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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第27章 戦いの果てに

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戦いの果てにⅠ

 爆発音が鳴り響く中、クラウに背を向けて地面を蹴る。私の意志ではない。カノンがやっているのだ。


「カノン、戻って!」

 

“駄目。ミユを殺らせに行くようなものだもん”


「お願いだから!」


“駄目”


 ルイスの魔法を私が光に変えられるのなら、この状況を変えられるのも私だけである筈なのだ。それなのに、カノンは考えを曲げる素振りを見せない。

 このままではクラウが殺されてしまうかもしれない。恐怖が私を飲み込んでいく。


“あの二人はどこ?”


 カノンの声に反応するように、首が左右を見回す。すると、左方向に二つの人影を見つけたのだ。


“カノン、こっち!”


“オレらはここにいる!”


 この声はヴィクトとアイリスだ。あの二人も前世を宿していたなんて。と、呑気にそんなことを考えている場合ではない。

 足は勝手にアレクとフレアを目がけて突進を開始した。そちらに行きたいのではないのに。どうして。溢れ出す涙を止められなかった。

 二人の元にはすぐに到着し、座り込む二人へと滑り込んだ。アレクは数十メートル離れたクラウとルイスがいる方へと険しい顔を向ける。フレアは私の頭を撫でてくれたけれど、心地良さなんて感じられなかった。


「あの馬鹿、先走りやがった……!」


 アレクは歯を噛み締め、苦悶の表情を浮かべる。

 いつの間に持ってきたのか、クラウはシルバーのロングソードを携えていた。そして、ルイスの手にも漆黒のロングソードが見える。

 これでは、いつ決着がついてもおかしくはない。

 フレアは焦りを露にし、アレクを見遣る。


「どうしよう。状況を変えないと」


「動けるのはミユしかいねぇ。けど、ミユをあっちに向かわせるのはリスクが高すぎる」

 

 アレクはしばし考えた後、私をまっすぐに見た。


「ミユ、魔法でアイツの援護を頼めるか?」


「それは出来るよ。でも」


 もし、ルイスが反撃に転じた場合は、こちらの対処が出来ない。


「皆をまた危険な目に遭わせるかもしれない」


「フレア、まだ魔法は使えるか?」


「うん、少しなら」


「防御はフレアに頼めば大丈夫だ。だから、頼む」


 そういうことなら、私も力になれる筈だ。大きく頷き、先にいるルイスを見詰める。

 クラウとルイスは剣を取り出したとはいっても、まだ刃は交えていない。氷の球と闇の球で攻防を繰り広げている状態だ。ルイスに岩の柱を当てさえすれば、クラウは有利になるだろう。

 魔法の特訓で氷柱を追いかけた、あの時間を思い出す。ルイスが攻撃する隙を狙えば――いける。

 やり合う二人を観察し、狙いを定める。クラウが氷の球を放ち、ルイスが避けたその瞬間を狙って、岩の柱を出現させた。

 何が起きたのか分からなかったのだろう。ルイスは避け損ね、右足を掠った。その傷口から、小さな光の球が無数に溢れ出す。

 その瞬間、ルイスの姿が消えた。


「えっ?」


 しまった、ルイスは瞬間移動を使えるのだ。思い出すや否や、その姿は私たちの目の前に現れる。


「邪魔をするな」


 狂った笑顔のまま言い放つと、私に向けて手のひらをかざす。

 駄目だ、殺されるかもしれない。呪いを受けた時にも似た絶望感が沸き起こる。


「ミユ!」


 クラウの声が遠くで聞こえる。

 アレクとフレアが庇ってくれるのよりも早く、私の上半身に靄のような紐が幾重にも巻きついた。不快感と閉塞感を覚える。


「何、これ!」


 足掻いても、魔法を使おうとしても解けることはない。それどころか、体力を失う一方だった。頭がくらくらとする。漆黒の瞳を覗いても、その表情は変わらない。


「魔法を使おうとすればする程、体力を削るぞ。君は黙って見ていろ」


 舐めるように私たちを見下ろすと、ルイスは戦場へと舞い戻る。

 私たちの作戦は、逆に相手を刺激しただけで終わってしまった。ルイスは標的を変えることはないだろう。

 駄目だ、このままではクラウが危ない。どうしよう。焦りばかりが先に出てしまい、どうにか靄を外そうと腕を動かしてみる。それなのに、靄は緩む気配すらない。


「ミユの魔法は、闇を光に変えるんだよね? それなら、あたし、ミユの魔法の欠片を拾ってくる」


「オマエ、足を怪我してるだろ」


「でも、誰かがやらなくちゃ」


「オレが拾ってくる」


 返事を待たず、アレクはふらふらと飛び出した。あの怪我だ。貧血を起こしていてもおかしくはない。


「アレク!」


 堪らずにフレアが叫ぶと、あの声が聞こえた。


“フレア、大丈夫だよ。ヴィクトがついてるから”


「でも……!」


“あたしが間違いを言ったことがあった?”


 アイリスの穏やかな声に、フレアは首を横に振る。

 その時、戸惑いの感情が小さく湧いた。

 

“アイリス”


 カノンが声を上げたのだ。

 アレクは私が魔法を放ったであろう場所に着くと、しゃがみ込む。


“何?”


“今までのこと、ごめんね”


“もう良いよ。疑いは晴れたんだから”


 百年越しに和解が出来たとしても、私にはそれを気にしてあげられる余裕はない。アレクは無事に戻ってこられるだろうか。そして、クラウの命は無事であるだろうか。クラウとアレクを交互に見て、その身を案じる。

 アレクは拳大の岩の欠片を数個抱えると、こちらへと戻ってきた。息を切らし、力なく岩を大地へと落とす。


「これで足りるか?」


「やってみる」


 ゼイゼイと呼吸を繰り返すアレクに、フレアは頷いてみせる。すぐさま彼女は岩を一つ手に取り、私の身体へと向けた。


「ミユ、痛かったりしたら言ってね」


「うん」


 フレアは岩を靄へと擦りつける。その部分から淡い光が漏れ、浮遊していく。どうか、上手く行って。祈りながら、クラウとルイスを見遣った。

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