X'mas night(星の継承者・小外伝)
基本的に未来設定ですので軽くネタバレしてます。
第3部「想い出の領域」第3章「皇帝、来訪す」にて皇帝、衛が地球に来訪した後のifストーリー。
本筋からは微妙にズレてますので、ある意味でパラレルとして読んでみてください。
同居人が増えてから初めてのクリスマス。
今までそういうイベントとは無縁だった遠夜は、皇帝、衛を相手に「クリスマス」について熱く語る羽目になっていた。
「だからあ。物凄く大雑把に説明するとキリスト教っていう宗教関連の行事で、イエス・キリストが誕生したことを祝う日だよ。つまりキリストの誕生日」
「どれだけ重要な人物か知らないが、大昔に生まれた者の生誕を何故、後世の者が祝わなければならない?」
「しかも何故祝い事の日だからといって、家族でパーティーをしたり、恋人同士で過ごす記念日扱いされるんだ?」
納得できないという衛と翠に遠夜の方が納得できない。
ふたりがここまで理解しない理由がわからないのだ。
お互いに譲れない主張をぶつけ合っていると、お茶の準備を終えた海里が戻ってきて口を挟んだ。
「遠夜君。陛下方が納得できないのはね。故郷では皇帝陛下のお誕生日すら祝祭日にはならないからだよ」
突然の声に遠夜は彼を振り向いて問いかけた。
「どうして? 普通、治世者の誕生日なら」
「うん。普通ならそうなんだけどね? 故郷では皇帝陛下のお誕生日イコール前の皇帝陛下がご崩御された日だから」
「あ」
ようやく理解した。
当代の皇帝の誕生日すら祝わない世界で産まれ育った衛たちにしてみれば、縁もゆかりもない何千年も前に産まれた人物の誕生日を祝うという習慣が理解できないのだ。
この辺は常識の違いだろう。
「まあ兄上も翠も、そんなに深く考えないで楽しめばいいんじゃないですか?」
それまでひとりのんびりと寛いでいた樹がそう言った。
「しかしだな」
「そんなことを気にするより、父として紫苑のクリスマスプレゼントを考えるべきなのでは?」
「クリスマスというのはプレゼントを贈る日なのか?」
「普通の親子ならするでしょうね」
樹の発言に衛が突然立ち上がった。
「こうしてはいられない。すぐにプレゼントを用意するために出掛けるぞ。大地。運転手を頼む」
「畏まりました」
答えた大地を引き連れて翠を護衛に衛は出ていった。
見送って樹は小さく笑っている。
「じゃあ、ぼくも席を外そうかな。プレゼントの準備もあるし」
「樹。あんまり気にしなくていいからな?」
「そうはいかないよ。これはぼくの気持ちの問題だからね」
「ホントに気にしなくていいのに」
遠夜は重ねてそう言ったが、樹は笑いながら出ていった。
残された遠夜は海里と顔を見合わせた。
「なんか大事になっちゃった」
「そうだね。それだけ皆さんきみのことを大事にしているんだと思うよ」
「嬉しいんだけど、なんか照れる」
「パーティーが始まったら、渡せるかどうかわからないから、ぼくのプレゼントは今渡すね」
「はい」と手渡されたのは包装紙に包まれ、赤いリボンのついた大きな箱だった。
「ありがとう。開けていい?」
「いいよ」
答えを聞いて包装紙を丁寧に開けていく。
「これ……」
「出過ぎた真似かな? とは思ったんだけどね。きみの境遇を思うと手元に残らない可能性も高かったから」
懐かしい。
そんな気持ちに満たされる。
今は手元に残っていない父や母が生きていた頃の写真。
撮影したのは海里なのだろう。
平凡な家族風景がそこにある。
自然と涙が溢れた。
「陛下の御前ではとても渡せないから。……渡さない方がよかった?」
「ううん。嬉しいよ。写真なんて残らないと思ってたから。ありがとう。海里先生」
泣きながら遠夜は思う。
海里は本当に遠夜が子供の頃から見守ってくれていたのだと。
産まれたばかりの頃から年齢順に写真が並んでいる。
渡せるかどうかわからないのに、こうして準備していてくれた。
感謝してもしたりない。
クリスマスパーティーの後で、こっそり海里にだけは手作りのプレゼントを贈ろう。
そのとき言うんだ。
「今まで見守っていてくれてありがとう」って。
初めて真実の自分と向き合ったクリスマス。
これは過去を振り切るためにも、必要不可欠なプレゼントだ。
いつか大事な想い出になる日まで大切にしていよう。
過去の記憶が心を傷付けても乗り越えていけるように。
(完)
クリスマスの挿話でした。CP要素はなしで。
この後、樹と衛も精一杯悩んだプレゼントを渡しますが、海里のインパクトには敵わず完敗します。
これは産まれてから、ずっと傍で見守り続けた海里にしかできないプレゼントです。
本編には話の流れ的に入れられないエピソードなので。
お目汚し失礼しました。