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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第23章 真の姿

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真の姿Ⅰ

 日が昇る前に起きてしまった。布団の中で悶えながら、皆が起きるのを待ってみる。

 薄暗がりの中のテントは、不気味さが際立ってしまう。草木が騒めく影、風がそよぐ音、どれもが耳に残る。駄目だ、恐怖や緊張が高まってしまう。布団を被り、肩を抱く。

 どれくらいそうしていただろう。外から足音が聞こえてきたのだ。近づいてくるのではなく、遠ざかっていく足音が。

 男性陣のうちの誰かが起きたのだろうか。期待を抱きながら布団をまくると、ぼんやりとした朝日を感じることが出来た。

 ゆっくりと起き上がり、他の女性陣を起こさないようにテントを抜け出す。音を立てないように、慎重に。

 テントを出ると、足早に廃墟へと向かった。私たちが用があるのは、あそこしかないのだから。廃墟の出入り口を潜る前に、人がいるのを確認出来た。音を立てながら瓦礫を掻き分けるその人の髪は、太陽の光を受けて金の色彩を放っていた。


「クラウ!」


「あっ、ミユ。ごめん、起こしちゃった?」


「ううん。私も朝早くに目が覚めちゃって」


「そっか。そうだよね」


 クラウは一度手を止め、私に笑顔を見せてくれる。


「私も手伝う」


 私が根本の原因なのだから。足元の瓦礫を拾い上げ、出入り口に向かって放り投げる。投げても、投げても、床には何も見当たらない。でも、ここで諦める訳にはいかない。一心不乱に手を動かす。

 ところが、すぐに腕は疲労を見せ始めてしまった。鍛えていたのは足だけで、腕力が必要になるなんて考えてもいなかったのだ。唸り声を上げ、その場に尻餅をついた。


「何もない……」


「一旦、休憩しよう」


「うん」


 クラウは私の隣へ来ると、ストンと腰を下ろした。二人で大きな溜め息を吐く。


「私たち、嘘の情報を掴まされたのかな」


「まだ、そうと決まった訳じゃないから。断定は出来ないけど……」


 嘘を掴まされた可能性はゼロではない。そう言いたいのだろう。考えたくはないけれど。

 このまま影が襲ってきたらどうしよう。嫌な考えが脳裏を掠める。


「私……」


「あのさ。これ、アリアに頼んで持ってきちゃった」


「へっ?」


 頭を抱えようとした時に、差し出されたものに驚いてしまった。シルバーの細長い筒に、キーが何個も付いたもの――見間違えようがない。どう考えてもフルートだ。


「これの音、聞かせて欲しい。気分転換だと思ってさ」


「えっ? でも、皆起こしちゃうかもしれないし」


 こんなの、ただの言い訳だ。心臓の鼓動は一気に速度を上げる。


「大丈夫だよ。逆に眠れそうだから」


「でも、でも、私……」


「何?」


「恥ずかしい……」


 言った瞬間に、頬がぽっと熱くなった。

 クラウは笑い声を上げ、私の肩にコツンと当たる。


「ダイヤでいっぱい吹いてたじゃん」


「そうだけど~」


 好き勝手に吹いていたのと、好きな人の前で吹くのとは訳が違う。

 むっと膨れると、盛大に笑われてしまった。その癖に、目が真剣なのだ。

 引き下がる気はないのだろう。


「吹くから、見ないでね」


 仕方なくクラウからフルートを奪い取り、背を向けた。

 先ずは深呼吸だ。瞼を閉じ、空気を吸って、吐いてを繰り返す。大会前の緊張感に似ている。そして、リッププレートを口へ当てた。

 ソロで楽譜を見ずに演奏出来る曲は限られている。G線上のアリアを選んだけれど、最初のロングトーンが難題だった。緊張で唇が震えてしまう。天然ビブラートだ。

 ううん、最初だけではない。音を下がるとまたロングトーンが何度も出てくる。何故、この曲を選んだのだろう。

 吹き終えると、今一度深呼吸をした。振り返り、クラウの反応を窺う。


「下手……だったよね」


「そんなことないよ。綺麗な音だった」


 何故、こんなにも求めている答えをくれるのだろう。微笑むクラウを見詰めることしか出来なかった。

 その顔が徐々に近づいてくる。思わず瞼を閉じる。

 柔らかくて温かなものが唇に触れた。息を止める。

 顔が離れたのを感じ、瞼を開けると、にこにこと笑うクラウがそこにはいた。


「するならするって言ってよ~」


「あはは」


 不意打ちは卑怯だ、とは思いながら、嬉しさが勝っている。

 あまりにも優しい時間を過ごしていたせいか、砂利を踏みしめる足音が近づいているのにも気づかなかった。


「やっぱあの音、オマエか」


 声に驚き、振り返る。出入り口付近には、仲間六人の姿があった。


「あっ、アレク! やっぱり、起こしちゃった?」


「いや、その前から起きてた」


 アレクとフレアは苦笑いをし、こちらへと近付いてくる。

 キスする所を見られてしまっただろうか。今度は別の意味で顔が熱くなる。

 ところが、フレアはともかく、アレクもからかう仕草は見られないので、そこまで目撃はされていなかったのだろうか。アレクとフレアは私たちの前を通り過ぎて、廃墟の奥へと向かい、腕を振る。


「使い魔もこっちに来い! 奥に何かあるかもしれねぇ!」


「分かりました!」


 使い魔たちも駆け足で私たちの前を通過する。


「俺たちも作業に戻ろっか。こっちも手つかずな場所があるし」


「うん」

 

 私ばかり休憩をしている場合ではない。大きく頷くと、フルートを小さくして懐に忍ばせる。そして、その場にあった瓦礫に手を伸ばす。

 一方で、クラウは壁沿いにある木の板の撤去を始めたのだった。


「棘出てるかもしれないから、気をつけてね?」


「うん」


 素手で木材を触るのは、危険ではないだろうか。心配になりながら、ちらちらとクラウの様子を確認する。

 彼の手が止まったのは、十分も経たない頃だったように思う。


「本がある」


「えっ?」


 青い瞳が見詰める右手には、えんじ色の本が掴まれていた。

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