帰省
肝試しに行かなかったらを再度アップしました。
俺は肝試しに行かなかった。
…………
東京に就職して2年が経った。
職場はいわゆるブラック企業で連日の残業や休日出勤で正直ボロボロになっていた。
「ただいま」
俺は2年ぶりに実家に帰省した。
疲れた体に鞭打っての帰省だ。今回、どうしても帰省しなければならない理由が俺にはあった。
「おかえり」
家の奧から声がかえってきた。母さんの声だ。
俺は手荷物を玄関に降ろすと靴を脱ぐ。
「昼食はとったか?」
「食ってない。何かあるの?」
「昼の残りの冷し中華なら冷蔵庫にあるよ」
「じゃあ。貰うわ」
母さんの言葉を受け、俺は台所へと向かう。
…………
俺が帰省しなければならない理由。
それは……2日前に母さんからの電話。 内容は幼馴染みの訃報と葬儀の日程についてだった。
…………
「よお。久しぶり」
幼馴染みの通夜の帰り、背後からかけられた声に振り返る俺。
そこには同級生の男女。2人とは小中と一緒であったが中学卒業ぶりとそんな関係性である。
ちなみに幼馴染みの訃報を母さんに連絡してくれたのはこの2人である。
「お前は確か矢田と仲良かったよな。なんと言うか……元気たせよな」
矢田。本名【矢田アキラ】は今回亡くなってしまった幼馴染みの名である。
「矢田まで……」
「どうした?」
「なんでもないよ」
台詞に引っ掛かるものを感じて俺は問い返すが2人は曖昧な表情を浮かべ、首を力無く左右に振る。
何だ?
俺は2人の様子が気になり更に問いかけようと口を開こうとしたところ、
「じ、じゃあ。
俺等は用事あるからもう行くな!」
「またね!」
俺の返事も聞かずに2人は歩き出す。小走りで……
「変なやつらだな」
釈然としないまま俺は再び歩き始めたのだった。
……………
「おーーい」
足を止める俺。矢田の通夜式場の敷地を経ちしばらくしてのことだった。
今日はよく声をかけられるな。そんなことを考えつつ振り返る。
「久しぶり」
そう言いながら走り来る人達。
人数は3人。男が1人に女が2人。
誰かは顔を見てすぐにわかった。男は山元秀一。女は咲野佐奈と野々島桜だ。
小中高と続く腐れ縁の幼馴染みでこの3人と俺に矢田……そしてこの場には居ないがあと1人の6人でよく集まって遊びまわっていたものだ。俺が東京に出てから疎遠になってしまった。
「マジで久しぶり」
俺は懐かしい顔ぶれに挨拶を返す。
3人は足を止め、
「なあ。俺等これから飯行くけどお前もどうだ?」
山元が俺を誘う。
飯に誘う3人の様子に違和感を感じた俺は違和感の正体を知るために3人の様子を観察する。
普段と変わらない。明るすぎる。
3人を見て、そう俺は思った。幼馴染みが亡くなったのに3人からは少しも寂しさや悲しさが感じられないどころか、 むしろ……気合いの入った私服コーデからは……浮かれた雰囲気さえ感じられる。
3人を見ていると何故か不安になってくる。
「…………」
「久しぶりに話したい事も有るしさ」
「積もる話しもあるしね。いいでしょ?」
……………
「どうした?」
山元が俺を見つめて言った。
あの後、俺は3人に押しきられ町で唯一のファミレスに来ていた。
ファミレスの入口で立ち止まった俺に気付いた山元が訊ねたのだ。
俺はポケットからスマホを取り出し、
「電話がきたみたい」
ディスプレイに目を向け、相手を確認する。
「わりぃ。先に入っててくれ」
「わかった」
山元の言葉を聞いてから俺はその場を離れ、通話をはじめた。
……………
5分後。
「何だ。先に入っててくれてよかったのに……悪いな」
通話を終らせ、店に戻ると3人は中に入らずに俺が来るのを待っていてくれた。
3人は俺の言葉ににっこりと笑い、咲野が口を開く。
「4人じゃないとね」
こくりと頷く山元と野々島。
「いらっしゃいませ。
いち……4名様ですね。こちらへ」
俺達の来店に気が付いたスタッフの女性が歩み寄り人数を確認して席へと案内する。
「ではご注文はこのタブレット端末でお願いします」
……………
俺達は注文した料理を口に運びながら昔話に花を咲かせる。今日という日のせいか話は矢田との思い出話が多い。
俺は咲野の話しに苦笑すると天井を見上げてしみじみとつぶやく。
「懐かしいな。
矢田マジで早すぎだよ」
天井から視線を矢田との思い出を語る咲野に視線を移し、
「咲野。その……なんだ。矢田のことは……」
咲野に声をかけようと言葉を探すもかける言葉がうまくまとまらない。
咲野は矢田の彼氏なのだ。虚空を見つめて矢田との思い出を語る彼女の姿に苦しくなる俺。そんな俺の気持ちとは裏腹に咲野はあっけらかんとした口調で、
「私は大丈夫よ。彼とは……いつでもあえるから。うふふふふ」
言って恍惚な表情を浮かべる。
そんな彼女の様子に不安になる俺。精神的に相当まいっているようだ。
話題を変えよう。
そう思い口を開きかけると山元が先に声をあげる。
「なあ、みんな肝試しに行かないか?」
…………何故に肝試し。
チョイスが最悪じゃないか?
山元からの予想の斜め上に吹っ飛んで行く提案に絶句する俺。
この雰囲気で肝試しなんて提案するか……普通。
俺はドリンクバーのメロンソーダをひと口飲み、おそるおそる咲野と野々島の2人の様子を確認する。
野々島はともかく見るからに情緒不安な咲野の反応が怖い。
「…………」
視線の先の咲野はニコニコと微笑み。コクコクと頷く。その隣で野々島も咲野と同じ表情を浮かべ、
「いいわね」
と。賛成する。
マジか……
3人の視線が俺に集まる。
俺の返事を待って居るのだ。
「悪い。
明日、用事あるから俺はパス」
「なんだよ。久しぶりなんだしつきあえよ」
「本当よ。付き合い悪いわよ」
「一緒に行こうよぉ。怖いの?」
俺を説得しようと口々に言葉を並べる3人。
だが、どんなに説得されようと無理なのだ。
「マジで無理なんだよ。
さっきの電話さ。フーちゃんからで先約有るんだ。明日の朝市デート。行ったら遅刻確定するから……また今度な」
フーちゃんとは幼馴染みの最後の1人で俺の彼女だ。
『…………』
俺の言葉に3人の表情が無表情に変わり、じっと俺を見つめる。
数分後……
場の雰囲気に耐えきれず俺は逃げるようにファミレスを後にした。
……………
俺は欠伸をかみ殺して早朝の漁港を見渡した。隣にはフーちゃん。
「眠そうね」
「朝早いからな。普段ならまだ寝てる。
この食堂。何故こんなに早い時間なんだよ」
「元々は漁師さんの為の食堂だからね」
フーちゃんは食堂に並ぶ行列を見つめて俺のつぶやきに答える。
彼女の言う通りこの食堂は漁港が漁を終えた漁師の為に運営していた施設であったが、村おこしの一環として一般にも去年解放したのだ。
「しかし、矢田君まで……」
空を見つめてポツリとつぶやくフーちゃん。
…………ん?
昨日の矢田の通夜の時から度々引っ掛かる台詞に俺は首を傾げて。
「なあ」
「何?」
「その矢田もって何だ?」
フーちゃんは俺の問いに驚きの表情を浮かべ、
「知らないの?」
「何が?」
フーちゃんの言葉に問い返す俺。
彼女は俺を数秒間じっと見つめてから視線を外し、驚くべき言葉を放つ。
「そっか。知らなかったんだね」
「?」
「あの3人。
山元君と咲野さんに野々島さんね。去年から行方不明なの」
「………………は?」
フーちゃんは俺の左腕にしがみつくと再び話し始めた。
「スマホもつながらないの。どこに……無事かな?」
「俺。昨日、3人に会ったぞ?」
「ふぇ?」
目を丸くするフーちゃん。
驚く彼女に俺はポケットからスマホを取り出し、
「スマホ。番号変わってたから登録し直して……」
山元の番号を呼び出し電話する。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
機械音のアナウンスがスマホから流れる。
「え?」
昨日は確かにつながったのに……
俺は慌てて咲野と野々島の番号に連続でかけ……
「使われていない?」
スマホの液晶画面を見つめて呆然とする。
「どう言うことだ?」
昨日の山元達はいったい……
いくら考えても答えをみつけることはできなかった。
そして、昨日。
俺が3人の誘いに乗って肝試しについて行っていたら……どうなっていたのだろうか?
……………
「うふふふふ」
笑う。
「彼は私のものよ。誰にも渡さないわ。いくら彼等でも……ね」
最後までお読みいただきありがとうございます。
足りない頭で伏線とかいろいろと仕込んでみましたがどうだったでしょうか?
幼馴染みの3人とフーちゃんの正体は……いろいろ想像できる終らせ方にしてみました。よろしければお読みいただいて皆様の見解を教えていただければと思います。




