プロローグ
広いコートの中に俺たちは今、確かに立っている。観客の声援が響いて、身体が疼いてきた。高い天井からはまぶしい位の光が俺たちを照らしている。求め追い続けてきた夢をつかむ第一歩が、やっと始まるんだ。
ふと隣を見ると、まっすぐ前だけを見つめる姿がそこにはあった。
―――俺を、ここまで連れてきてくれた大切な友人。たぶん、俺はこいつに感謝してるんだ。
「お前、バレー好きだろ」
あの日、桜が風に舞う中で言ったお前の言葉が、迷っていた俺の気持ちに出口をくれた。バレーを諦めていた俺に、バレーをくれた。大げさかもしれないけど、お前がいなかったら俺は今頃つまらない人生を送っていただろう。
そんなことを思っていると、俺の視線に気づいたのか、こちらに目を向けてきた。
「おい、何ボーッとしてるんだ?大丈夫か?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと緊張してるだけ。」
お前と初めて会った日のことを思い出してたんだ、とはさすがに言えない。「ふ~ん」と間の抜けたような返事をして、またネットの向こう側を見つめる。そういえば試合前の集中力がハンパなかったな。
「なぁ。」
試合直前だというのに、珍しく話しかけてくる。集中しきれていないのだろうか。心配だ。
「なんだ?なんか心配事でもあるのか?それなら早く監督に・・・」
「日本一、なろうな。」
その瞬間、俺たちの周りだけ時が止まった気がした。思わず笑ってしまうほど真剣な言葉に「その言葉にそれほどまで執着するのはお前ぐらいだよ」と言いながらも、心の中では表彰台のてっぺんで、こいつと笑い合いながら肩を組む姿を想像していた。
こいつとなら。今のチームなら。
夢を見るだけで終わらせるなんて、つまらない。夢は叶えるためにあるもの。
仲間の顔を見回すと、皆やる気に満ちた顔をしていた。そうか、皆同じ気持ちか。
観客の声援がひときわ大きくなった。
「始まるな。」
「おう。」
短く言葉を交わし、目を閉じる。大丈夫。俺たちは最高のメンバーだ。
ホイッスルが鳴った瞬間、口がにやけてしまったことは秘密だ。