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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第27章 戦いの果てに

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戦いの果てにⅢ

 それと同時に大量の赤が舞う。視線を落とすと、あるべき筈の剣の姿も消えている。

 こんなことは、あってはいけない。救える筈の命も消えてしまう。

 咄嗟にクラウの身体に抱き着き、ワープを試みる。あのダイヤの会議室をしっかりと思い浮かべた筈だった。それなのに、ワープが出来ない。二回、三回、それ以上、何回も試しても駄目だった。

 百年前のあの時が思い返される。影を倒した後、ヴィクトにワープを促された。しかし、いくら念じてもワープは叶わなかった。

 きっと呪いの影響だ。確実に私を仕留める為に、魔法が使えなくなっているのだ。嫌だ。こんなの、絶対に認めない。悔しくて涙が溢れる。

 そんな時、クラウが呻き声を上げたのだ。ゆっくりと瞼を開け、私の顔を見詰める。


「ミユ……」


「クラウ!」


「無事……?」


 こんな時にまで、私の身を案じるなんて。


「私は……大丈夫だから……!」

 

 大きく頷いてみせると、クラウはにっこりと微笑むのだ。痛くて、苦しくてどうしようもない筈なのに。きっとクラウなりの、精一杯の笑顔なのだろう。


「良かっ……た……」


 何も良くなんかない。大粒の涙が私の心を表すように流れ落ちる。


「ミユ……?」


 クラウは眉をひそめると、右手をこちらに差し伸べようとしてくれる。その手は震え、心許ない。

 私も手を取ろうと左手を伸ばす。しかし、触れるか触れないかというところで、握る前に私の手を擦り抜け、力なく地面に横たえられたのだ。

 慌てて顔を見てみると、柔らかな笑みを湛えたまま、瞼は静かに閉じられていた。


「クラウ?」


 嫌だ。こんなの、認められる筈がない。


「ねえ、起きて! 起きてよぉ……!」


 クラウの身体を抱き寄せ、その胸に縋りついた。その時に、確かに聞こえたのだ。小さな呼吸音が。まだ生きている。このまま死なせる訳にはいかない。小さな希望が強い光となって私を突き動かす。


「アレク! フレア! お願いだから、来てぇ!」


 百年前のように矢が降ってくるのなら、三人を巻き込みかねない。カノンを救おうとしたリエルさえ巻き込まなかったことを忘れ、クラウから離れ、距離を置く。


「クラウはまだ助かるから! 早くダイヤに帰してあげてぇ!」


「ミユ! オマエは何しようとしてる!?」


「私は……。私は……!」


 ごめんなさい。

 私の名を呼ぶアレクとフレアに返事をすることもなく、誰もいない花畑へと走り出す。殺すなら、私だけを殺せば良い。走って、走って、数十メートル離れると、ようやく足を止めた。

 来るであろう物に怯むことなく、澄み渡った天を睨みつけた。と言いたいところだけれど、やはり怖い。足も、手も震えている。

 それから間もなくだった。空気を引き裂き、嫌な高音を発しながら矢が迫る。それは私に当たる事なく、地面へと突き刺さった。


「やだなぁ。死にたくないんだけど……」


 後退り、呟いた。

 声が震えている。両目から水が滴り落ちる。


「でも、ごめんね。私、駄目みたい」


 せめて、三人は幸せに寿命を全う出来ますように。祈りながら、堪らずにしゃがみ込んだ。

 矢が次から次へと降ってくる。そのうちの一本は右太腿を掠った。


「今度は千年……待たせちゃうのかなぁ……」


 また地球へと転生出来なければ、そうなってしまうのだろう。


「クラウ、ごめんね」


 何より、たった一人遺されるクラウが不憫で仕方がない。

 出逢ってから今までのことが思い返される。

 優しくされても、訳が分からずに突っぱねてしまったこともあった。不安や不満をぶつけてしまうことだってあった。イライラして当たり散らしてしまうことだってあった。それなのに、優しい眼差しは一切変わらなかった。

 どうして呪いなんかかけたのだろう。殺すだけでも十分なのに。嘆いても現実は変わらない。

 そして、一本の矢が私の胸を射抜いた。


「あッ……!」


 煮え滾るような熱さと壮絶な痛みが私を襲う。耐え切れずに、地面へと倒れ込んだ。

 想像していたよりも、ずっと苦しい。両手で胸を押さえつけ、必死に酸素を求める。それでも、酸素が足りない。目が霞む。

 天を仰ぎ見て、ああ、空が青いな、と思った。


 異世界に飛ばされた時は、今すぐに日本へ帰りたいと思っていました。

 でも、そんな思いは貴方のせいで搔き消されました。

 いつの間にか、胸は高鳴り、貴方の事を目で追うようになっていました。

 私も同じ気持ちです。

 貴方の事を愛しています。

 だから、どうか私の事は忘れて、幸せな千年を生きてください。

 代わりに私が貴方の事を覚えているから。

 苦しむのは私だけで十分だから――。

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