追憶の真昼時
初めて魔法を目にした少年は、これ以上もないほど瞳を輝かせて手を伸ばす。自身が石ころでつまずいて怪我をしたこともすっかり忘れて、空中を漂う水と戯れた。
傷口を綺麗にするため作り出したはずなのだが、と魔法使いの子どもは溜め息を吐く。
「きめた!おれ、大きくなったらまほうつかいになる!」
「えっ?」
子どもは大きな水色の目を見開いて心底驚いた顔をした。
何故なら魔法使いは、魔法使いの一族しかなれない決まりがあったのだから。一族の子である子どもとそうではない子どもには、体内に魔力を保有しているか否か、という根本的な問題があった。
けれども、それ以上に感情的な理由から魔法使いは首を横に振る。
「まほうつかいなんか、ならなくていい」
「どうして?」
魔法使いの一族は、魔法使いになれる。それは事実であるが、それがつまり必ずしも魔法使いにならなくてはいけないわけではなかった。
ただひとり、一族の中でも巫子の子どもを除いては。
「まほうつかいになりたくないの?」
「なりたくないよ。だって、わたしのおやくめは……」
目を伏せる子どもは、それ以上を語らない。
「だったら!きみのかわりに、おれがまほうつかいになってあげる!」
「え……そ、そんなの」
「それでね!おれがまほうつかいになったら、きみをしあわせにするまほうをかけるんだ!」
魔法使いの子どもの瞳にが、少年を映し出した。まだ小さな手の、小指の先で結んだ約束を忘れる日が来ることはないのだろう。
淡い記憶となってしまった、真昼時に交わした約束。
たとえきみが忘れていたとしても、世界中の誰よりも俺はきみの幸せを願っているから。
こちらの方に単語の解説とか置いていけたらいいなと思っております。