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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第25章 理由

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理由Ⅰ

「呪いは必ず俺が何とかする。だから、ミユは羽根を出す事に集中して」


 クラウはにこっと微笑み、私に頷いてみせる。それがどうしようもない不安を搔き立てる。


「クラウ、変な事考えてないよね?」


「大丈夫だよ」


 こういう時の、この人の『大丈夫』は信用出来ないのだ。唇を噛み、考えを巡らせる。

 今、羽根を出さなければ四人全員が殺される。羽根を出せば、助かる道は残されている、のだろうか。ううん、私を基準にしてはいけない。三人が助かるのなら、全員殺されるよりマシだ。

 そして、問題のなのはクラウだ。何とかするとは言っても、百年前に捨て身で庇ってくれた攻撃は、全て私に当たった。何ともしようがない。よって、今回もクラウが攻撃を受ける事は無いだろう。

 決まった。

 周囲の音を感じ取らず、ひたすらに『ルイスを倒したい』と念じる。

 額の辺りが光り出し、何かが引き出される感覚がした。光が収まってから天を仰ぐと、緑色の羽根がふわふわと浮かんでいる。緑色の羽根だけではない。青、赤、黄――四つの羽根が宙を漂い、引き合うように中央へと集まっていく。


「ずいぶん遅いじゃないか」


 その時、ルイスが唸ったのだ。狂った笑みを浮かべ、靄から変貌を遂げた漆黒の矢を放つ。


「逃げろ!」


 もうルイスの攻撃を跳ね返す事は出来ない。アレクの叫びで四人散り散りになり、矢の攻撃を躱そうとした。のは良いのだけれど、矢が狙っていたのは私たちではなかったのだ。

 空気を切り裂く嫌な音を立てて迫ってきた矢は、私の緑色の羽根を射抜く。一瞬で羽根は光を纏いながら粉々に砕け、無残な姿に変わり果てた。


「私の羽根が……!」


 手を伸ばしたけれど、虚しく宙を掴む。

 その直後、後方で凄まじい爆発が生じた。誰かの身体に覆われた為、爆風の衝撃は免れた。


「大丈夫か?」


「うん」

 

 アレクは笑みを浮かべ、私の無事を確認する。

 どうしよう。羽根が欠けてしまえば、ルイスに対抗する為の矢が作れない。

 絶望に打ちひしがれる。


「これからが本番だ。羽根を良く見てみろ」


「えっ?」


 絶望が底知れぬ不安へと変わる。これから何も起きようが無い筈なのに。

 ところが、残された青、赤、黄の羽根は変化を止めない。三枚が重なると、黒い靄を生じさせる。

 こんなの、ルイスの力と同じだ。そう思っている間にも、靄は漆黒の矢へと変わり果てた。誰の指示も無く真っ直ぐにルイスへと向かっていく。それを受け止めるようにルイスが両手を広げると、矢はその胸を打ち抜いた――ううん、その身体に吸い込まれていった。


「フフッ……ハハハ! やはり、私の見立ては間違っていなかったようだ」


 新しい玩具を与えられた子供のように、ルイスは笑い声を上げる。


「どういう事だ!? オレらが出した羽根だよな!?」


「どういう事も何も、見たままじゃないか」


「私たちの羽根なのに! 黒くなる筈がない!」


「ミユ、君は入っていないだろう?」


 眼力だけで人を殺してしまえそうな瞳に、身が竦み上がる。


「そういう事だ。君さえ消えて居なくなれば、世界は崩壊する」


「何……言って……」


「染料も、三色が混ざれば混ざる程に汚れていくだろう? それと同じだ。地の魔導師が居なかった百年間、君たちに思い当たる節が無いとでも?」


 アレクも、十数メートル離れてしまったクラウとフレアも、顔を顰めている。何か思い当たることがあるのかもしれない。

 

「呪いをかけた理由もこれだ。君たち全員を相手にするつもりはない。ミユが死んでくれればそれで良い」


 ルイスは狂笑のまま、姿を消した。かと思うと、私の目の前に現れる。瞬間移動だ。


「死ね!」


「きゃっ……!」


「ミユ!」


 ルイスは黒い刃物ののような何かを握っているのが垣間見えた。来るべき痛みに備え、思い切り瞼を瞑る。


「……ってぇ!」


「アレク!」


 フレアの悲鳴に似た叫びに驚き、瞼を開けた。目の前でナイフのようなものがアレクの右前腕を貫いている。赤が滴り落ち、真っ白な花の上に落ちる。

 刺さったナイフは靄へと変わり、掻き消えてしまった。アレクは苦悶の表情を浮かべ、崩れ落ちる。


「アレク! やだ……!」


「それよりアイツを躱せ!」


 蹲るアレクを置いて、咄嗟に後方へと間合いを取った。前方へ手を翳し、岩の壁を作る。直後に鋭く尖った音が響いた。


「ミユ、今行く!」


「君たちの相手はこれだ」


 慌てたクラウとフレアが此方へ駆け寄ろうとしたところへ、人間ほどの大きさの靄が出現する。たちまちその靄は影へと姿を変えた。


 ――オレとミユ、クラウとフレアはなるべく離れた方が良い。互いの魔法を打ち消し合うからな――


 魔法の特訓をする中で放たれたアレクの言葉が蘇る。――最悪の状況だ。

 回避出来る方法は何かないか。焦っていると、岩の端からルイスが顔を覗かせる。

 攻撃をされる前に、此方から仕掛けなければ。ルイスを氷柱に見立て、岩の柱を放つ。


「チッ……!」


 攻撃は当たらなかった。しかし、黒色の服を掠めはした。そこから淡い白色の光が一瞬だけ現れる。


「ルイスに攻撃が当たれば……光になる?」


「それを知ったところでどうしようと言うのだ? 君は此処で死ぬのに」


 私の生死を勝手に決めつけないで欲しい。右手を大地に翳し、もう一発、岩の柱を立ち昇らせる。

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