ぐで嘘のない言葉を聞いて、鈴乃は光を失った瞳から大粒の涙を流し、その場から逃げるように走り去る。

 鈴乃が去ったその場を奨は動くことが出来ず、ただ立ち尽くしていた。

 聞こえるのは、あちこちで好き勝手に合唱するセミの声。

 感じるのはジリジリと奨の心と身体を照らす夏の太陽の日差し。


「あちぃ……」


 呟く奨の瞳から次々と流れ落ちる『汗』。

 夏の始まりに、奨と鈴乃の関係は終わりを迎えたのだった……。





【四、縮まらない距離】


 鈴乃との一件を思い出し、奨の心は万力で締め付けられているかのように息苦しくなる。

 奨は大きく一度深呼吸をし、再び窓に飾られた風鈴を見る。

 風鈴を集めることが趣味だった鈴乃から、誕生日プレゼントに貰った淡い水色の風鈴。


『自分の名前に使われてるからかな? ついつい鈴……というか風鈴を見ると欲しくなっちゃうんだよね~』


 そう言いながら、楽しげに自分の部屋に飾られた風鈴コレクションを自慢する鈴乃の姿を思い出し、奨は大きなため息を吐く。

 あの一件以来、鈴乃とは一度も会っていない。

 会う勇気が湧かないまま、結局奨は悶々とした気持ちを引きずりながら、今日までの日々を過ごしていた。


「明後日、学校でどんな顔して鈴乃に会えばいいんだよ……」


 明日で終わる夏休み。

 始業式のことを考えると、正直奨は憂鬱で仕方なかった。

 すると突然部屋のドアが開き、奨の母親がドアの隙間から顔を覗かせる。


「あら起きてたの? 愛ちゃんから電話よ」


 そんな母親の姿を見て、奨はふと不思議な違和感に襲われる。


(あれ? 前にもこんなことあったような?)


 妙な既視感を感じ、呆ける奨。


「ちょっと奨、聞いてる! 愛ちゃんから電話!」


 母親の少し怒った声が耳に響き、奨はフッと我に返る。


「えっ? あ、あぁうん。今行くよ」


 曖昧に頷きながら奨はベッドを抜けだす。


「全く、まだ寝ぼけてるの? 明後日から学校なんだから、少しはそのだらしなくなった生活を直しなさい」


 小言を言いながらパタパタと一階に降りる母親を追いかけるように、奨も一階に降りる。

 奨はダイニングに入ると、保留中になっている電話の受話器を取り、保留ボタンを解除する。


「もしもし?」


『あぁ、もしもし如月君? おはよ!』


 夏休みに入ってから、一度も聞いていなかった愛の声を聞いて、奨の心臓が小さく跳ねる。


「あぁおはよ。どうしたの?」


「明日ね、クラスのみんなで夏休み最後の思い出作りに、みんなで肝試ししようって話しになってね。よかったら如月君もどうかな~って」


(? あれ?)


 またしても既視感に襲われる奨。


(如月、君?)


『……? もしもし? 聞いてる?』


「えっ? あ、あぁうん、聞いてるよ。肝試しだよね?」


『そうそう。で、どうする? 如月君も参加する?』


 正直、幽霊の類を全く信じていない奨にとって、あまり肝試しというイベントにそそられるものは無かった。

 だが、この不思議な既視感とどんな形でもいいから、少しでも愛と一緒にいたいという気持ちが、奨の首を自然と縦に振らせた。


「わかった、俺も参加するよ」


「了解。それじゃあ明日、夜八時に校門前集合で。それじゃあね!」


 奨の別れの言葉を待つことなく、受話器の切れる音がする。

 ツーツーと無機質な電信音が流れる受話器を置いて、奨は溜息を吐きながら自室へと戻る。


「幼馴染……ねぇ」


 家が近いこともあって奨と愛は幼稚園から付き合いがある。

 だがそんな長い時間を持ってしても、奨と愛の関係は『友達』の域を出る事はなかった。

 過去、少しでも愛との距離を縮めようとすると、決まって奨の頭はひどい頭痛を伴うノイズのような声に襲われた。


『メグミトコレイジョウナカヨクナルナ……』


『マタクリカエスキカ……?』


 いつも頭の中で、頭痛と共に脳を駆け巡るその二言。

 そのせいで、自分の想いとは裏腹に、奨は小学校に入ってから愛と距離を置くようになった。

 そして二人の距離は縮まることなく、小学校六年生になった今でも『友達』から抜け出せずに、現在に至っていた。


「ったく、好きな子に近づくと頭が痛くなるとか、なんの呪いだよ……」


 誰にもぶつけられない恨み言を言いながら奨は自室に戻り、壁に掛けてあるカレンダーに肝試しの予定を書き込む。


「えっと、『肝試し・夜八時・学校』っと……」


 カレンダーに予定を書き終えると、奨はふと強烈な睡魔に襲われ、そのままドサッとベッドに倒れこむ。


「そいえば最近、あまり眠れてなかったからなぁ……」


 愛の声を聞いて少し気持ちが軽くなったからだろうか、今まで溜め込んできた睡眠不足が波となって、奨をまどろみの闇に引きずり込んでいく。


「限……界……」


 リィーン……リィーン……。


 風鈴の子守唄にいざなわれながら、奨は久しぶりの深い眠りに落ちていった……。





【五、いつもの自分】


 予想していなかった展開に奨は何を話したらいいのか分からず、黙々と夜の校舎を鈴乃と二人で歩いていた。


(どうしてこうなった……)


 翌日、八月三一日。夏休み最後の日。

 約束通り、校門の前に八時丁度に訪れた奨。

 だがそんな奨を校門の前で待っていたのは意外な人物だった。


「あっ、奨君! 久しぶり!」


「鈴、乃?」


 にこやかに奨に手を振る鈴乃の姿を見て、奨は驚く。


「なんで、鈴乃がここに?」


 エンスト状態の脳をなんとか動かし、奨はやっとの思いでその一言を口にする。


「なんでって。わたしも誘われたんだよ、肝試し!」


 何を当たり前のことを、といった感じで鈴乃が笑顔で奨の疑問に答える。


「……他のみんなは?」


 一瞬『愛は?』と言い出しそうになるのを何とか堪え、奨は鈴乃に再び問いかける。



「順番で先にみんな学校の中に入ってったよ。わたしは奨君が来るのを待ってたんだよ! ささっ、わたし達も中に入ろ!」


 全く思考が追いついていない奨の手ををグイグイと引き、鈴乃は奨を連れて校舎を目指す。


「お、おい! そんなに引っ張るなよ!」


「もたもたしてたら、他のみんなに負けちゃうよ~!」

 

 ……こうして奨は、頭の整理も何も出来ないまま、鈴乃に手を引かれ肝試しに臨むこととなり、現在に至っている。

 カツ……カツ……と二人分の足音が夜の校舎にこだまする。


「なぁ鈴乃」


 沈黙に耐え切れず、奨は思い切って鈴乃に話しかける。


「なぁに?」


 ご機嫌な様子で鈴乃が返事をする。


「この肝試しって何をしたらクリアなんだ?」


 なんの説明もルールも受けていないまま肝試しに参加した奨は、この肝試しがどういった条件で行われているかを鈴乃に確認する。


「わたし達の学校って、有名な七不思議があるでしょ? そのスポットに行って、そこに隠されたお札を取ってくればいいみたいだよ」


「なるほど」


 よくあるベタな肝試しルールに奨は小さく溜息を吐く。


「で、俺達はどこの七不思議スポットに行けばいいんだ?」


「わたし達が行くのは『紅桜くれないさくらの木』だよ」


 あまりオカルトに興味のない奨は、クラスメイトが話していた七不思議の話を記憶の中から捻りだす。


「紅桜の木って、確かあれだろ? その木で首を吊った人間の血を吸って、何とかっていう……」


「そうそう。首を吊った人間の血を吸って、真っ赤な花びらが一斉に咲くんだって! 凄いよね!」


「凄くねぇ! むしろおっかないだろ!」


 興奮気味に話す鈴乃の言葉に、奨はツッコミを入れる。


「あっ! ふふっ、やっといつもの奨君になった」


 そんな奨の姿を見て、鈴乃が嬉しそうに笑う。


「いつもの? あぁ……」


 いつもの奨……あの鈴乃の告白より前の自分が鈴乃に接していた姿を思い出し、奨は納得する。


「校門の前で会ってから、奨君ずっと暗い顔のままなんだもん。でもやっといつもの奨君になったね!」


「鈴乃……。その、なんかごめん。それと、色々ありがとな」


 鈴乃の自分への気遣いに懐かしい温もりと、少しの後ろめたさを感じながら、奨は鈴乃に謝罪と感謝の言葉を告げる。


「いいんだよ、奨君は気にしなくて! 奨君は何にも悪くないんだから。悪いのは……」


 うなだれる鈴乃を見て、奨は思わず鈴乃の小さく柔らかい手をギュッと握る。


「えっ……!? 奨君?」


「他の奴に負けちまうんだろ? ほらっ、ささっと行こうぜ!」


 照れている自分を悟られないよう、奨は少々ぶっきらぼうにそう言い、先ほどとは逆に鈴乃の手を引きながら、紅桜の木を目指す。


「うん!」


 後ろで嬉しそうな声を上げながら、奨の手を鈴乃が強く握り返す。


「あっ、それとね奨君」


 ふと、何かを思い出したように奨に手を引かれながら、鈴乃が口を開く。


「ん?」


 鈴乃は言った。とても楽しそうに……とても嬉しそうに……。


「わたし、奨君にプレゼントを用意したんだ!」


 リィーン……リィーン……。


 奨の頭に、あの夢で見た風鈴の音が響いた。





【六、鈴乃からの贈り物】


 リィーン……リィーン……。


 紅桜の木に到着し、最初に奨の目に飛び込んできたのは大きな『風鈴』だった。

 

 リィーン……リィーン……。


 風に揺れ、奨の視界をクルクルと流れながら首に巻かれた鈴を鳴らす『風鈴』


「め、ぐみ……?」


 不自然に折れ曲がった首。

 だらりと伸びた舌。

 虚ろな瞳。

 夏の生暖かい風が再び『風鈴』という名の愛の屍を揺らす。


 リィーン……リィーン……。


 ユラユラと左右に小さく揺れながら、愛が死の旋律を涼やかに奏でる。


「あ、あ、あ……」


 窒息した金魚のように口をパクパクさせながら、奨が膝から崩れ落ちる。


「あれ~? 真っ赤な花びら咲いてないね」


 膝立ちをし、放心している奨の背後で、この場に似つかわしくない素っ頓狂な鈴乃の声が聞こえ、奨はゆっくりと後ろを振り向く。


「おかしいな~。折角、奨君と真っ赤な花びらが咲いてるところ見られると思ったのに」


「鈴乃……?」


「ごめんね奨君! わたしからのサプライズプレゼント、失敗しちゃったみたい!」


 まるで料理でも失敗したかのように、チロッと舌を出し恥ずかしそうな顔をしながら、奨に向かって鈴乃がゆっくりと歩いてくる。

 そのまま奨を追い越すと、今も紅桜の木に吊るされ、ユラユラと揺れている愛の足元で鈴乃は立ち止まり、愛を見上げる。


「折角、わたしと奨君のムード作りに使ってやったってのに……ホント、最後まで使えない女」


 今まで奨が聞いたことがないほど冷たく冷淡な声で、鈴乃は揺れる愛に吐き捨てるように言い放つ。


「ていうか、いつまでわたしのこと見下ろしてんのよ! 不愉快ね!」


 そう言うと、鈴乃が乱暴に愛の足首を掴み、力任せにグイグイと引っ張る。

 その度、愛の首はゴム人形ようにメリメリと嫌な音を立てながら、不自然に伸びていく。


「やめろ……やめろ鈴乃!」


 鈴乃が何をしようとしているかを理解し、奨が鈴乃を止めようとする。


「っ!?」


 だが、立とうとした奨の膝は完全に笑っており、そのまま奨の身体は再び地面に崩れ落ちてしまう。


「なんだよ! ビビッてんのかよ! くそっ、動け! 動けよぉ!」


 自分の太ももをバンバンと叩きながら奨が叫ぶ。

 するとそんな奨の様子を見た鈴乃が、愛の足を引っ張りながら奨に振り向く。


「大丈夫だよ奨君、もうすぐ終わるから……。そう、奨君は何も悪くない。悪いのはみんなこの女! みんなみんな、この女のせいなんだから!」


 更に力を込め、グイグイと愛の足を鈴乃が引っ張る。

 愛の首は既にありえないほどに伸びきっており、鈴乃が愛を揺らす度、その首の鈴が奨をあざ笑うかのように涼しげに絶望の唄を奏でる。


 リィーン……リィーン……。


 鈴の音に混じって、メリメリと不快な音を鳴らしていた愛の首が、ミチミチと肉を引きちぎる音に変わる。


「やめろ……やめろぉ!」


 一向に震えが収まる気配のない膝を叩きながら、奨が叫ぶ。


「あはは♪ これで……終わり~!」


『ミチミチミチッ……』


「やめろぉぉぉ!!」


『ブチッ!!』


 ……ゴンッと鈍い音が響き、『愛』が地面に落ちる。

 『愛』はコロコロと地面を転がり、目を見開いたまま放心している奨の太ももにコツンと当たる。


 リィーン……リィーン……。


 その衝撃で愛の首についたままの鈴が、奨の足元で唄を奏でる。


 リィーン……リィーン……。


「なんなのこの女! 首だけになってもまだ奨君に言い寄るなんて! ホント図々しい!」


 生ゴミを捨てるように『愛だったもの』を無造作に地面に投げ捨て、人形のように整った顔を醜く歪めながら、鈴乃が奨の足元に転がる『鈴』を踏みつける。


「奨君はわたしだけのもの……あんたになんか渡さないんだから!」


 奨の頭の中でプチンッと糸が切れたような音がする。


「うわぁぁ--っ!!」


 気付くと奨は鈴乃の飛びかかっていた。

 そのまま鈴乃の細い首を掴み、雑巾を絞るかのように力任せに締め上げる。


「なんで! なんで! なんでっ!!」


 狂ったように叫びながら、奨はグイグイと親指を鈴乃の首にめり込ませていく。

 首を力任せに締められ、だらしなく舌と唾液を垂らしながら鈴乃は……笑っていた。


「こ、れで、奨君、はもう、わたし……のこと忘れ、られない、よね? あはは……う、れしい……な」


 ビクンッと鈴乃の首が跳ねる。


「うわぁぁぁぁっっ!!」


 ……ボキッと、奨の手に太い木の枝を折ったような感触が走る。 

 鈴乃の首から手を離す。

 ガクンッとくの字に曲がる、笑い顔の鈴乃の首。

 奨は自分の両手を見る。

 鱗にまみれた自分の両手。

 奨は全てを思い出す。

 真実の鏡……鱗の化け物……そして……。


---俺が、愛を殺した---




【七、???】


『また失敗でしたか』


 ……。


『前回の教訓を生かして、今回はなるべく愛さんに関わらないようにしたというのに』


 変えられなかった……死の運命を。


『……どうするんですか?』


 続けるに決まってる。


『でしょうね』


 …………。


『ですが、残念なお知らせがあります』


 ……?


『あなたの寿命、後コイン一枚分しか残ってませんよ』


 ……そんな!?


『コイン一枚の値段があなたの年齢分の寿命』


 ……。


『既にあなたは四枚のコインを使いました』


 ……。


『あなたの寿命にして四十八年分です。そしてここでコインを買えば、寿命六十年分。今の年齢と合わせて、本当はあなた七十二歳まで生きられたんです』


 何か方法はないのか?


『残念ですが寿命を戻す方法はありませんよ』


 違う。


『?』


 愛を救う方法だ。


『あぁ……』


 後チャンスは一回しかない。


『……』


 頼む、教えてくれ。もう、愛の死ぬ姿は見たくない。


『……』


 これは未来を変えるアイテムなんだろ? だったら!


『……しょうがないですね』


 教えてくれるのか!


『最後ですし、今回だけ特別ですよ』


 ありがとう!


『愛さんを救う方法ですが』


 ああ。


『それは……』



 第二章鈴の音、風鈴の君』~完~

 如何だったでしょうか?


 時に真に恐ろしいものは怪物でも幽霊でもない。もしかしたら、あなたの隣にいる親しい誰かなのかもしれません……。


 というわけで連作第二章でした。

 次回は【転】 投稿は8月10日(土)になります。

 その名の通り、物語も新たな展開を見せ始める……予定です(汗


 第三章も、もしお時間がございましたらお立ち寄り頂ければ幸いです。

 それでは、ご読了ありがとうございましたm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 奨は、コインを使い切ったらどうなってしまうのだろう。 それでも愛を救いたい。 救われて欲しい、二人とも。 【転】に期待します。
[一言] 拝読いたしました。 あまりにも一途な想いは人を狂わすのですね。奨にしろ鈴乃にしろ、想い過ぎた狂気が相手に向かってしまうことに怖ろしさを感じました。 この世で一番恐ろしいのは人間ですね。 コイ…
[一言] いよいよ物語の全貌が浮かび上がってきましたね。 いや個人的にはもう鈴乃のヤンデレ無双だけで大満足の読後感なのですが。 そう、ヤンデレは愛。愛ゆえに悪鬼へと身を堕とす少女の姿……実に美しいもの…
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