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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第26章 貴方に逢うため

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貴方に逢うためⅡ

 その目も、徐々に吊り上げられていく。


「ミユ、なんで教えてくれなかったのさ」


「だって、言う必要はないって思ったし、クラウだって教えてくれなかったし」


「それは……そうだけどさ」


 一方的に責められても困ってしまう。しゅんとしていると、クラウの勢いも衰えていく。

 まさか、私以外にも自分の中に前世が住み着いている人がいるなんて、思ってもいなかった。それに、他の人にもカノンの声が聞こえるなんて想像もしなかったのだ。

 だから、誰にも教えなかったし、聞かなかった。

 ここで、ふと閃いたのだ。こうして考えてみると、誰かが近くにいる時にはカノンは話しかけてこなかった。それどころか、二人で話している時に誰かが近づいて来ると、カノンは途中で会話を止めてしまっていた。きっと、自分の声が皆にも聞こえるということに気づいていたのだろう。

 それならそうと、早く言ってくれれば良いのに。

 顔には出さないように、心の中でカノンに悪態を吐いてみる。

 そこへ殺気が近づいてきた。


「しぶとい奴だ! また殺られに来たのか!?」


 たちまちに氷の壁が立ち上り、漆黒の球を防いだ。氷の破片がパラパラと私たちに降り注ぐ。


「邪魔をするな!」


 クラウは怒鳴り、ルイスを制する。

 それに臆することなく、カノンも声を上げる。


“殺されに来た筈がないでしょ!? 私、身体ないから殺られないもん!”


 怯むこともなく言い返す。

 言っていることはもっともなのだけれど、何だか間抜けだ。

 カノンは更に話を続ける。


“それに、実結も殺させないもん! 私、頑張って地球に行ったんだから!”


 カノンが興奮するにつれて胸が熱く、苦しくなっていく。涙まで溢れてくる。

 カノンの気持ちが私に移ってしまったのだろうか。


“世界を、時を超えてでも、早くリエルに逢って謝りたかったの! くだらないなんて言わせないんだから!”


 私が泣いているせいか、カノンも涙声になっている。それに、カノンが怒りに任せて声を荒げるせいか、私の体温は上昇する。


“千年も生まれ変われないなんて……知らなかったけど……”


 たった百年で生まれ変わって来られたのは、カノンのお陰だったのだ。私が地球に生まれたのも、カノンが望んだ結果だったのだ。そう知ると、全ての事柄が腑に落ちる。

 クラウは一気に私の身体を抱き寄せた。間近には氷の障壁が出来ている。


「ミユ」


“カノン”


 腕に数滴の涙が落ちる。これは私の涙ではない。


“カノンが謝ることはないよ。謝らなきゃいけないのは、俺の方だから……”


 ほんの少し、私を抱く手に力が加わる。


「ごめん」


“ごめん”


 クラウやリエルも涙声になっている。

 私たちよりも二人の方がずっとつらい思いをしてきた筈なのに。百年間も私を探して、寿命まで縮めて、それなのに。何故、その二人が謝らなくてはいけないのだろう。こんなのは間違っている。

 思い切り首を振った。


“何で謝るの!? 酷いことをしたのは私なのに……!”


 カノンの言葉に同意し、何度かコクコクと頷いてみせる。


「ごめんね」


“ごめんね”


 そして、待っていてくれてありがとう。思いを込め、私もクラウを抱く手に力を入れた。

 轟音が鳴り、氷の障壁が崩れ去る。その向こうには、苛立ちを隠せない様子のルイスが立っていた。


「くだらないものをくだらないと言って何が悪い! 早く消え去れ!」


「話はまだ終わってない!」


 クラウが叫ぶと、再びドーム状の氷の壁が現れた。私たちとルイスを隔てる。

 間を置き、クラウは小さく息を吸った。


「リエル。手伝って」


 囁く声がいつもよりも低い。


“やるの?”


「うん」


“……そっか”


 なんの話をしているのか全く分からない。身体を離し、小首を傾げてみせる。

 クラウは優しく微笑むばかりだ。


「ミユ、神様に何か貰わなかった?」


「羽根のこと? それなら、さっきルイスに……」


 思い出すだけで涙が出そうになる。

 しかし、クラウは首を横に振る。


「違うよ。なんて言ったら伝わるかな。……そうだ、ビー玉みたいな石」


「えっ?」


 何故、クラウがその石の存在を知っていたのだろう。神に言われたから、その石は常に胸のポケットに入れて持ち歩いていた。

 訝りながらも石を取り出そうと試みる。すると、ポケットの中で、その石が淡い緑の光を放っていたのだ。


「ひゃっ」


 思わず小さな声が漏れる。

 何が起きているか分からず、震える手で石を弄り出した。そのまま掌の上に転がすと、クラウはそれを食い入るように見詰める。

 少しの間、時間が止まったように感じられた。


「ミユ」


 私の名前を囁くクラウの声はこれまでにない程優しく、甘い。突然のことに対応出来ず、顔は熱くなり、声が出せなかった。


「愛してる」


 なんとクラウの顔が一気に近づき、強引にキスをされてしまった。ほんの数秒の間だったけれど、私の思考力を消し去るのには十分だ。

 私が固まっている間に、クラウは緩んでしまった手の中から緑の玉を奪い取る。

 次の瞬間には鼓膜が破れそうな程の爆音が鳴り、ルイスとの壁は消し去られてしまった。強風が吹き止むまで、目を瞑って耐え忍んだ。

 眼前には花畑ではなく、荒れ果てた大地が広がるばかりだ。魔法の凄まじさを物語っている。

 クラウはゆらりと立ち上がると、ルイスを睨み付けた。ルイスにも劣らない殺気を放っている。


「お前は俺が殺す。ミユは殺させない」


「勝手に息巻けば良い。私を殺せばミユは死ぬぞ?」


「まだ決まった訳じゃない」


「何を根拠に」


 ルイスは鼻で笑い、軽くあしらう。


「ミユ、下がってて。あいつの相手は俺がする」


「えっ? でも――」


「良いから」


 嫌だ、離れたくない。何か胸騒ぎがする。縋りつきたいのに、身体が言うことを聞いてくれない。


“実結、行こう”


 カノンが囁くと身体が勝手に動き出す。足が地に着き、身体が持ち上がり、クラウを置いて後退を始めた。


「やだ。やだ……!」


 クラウの背中はどんどん遠ざかっていく。手を伸ばしてみても、もう届かない。

 二人の絶叫を合図に、戦闘は開始されてしまった。

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