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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第24章 偽りの記憶

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78/90

偽りの記憶Ⅰ

 私たちが戦闘態勢へ入る前に、ルイスは殺意を消す。


「と言いたいところだが、君たちに見せたいものがある。私は悪趣味じゃないのでね」

 

 又しても、足元に魔法陣が広がる。今度はどこへ連れて行こうというのだろう。混乱している間に視界は暗転する。

 気がついた時には、同じく暗闇だった。涼しく、少し湿った空気に、風が流れ込む。


「オマエら、いるか!?」


 近くでアレクの声が聞こえた。


「いるよ!」


「あたしも!」


「私もいる!」


 どうやら、四人ともそれほど離れてはいないようだ。

 手探りで右の方を探していると、手のような温かなものに触れた。


「ミユ?」


「フレア!」


「良かった……!」


 互いの存在を確かめるように、ハグをする。


「アレクとクラウは?」


「分かんない」


 話をしているうちに徐々に目は慣れていく。恐らく、ここは森の中だろう。木の幹が立ち並び、視界を遮っている。

 そこへ、足を引きずるような、違和感のある小さな足音が聞こえてきたのだ。思わず視線を移すと、木の幹の隙間からランタンの灯が漏れている。それは段々とこちらへ向かってきているようだ。

 ランタンの持ち主が近づくにつれ、その輪郭も分かってくる。揺蕩う長い髪に、ひざ丈のスカート、ブーツ――私が見間違える筈がない。カノンだ。

 カノンが森の中を深夜に歩くなんて、呪いを受けたあの夜しかない。

 もしかすると、ここでカノンが呪いさえ受けなければ、私の呪いも消えるかもしれない。クラウが苦しんだ後悔もなくなるかもしれない。

 一縷の希望が光り出す。


「カノン! 来ちゃ駄目!」


「ミユ?」


「お願いだから、テントに戻ってぇ!」


 力の限り、声を振り絞る。ところが、カノンの耳には届いていないようだ。覚束ない足取りは止まる気配がない。

 やはり、過去を変えるなんて無理なのだろうか。そう思っていた時、二つの人影がカノンの前に立ち塞がった。


「カノン、止まれぇ!」


「頼むから、戻って!」


 クラウとアレクだ。カノンにはその二人も見えていないようで、ランタンに照らされた瞳は虚ろなままだ。


「大丈夫だよ。大丈夫だから」


 フレアが私の身体を抱き、背中を撫でる。それも慰めにはならなかった。

 堪らずアレクが前に出る。


「カノン! 聞こえねえのか!?」


 カノンはアレクに体当たりし、停止するかに見えた。ところが、カノンの身体はアレクの身体を突き抜けて、更に木々を分け入っていくのだ。


「オレの身体が……透けた!?」


「えっ!?」


 身体が透けた。そんなことが有り得るのだろうか。

 カノンは更に進み、クラウに近づく。


「カノン! 止まるんだ! 頼むから!」


 クラウは私の目の前で両腕を大きく広げる。それなのに、カノンは彼の身体すら突き抜けてしまった。止まらないカノンを振り返り、クラウは膝から崩れ落ちた。


「うわあぁーっ!」


 悲痛な絶叫が森に響く。

 成す術なく、カノンは影の元へと辿り着いてしまった。


「えっ? 私、なんでここに?」


 カノンは辺りをきょろきょろと見回し、状況を確認する。その途中で影と目が合った。


「影!? なんで!? こんなの卑怯だよ~!」


 カノンの瞳には、あの赤く曖昧で恐ろしい影の顔が映っているのだろう。考えるだけでもぞっとする。

 

「オマエはワタシが連れてきた。呪いをかけるためにな」


「呪い……!? なんの!?」


「『死』の呪いだ」


 カノンは数歩後退る。影も間を詰める。逃げるしかないと思ったのか、カノンはランタンを捨て、影に背を向け走り出した。

 しかし、瞬間移動した影に行く手を阻まれる。対応しきれずに、カノンは尻餅をついてしまった。


「痛っ……」


「カノン! これで終わりだ!」


 カノンの胸には影の右手が翳されている。紫色の光が影の手から放たれ、カノンに当たり、爆発する。

 その衝撃で、カノンは木の幹に背中を強く打ちつける。そのまま崩れ落ちると、カノンの身体は動かなくなってしまった。

 真っ先に現場へ現れたのはアリアだった。彼女はカノンを抱き抱え、名を呼びながら身体を揺する。

 そこへアイリスとサラも到着した。三人がカノンを必死に呼ぶ声が聞こえてくる。

 これは、私の知る過去ではない。私の記憶が本物なのか、それともこちらが本物なのか。

 混乱しているうちに、男性陣も血相を変えてカノンに駆け寄る。

 七人が影の存在に気づいたのは間もなくのことだった。


「影……!」


 カイルが驚愕の声を上げる。


「お前、カノンに何をした!? どうしてここに!?」


「その問いに答える義理はないな」


「答えろ!」


 リエルが叫んでも、影は鼻で笑うだけだ。

 そうこうしているうちに、七人は苦しみ出し、次々と倒れていく。


「影……!」

 

 リエルが手を伸ばしたものの、意識を失うと同時にその手はぱたりと地に落ちた。

 突如として、私も眩暈に襲われる。渦巻く視界には段々と白と青が混ざっていく。

 瞬きをすると、ベルフラワーの花畑に倒れていた。むくりと起き上がり、ルイスの姿を確認する。

 そして、クラウが横から飛びついてきたのだ。私をきつく抱き締める。


「ごめん、カノンを止められなかった……!」


 声は震えているし、悔しさに満ちている。

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