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物書きさんの50のお題:12

 12、幾何学


 微妙な季節だった。

 ホットもアイスも、十分に美味しい季節である。

 しばらく逡巡していた少女であるが、机を挟んで向かい側に座る男がアイスティーに決めると、同じ物を注文することにした。

「先輩と2人で喫茶店に入る機会がこんなにも早く訪れるなんて思ってもみませんでしたよ」

 元気いっぱいに切り出す少女。

「そうか」

 男は必要最低限の言葉で答えた。

「いくら文化祭が近いからといっても、会長さんに、休日を返上して買い出しだ! なんて言われたときはついつい殺気だってしまいましたが、先輩と一緒なら毎日だって買い出しに行っちゃいますよ! それに生徒会の依頼ですから移動費だって学園が持ってくれます! お得ですね!」

「そうだな」

 会話が一瞬で終わる。

 先ほどからだいたいこんな今時だった。しかしこの男は普段からこんな様子であるので、少女は何とも思わなかった。

「うわぁ! 見てくださいよ先輩! このお砂糖、可愛いです!」

 目を輝かせた少女の視線の先に、サッカーボールの半分ほどの大きさをした、丸い透明なガラスケースがあった。ケースの中では、白と茶色の角砂糖が詰め込まれ、キラキラと輝いている。

「いいですねー。こういうのって、幾何学的模様っていうんですかね?」

 少女の言葉に、男は僅かに眉を潜めた考えた。

「幾何学的模様というのは一般に、同じ図形を複数つなげた物だが……」

「はい! ですから同じ立方体の物を複数詰まったこのケースは……。あ、あれれ? でも幾何学的模様ってフラクタルみたいなやつですよね……? じゃぁ少し違いますかね」

「難しいところだな。広義で言えば直線と曲線で描いた模様はすべて含まれてもおかしくない」

 無表情で答える男。少女は腕を組んでうなり始める。

「むー……。というかそもそも幾何学ってなんですか?」

「ある程度姿が変わっても、それがそれだと分かること、らしいな」

「えっと? よく分からない……ですね?」

 少女は首を傾げた。

「氷や水、水蒸気は形は違うが、本質は全て水。そいういうことだ」

 分かるような、分からないような。少女は暫く悩んでいた。

「それが幾何学ってことなのですか?」

「さぁな、俺も受け売りの知識だ。詳しく調べた訳ではない。ただ本質が分かっていれば、外見が多少変化しても惑わされることはないという考え方は共感出来る」

「……なるほど、です」

 ストローに口をやって、紅茶を吸い上げる。

 幾何学、というよりは哲楽に近いな、とか考えながら少女は何気なく窓の外を見た。

「——っな!」

 言葉を失った。

 そこを1匹のクマが歩いていた。

 当然、こんな人里にクマが降りてきた訳ではなく、クマの着ぐるみである。しかし近くにテーマパークなどはなく、明らかに場違いな存在だった。

 周囲の人達も訝しげな瞳をクマに向けては、なるべく関わらないように足早にクマを抜いていく。

「どうかしたか?」

 硬直させた少女に気づき、男が視線を追う。

 何事にも物怖じしない男だが、流石に言葉を失ったのか、ピタリと体が止まった。

「あの男は何を考えている……」

「へ? 先輩? あの男って……?」

 突然立ち上がった男に、少女は困惑した。

「ここまで馬鹿な本質を持った男は一人だ。すぐ戻る」

 それだけ告げると、カツカツ靴を鳴らせて店から出ていった。

 何処へ行くのだろうか、と思いながら窓ガラス越しに男を見守っていると、あろうことかクマの頭に手を回し、そのまま頭の着ぐるみをもぎ取った。

「うぉ!! テメェ何しやがる!! っつかなんでこんなとこにいやがんだ!」

 窓越しでも怒声が聞こえた。それは聞き覚えのある声で、少女は思わず目眩を覚えた。

「貴様こそ、こんな場所で何をしている」

「買い出しに決まってんだろ! 俺だって文化祭準備でいろいろと忙しいんだぜ! だいたい誰だよこんなクマが欲しいとか言った奴は! とりあえず勝ったが、がさばって持ち運べねぇんだよ!」

「そんな理由で貴様はそんなふざけた格好だったのか?」

「おう! 季節的にも真夏じゃねぇからな、それにこれなら両手が空いてまだまだ買い出し作業が続けられるぜ!!」

 窓越しに2人の会話を聞いていた少女。

「あはは……」

 乾いたように笑い、天井を仰いだ。

「物事の本質が分かると、多少形が変わっても惑わされることがない……」

 少女は先の男の話を思い出した。

 そしてパタリと机に突っ伏した。

「……無理です」

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― 新着の感想 ―
[一言] 書き方的に好きなのですが…なぜバラけて書いているのでしょう?一つの作品にまとめて、連載の形式で、お題をしたほうがо多分評価ももらえるようなоもったいない気がしますоそれに、見る側も楽ですしо…
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