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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第3章 出逢い

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8/90

出逢いⅢ

「フレアは……そうだな、優しくて、しっかり者だよ。ミユにとっても、頼りになる存在になると思う。でも情に脆くて、涙脆い。火の魔法を使える、ガーネット育ちの二十一歳だよ」


「あたし、そんなに泣いてるかなぁ」


「泣いてるな」


 小首を傾げるフレアに、アレクが即答する。


「どこか変な所あった?」


「ううん、大丈夫だよ」


 フレアがパッと笑顔になると、クラウは安心したように吐息をついた。


「じゃ、次はフレアがオレの紹介してみてくれ」


「うん、分かった」


 フレアはアレクの顔をちらりと見ただけで、こちらに向き直る。


「アレクは頼もしいよ。料理も出来るし、いざとなった時に役に立つと思うの。面倒見も良いし、話も聞いてくれる。風の魔法を使える、トパーズ生まれの二十二歳だよ」


 フレアの他己紹介に不満があったのだろうか。アレクは腕を組み、口をへの字に曲げる。


「いざとなった時に役に立つってよー、この流れじゃ、オレが非常食みてーじゃねーか」


「非常食じゃなくて、ヒーローのつもりだったんだけど……」


 フレアが少し申し訳なさそうに目を伏せると、アレクは慌てた様子で首を横に振る。


「いや、フレアは間違ってねぇ! オレの勘違いだ」


「そう? それなら良いんだけど」


 フレアが顔を上げると、アレクはニカっと笑った。


「最後はオレがクラウの紹介だな」


「変なこと、ミユに教えないでよ」


 クラウはクリクリの目を僅かに吊り上げ、アレクを牽制する。


「任せとけ! クラウは……アレだ、一言で言うと無鉄砲だ。んで、生意気で、オレらの意見聞かねーし――」


「ちょっ……アレク! それ、俺のこと、けなしてるだけじゃん!」


「ああ? 間違ってねーだろ?」


 もしかして、この二人は仲が悪いのだろうか。

 アレクを睨み付けるクラウと、嫌な笑みを浮かべるアレクをおろおろしながら見比べてみる。

 一向に収拾がつかなさそうなので、今度は助けを呼ぶようにフレアを見詰めてみた。


「もう、喧嘩しないでよ。ミユを怖がらせちゃったかもしれないでしょ?」


「あっ……ごめん! そういうつもりじゃ……」


 フレアが溜め息を吐くと、クラウの顔は林檎のように真っ赤になってしまった。俯き、こちらを見ようとしない。


「今のはアレクが悪いんだから。少し反省してね。クラウの他己紹介はあたしがするから。……そうだなぁ、人一倍、感受性が強いんじゃないかなぁ。笑って、怒って、たまには泣いて。そう、情熱家なんだよ。水の魔法を使える、サファイア生まれの十九歳だよ。……大丈夫だった?」


「うん」


 フレアが他己紹介を終えると、クラウは何故かこちらを見て、再び俯いてしまった。


「まっ、こんな感じだ。ミユ、これからよろしくな」


「よろしくお願いします」


 その場でぺこりとお辞儀をしてみせると、アレクとフレアもにっこりと笑ってくれた。


「オマエもそろそろ機嫌直せよ。ミユに変人だと思われても知らねーぞ?」


 アレクの言葉に、クラウは肩を震わせる。真っ赤な顔のままでこちらを向くと、ブンブンと首を横に振る。きっと、変人ではないことを伝えたいのだろう。大丈夫と言う意味も込めて、今度はクラウに向かってお辞儀をしてみる。すると、ちゃんとお辞儀を返してくれた。

 その間にフレアがケーキを切り分けてくれたようだ。山盛りのケーキを乗せた、直径二十センチ程の皿をこちらに渡してくる。


「はい。ミユ、ケーキ好きなんだもんね。あたし、甘いもの苦手だから、あたしの分も食べて」


「良いの?」


「勿論」


 少し気が引けてしまうけれど、渡されるままにケーキを受け取った。

 ケーキだけでもお腹いっぱいになってしまいそうな量だ。

 アレクとクラウもケーキを受け取ったのを見届けると、早速フォークを持ち上げ、ケーキを掬った。

 スポンジとスポンジの間にも苺が挟んである。見た目だけでも美味しいのが分かる。

 思い切って噛み締めてみると、生クリームの控えめな甘さと苺の酸味が口いっぱいに広がった。


「美味しい……」


 自然とフォークが進む。スポンジの甘さも生クリームの味を邪魔していない。まるで高級スイーツ店のケーキを味わっている気分だ。


「これもアレクが作ったの?」


「ああ、そうだぞ」


「凄く美味しい!」


 また会う機会があれば、その度に食べたいくらいだ。

 あまりに食べるペースが速いのか、三人とも私を見て、小さく声を上げて笑う。


「また作ってやる。次は……三日後だな」


「三日後?」


「ああ。オマエらにちょっと聞きたいことがあってよー」


 その話をした瞬間、アレクの表情が曇ったように見えた。何か嫌な予感がする。

 胸にそっと手を当て、その原因を探ってみる。しかし、考えてみたところで、私にはさっぱり分からない。

 フレアもクラウも神妙な顔つきになってしまっている。


「詳しくは三日後だ。それまではいつも通りのんびりしてよーぜ」


 フレアとクラウは釈然としない様子だ。

 暗くなってしまった部屋の雰囲気を変えるべく、アレクは次の行動に出る。


「フレア、そろそろあれやろーぜ。準備は出来てるのか?」


「うん。すぐにでも出来るよ」


「そーか。クラウ、ミユ。こっち来てみろ」


 私とクラウを呼び付けると、アレクは席を立ち、窓の方へと歩み寄っていく。それにフレアが続いた。

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