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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第24章 偽りの記憶

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偽りの記憶Ⅱ

 しかし、私はそれどころではない。今、見たものは何なのだろう。


「ミユ、驚いたか?」


 眼前に佇む人物は、冷酷な瞳を私に向ける。


「今の、何? 私、こんなの知らない。私が知ってるのは、アイリスに呼び出されて、行ってみたら影がいて、呪いをかけられた時に傍でアイリスが笑ってて……」


「今、見せたものが真実だ」


「えっ?」


「影が君の記憶を書き換えた」


 そんな。では、やはり私の記憶が間違っていたのだろうか。信じられないけれど、信じるしかないのだろう。


「影にそんな力があるのか?」


「あるから記憶の相違があるのだろう? ミユ、フレア。君たちなら分かるだろう」

 

 ルイスの言葉が真実なのであれば、非の無いアイリスを疑い、傷つけ、憎み――謝っても許されないことをしてしまった。それでも私は謝りたかった。

 フレアを探し、視界に捉えると、一心にその姿を見詰めた。


「フレア、ごめんね! 私……!」

 

 クラウに抱かれていなければ、駆け寄ってフレアの両手を握り締めていただろう。

 フレアは優しく微笑み、ゆっくりと首を横に振る。


「ミユはあたし以上に辛かったでしょ? 気にしてないよ」


「嘘……!」


 気にしていない筈がない。逆の立場になれば分かるものだ。仲間が自分を恨んで死んでいったらと思うと、いたたまれない。

 言葉を重ねようとすると、クラウが耳元で囁いたのだ。


「あれはフレアの精一杯の強がりだ。もう何も言わないであげて」


 辛くて、もどかしくて仕方がない。堪らずにクラウの服を握り締めた。

 一方で、フレアはルイスを睨み、声を振り絞る。

 

「貴方、もう一つ記憶を書き換えてるでしょ?」


「フッ……ミユと打ち合せ済みか。まあ、隠す気もないが」


 またしても、足元に魔法陣が描かれる。次はどこへ飛ばされるというのだろう。身構えながら、瞼を閉じる。


「ミユ」


 心地良い風と共に、フレアの声が運ばれる。

 目を開けてみると、数メートル先にはカノンとアイリスの姿があった。その向こう側には、竜巻と水柱が混じったようなものが、天高く立ち上っている。

 恐らく、リエルとヴィクトが魔法対決をしているのだろう。呪いをかけられる前の昼だ。


「カノン」


 意を決した様子で、アイリスはカノンに話し掛ける。

 

「何〜?」


 カノンはカノンで、おっとりと小首を傾げる。


「ちょっと、話があるの。でも、ヴィクトとリエルには聞かれたくなくて……」


「あれじゃあ、聞こえないと思うんだけど……」


 カノンの視線の先には、あの水と風の柱がある。リエルとヴィクトの傍では鳴動が轟いているのだろう。

 アイリスは失笑すると、躊躇いながらも言葉を紡いでいく。


「あたし、カノンとうまく話せてなかったでしょ? それどころか、ちゃんと目も合わせられなかったし。そのこと、謝ろうと思って」


 まただ。アイリスの不利になるように、私の記憶が書き換えられている。

 アイリスは俯き、瞼を固く瞑った。


「今までごめんなさい」


「アイリス、頭を上げて! 私、これから仲良く出来るなら、それで良いから! これからもよろしくね」


「……うん。ありがとう」


 カノンはアイリスに抱き着き、その頭を撫でる。


「あたし、カノンよりお姉さんなんだけどなぁ」


「そんなの気にしないの~」


 二人は笑い合う。それまでの不穏な仲を感じさせぬ程に。

 そこで視界はぐにゃりと曲がり、現実世界へと戻ってきた。フレアの隣で、アレクは殺気をみなぎらせる。


「オマエ、なんでミユとカノンの記憶を書き換えやがった!? フレアに何の恨みがある!?」


「恨みがあるのはフレアじゃない。ただ仲間割れをさせたかっただけだからな」

 

 何故か、ルイスは私を見て、目を細める。この視線は何なのだろう。


「煩わしい」


 一刀すると、漆黒の矢がこちら目がけて飛んできた。それを氷の欠片が弾き返す。


「じゃあ、ミユに恨みが?」


「ああ」


 漆黒の瞳はクラウの方を見ることもなく、私を見詰める。まるで氷のように、私の存在全てを否定するかのように。

 私が何をしたと言うのだろう。困惑していると、ルイスは鼻で笑う。


「考えたところで、君が分かる筈がないだろう。全てを思い出した訳ではない君がな」


「意味深なことを言いやがる……!」


 アレクが吠えても見向きもしない。

 

「私が思い出してないこと……?」


 カノンが魔導師であった時のことは全て思い出した筈だ。魔導師になる前のことは不明瞭だけれど、影との接点はない筈だ。

 眉をひそめ、小首を傾げる。


「その存在自体が邪魔でしかない」


「えっ……?」


 次に漆黒の三本の矢が空気を切り裂き飛んでくる。三つの氷の欠片が盾となり、甲高い音を立てて全ての矢を退けた。

 私が感じた殺気は間違いではなかったのだ。

 でも、一体何故なのか。理由が分からない。


「私は今すぐにでもミユを殺せる。殺されたくないのなら、かかってこい」


 ルイスは顎をしゃくる。


「やるしかねぇのか……?」


「やらなかったら、ミユが殺される!」


「羽根を出そうよ。あたしたちには、あれがある」


「でも、羽根で戦って勝ったら、私の呪いが……!」


 百年前と同じことが起きるだろう。

 恐怖で身体がカチコチに固まってしまう。

 四人で会話をしているうちに、ルイスは頭上に黒い靄を作り出した。渦を巻き、大きくなっていく。


「駄目だ、羽根で立ち向かわなかったら、四人全員殺られるぞ!」


 やるしかないのだろうか。不安に押し潰されそうな瞳でクラウを見詰めると、この場には似つかわしくない優しい視線が返ってきた。

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