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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第27章 戦いの果てに

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戦いの果てにⅡ

 二人は何かを話しているらしい。いつの間にか爆発音が鳴り止んでいた。

 魔法も限界を迎えたのだろうか。

 クラウは剣の切っ先をルイスに向け、声高らかに宣言する。


「お前は、俺が殺す!」


 二人はゆらりと剣を水平にすると、大地を蹴り、突進を開始した。殺気と狂気に満ちた異様な空気が辺りを支配する。


「うわあぁー!」


 クラウの咆哮が木霊した。

 駄目だ、見ていられない。目を背けたいのに、見入ってしまう。

 先に剣を振るったのはクラウだった。大きく振り被ると、ルイス目がけて重い一撃を食らわせる。それをルイスは野球のバッターのように弾き返した。

 クラウはよろめき、体勢を崩す。

 その隙を見て、ルイスは剣で一突きしようと試みる。しかし、それは当たらなかった。僅差で身体を捻り、回避する。


「お願いだから、もう止めて……」


 世界を破壊するなどという馬鹿げた企みは捨て、今からでもやり直す事は出来ないのだろうか。オリビアや、エメラルドに根づく数多の命は確かに消えた。その罪を背負って、一緒に生きてはいけないのだろうか。

 こんなことになって尚――ううん、こんなことになってしまったからこそ、考えてしまう。


「何で……お互いに平和に暮らせないの……?」


 人間に転生出来たのなら、影の遺志を継ぐ必要なんてない筈なのに。


「ミユ、甘い考えは捨てろ」


「でも……!」


「アイツに『平和』なんて言葉はないんだろ」


 では、クラウがどうなっても良いと言うのだろうか。今、真面に戦っているのはクラウしかいないのに。

 ルイスは剣を振り被ると、縦に斬撃を放つ。避けきれず、クラウの右腕に赤い筋を残した。クラウは顔をしかめ、攻撃の俊敏さにたじろぐ。


「駄目……!」


 何も出来ない自分が歯痒くて仕方がない。

 身体にまとわりついている靄を見ると、ようやく半分が解けたようだ。残り半分――クラウは持ち堪えることが出来るだろうか。

 私が岩を放てば、まだ反撃の機会がある筈だ。たとえ、私が斬られようとも。

 どの道、私の呪いは解けていない。ルイスが殺されれば、私は死ぬ。それならば、少しでも生き残れる方を生かした方が良いと思うのだ。


「フレア、まだ!?」


「ごめんね、急いでるんだけど」


「もっと強くしても大丈夫だから!」


「分かった」


 キリキリと痛む右腕を気にしながらも、痛いとは言わずにフレアを急かす。

 少しくらいの痛みなんてどうって事はない。それでクラウが、三人が助かるのならそれで良い。

 視線を戦場へと戻す。ルイスは未だにクラウに食い下がっている。まさに、草食動物を狩る獣のような眼だ。

 クラウが一閃を放ったかと思うと、ルイスは剣を一回転させて華麗に躱す。

 そこで、ルイスは何かを話しているようだ。声は微かに聞こえるのに、言葉は聞き取れない。それにクラウも反応しているようだった。攻撃の手が一瞬止んだ。


「ミユ、解けた!」


 フレアの言葉を聞くや否や、身体は反応していた。ルイスの足元へと岩柱を放つ。気配を察知されたのか、ルイスは後退し、その攻撃は僅かに外れてしまった。しかし、そこへ流水が雪崩れ込む。

 水の勢いによって岩は砕かれ、激流となってルイスを襲う。

 今度こそ、成功した筈だ。漆黒の人影は、その濁流の中へと姿を消した。


「やった……!」


 宿敵を倒せたかもしれない。喜びは一瞬にして絶望へと変わる。

 ルイスはクラウの眼前に姿を現し、その身体に剣を突き刺す。クラウも何故か刀身の色を緑へと変えた剣を振るったけれど、ルイスの脇腹を掠っただけだった。


「ぅあッ……!」


「くッ……!?」


 クラウの身体からは赤が、ルイスの脇腹からは光が滲み出す。そのまま二つの剣は二人の手から離れ、緑の剣は大地に転がった。漆黒の剣はクラウの胸に刺さったままだ。彼らは揃って大地に崩れ落ちた。

 

「嫌ぁぁーっ!」


 何故、どうして。嫌だ、嫌だ、嫌だ――。

 アレクとフレアを置き去りにし、脇目も振らずにクラウの元へとひた走る。ルイスに構っている暇なんてない。このままではクラウが死んでしまう。

 息を切らし、涙もボロボロと溢れている。私が魔法を放ったせいだろうか。嫌な考えまでもが浮かび上がる。

 足が縺れそうになりながらも、なんとかクラウの元へと辿り着いた。それは良いのだけれど、どうすれば良いのかが分からない。

 とにかく、抱きかかえる。

 瞼は閉じられ、呼吸は荒い。剣が抜けていないのが幸いだ。しかし、漆黒の剣が柄の先から次々と光となり、上空へと消えていくのだ。このままではいつ刀身も消えてしまうか分からない。

 一人焦っていると、右足首にヒヤリとしたものが触れた。


「ミユ」


 底冷えするようなルイスの声だ。背中に冷や汗が流れる。

 絶対に殺される。身構え、瞼を固く瞑る。

 けれど、予測した事態は起きなかった。確かに魔法は放たれた。闇ではなく、温かな光の球だ。


「フフッ……。ハハハ」


 恐ろしい筈の笑みには、力が籠っていない。

 ルイスは横たわりながら額に右手を添える。その身体は淡く光り輝いていた。


「解呪の剣を使うとは。やってくれる」


 言いながら漆黒の目を吊り上げると、にたりと笑う。

 解呪の剣とは、あの緑の剣のことだろうか。分からない。


「私を倒したとしても、王たちが愚かな行いを止めない限り、次なる私が生まれるぞ。必ずだ」


 言い終えると、その姿は閃光へと変わる。瞬きをしている間に、跡形もなく消え去っていった。

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