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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第26章 貴方に逢うため

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貴方に逢うためⅠ

 ルイスは憎しみを籠めた瞳を私に向ける。

 その真意が分からない。千年とはどういう意味だろう。

 まさか、新たな呪いを私に加えようとしているのだろうか。そんなのは嫌だ。

 恐怖に苛まれていると、ルイスは右腕を振るった。と同時に、クラウの身体が離れ、目の前に氷の壁が出来上がる。何発かの鋭い音が聞こえたかと思うと、氷は粉々に砕け散った。欠片一つ一つにルイスの狂気に満ちた顔が映る。


「油断しちゃ駄目だよ」


 クラウの強い眼差しに頷き、再び戦闘態勢へと入る。


「フレアは?」


「足を怪我して、動けなくなった。命には関わらないから大丈夫」


 取り合えず、安心して良いのだろうか。

 胸を撫で下ろしていると、ルイスの視線が私から外れた。新たな獲物を見つけたように、目が光る。

 

「ミユの前に、クラウ、君の動きを封じておこう。君は確実に私の枷となるだろうからな」


 ルイスは身体をぬらりと揺らがせると、姿を消す。そして、クラウの眼前に移動した。クラウにだけ聞こえるように何かを呟くと、すぐさま間合いを取る。

 青の瞳は怒りと憎しみを宿し、ルイスを睨みつけた。


「俺のことは何とでも言って良い! でも、流石に今のは許せない!」


「間違ったことを言ったつもりはないが」


「お前に人の心はないのか!?」


「そんなものは、とっくの昔に捨てた」


 ルイスは吐き捨て、冷めた瞳をクラウに向ける。


「……いや、あることにはあるな。負の感情だけだが。君たちには分からないだろう。その負の感情が、どれほど根深いのかを」


「そんなもの、知って堪るか!」


「まあ良い。地の魔導師が千年の眠りに就くのならな」


 まただ。また、千年という言葉が出てきた。自然と口から言葉が漏れ出す。

 

「千年ってどういう意味? 私には、訳が――」


「君たちは、影の最期の言葉を覚えていないのか?」


 言われ、記憶の中をほじくり返してみる。ところが、戦闘中という異常事態が私の脳を鈍らせる。駄目だ、思い出せない。

 首を振り、唇を噛む。


「良いだろう。一度だけ、だ。『その呪いは千年続く。そして、永遠に回り続ける』」


 頭にはてなが浮かぶ。その言葉は意味を成していない。


「呪いが千年続く? 永遠に回る? 矛盾してない?」


「いや、影の言い回しが悪いだけだ。正確には……」


 ルイスは息を吸い込むと、悪魔のような笑みを浮かべた。


「その呪いは、千年間、転生する事を許さない。そして、それが永遠に回り続ける」


 ルイスから殺気が放たれる。それは矢に変わり、私たちに襲い来る。

 岩の壁を出したお陰で、矢との接触は避けられた。しかし、敵の攻撃力は増しているようだ。岩は光を放ちながら、脆くも崩れ去る。

 衝撃とともに、再び浮かんだはてなに小首を傾げた。


「でも、私は百年で転生出来たよ? どうして――」


「千年だろう!」


 今度は漆黒の球体がこちら目がけて飛んでくる。対応が間に合わない。

 クラウが水球でガードしようと試みる。力は互角だったようで、触れた瞬間に双方が破裂し、身体が爆風に吹き飛ばされてしまった。

 背中から地面に激突し、痛みに唸り声を上げる。


「ミユ!」


 顔をしかめながら、なんとか立ち上がらなければと腕に力を入れる。それなのに、左腕が痛んで地面に足をつけるには時間がかかってしまった。その間も、氷の激しく砕ける音が何回か聞こえた。

 

「君の魂が、時間が十倍の速さで進む異世界に転生したのだ! 異世界で千年を過ごし、ここに戻ってくるとは! 笑わせてくれる!」


 もう一回、漆黒の球が放たれ、守りに入った氷が打ち砕かれる。

 そうだ、すっかり忘れていた。だから、日本には帰れないと宣告されたのに。

 地球とこの世界では、時間の流れそのものが違うのだ。


「君が余計な事をしてくれたお陰で、僕の計画は狂ってしまった! さっさと消えろ!」


「お前の相手は俺だ!」


 標的を私に変えていたルイスに、クラウは声を荒げる。冷静さを失った狂気の目はクラウを捉え、細められる。

 

「オマエのくだらねぇ計画のせーで、コイツらがどんな想いしたと思ってんだ!?」


「そうだよ! 許せない!」


 いてもたってもいられなくなったのだろう。遠くからアレクとフレアの声が聞こえた。下手に口出しをしては、ルイスに攻撃されかねないというのに。


「駄目だよ! 話に入って来ちゃ駄目!」

 

 魔法が使えないのでは、ルイスの攻撃を真面に受けてしまう。標的が変わらないように祈りながら、アレクとフレアを垣間見る。

 ルイスも二人を蔑んだ瞳でちらりと見ると、つまらなさそうに口を開いた。


「そんな想いの方がくだらない。意味がない。死にたくなければ、そこで黙って行く末を見ていろ」


 これには私の感情も揺り動かされた。私たちの想いがくだらないなんて。意味がないなんて。愛情を知らない人には言われたくない。

 胸が熱くなる。


”ふざけるな~っ! ……あっ”


 予想外の声に、私も唖然としてしまった。

 カノンは何故か気まずそうな声を上げ、それ以上、話そうとはしない。

 間を置かず、考えもしていなかった人物が口を開く。


 ”カノン!?”


 ”えっ!? リエル!”


 カノンと同じように、姿は全く見えない。でも、声はリエルだ。

 驚いてクラウの顔を見てみると、クラウも目を丸くして私を見詰め返すばかりだった。

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