表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第22章 希望から失望へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/90

希望から失望へⅡ

 そんなことを話しているうちに、ロイとサラが足を止めた。


「かなり遅くなりましたが……。お昼休憩にしましょう。お疲れ様でした」


 ようやく休憩らしい。三日目に突入すると、足の筋も大分張ってしまった。とにかく、足を休めたい。

 道の傍らに倒れている木を椅子代わりに、四人仲良く並ぶ。使い魔たちは少し離れた倒木に腰かけた。

 今日の昼食もハードパンだ。顎の疲れも感じつつも、文句は言わずに食べ進める。レーズンの甘酸っぱい味が仄かに舌を刺激した。


「ねえ、あれ。ちょっと建物が見えてない?」


「えっ? どこ?」


 フレアが指を差す方向へと、目を凝らしてみる。木々の隙間から、僅かに白いものが飛び出しているだろうか。


「あれ、建物……?」


「違うのかなぁ」


 三角形にはなっているものの、屋根らしきものは見当たらない。

 「う~ん……」と唸り声を上げて、尚も白いものを見詰める。

 

「やっぱり分かんないよ~。近づいてみないと」


「そっかぁ」


 フレアと二人で溜め息を吐いた。

 クラウの方を見てみると、その瞳は白い物体を捉えているように見える。表情は硬い。


「いや、まさか……ね」


 何か分かったのだろうか。首を傾げてみせると、ようやく青い目はこちらを向いた。


「どうしたの?」


「ううん、ただの気のせいだと思う」


 言うと、元気のない笑みが返ってきた。

 何だろう。何か胸騒ぎがする。お願いだから、いつものように明るく笑って欲しい。不安を募らせていると、右端に居るアレクが立ち上がった。彼は親指を森の方へと突き立て、こちらを向く。


「おい、クラウ。ちょっとあっち行かねぇか?」


「えっ? あっ、うん、良いけど」


 嫌だ、行かないで欲しい。なんとかクラウの気を引こうと手を伸ばす。届く前に、その手はすり抜けてしまった。


「ごめん、ミユ。ちょっと行ってくる」


「うん……」


 クラウも去り難かったのか、一度だけこちらに振り返る。微笑みを残し、アレクに誘われるがままに森の奥へと行ってしまった。

 誰もいなくなった森へと視線を送る。


「何の話してるんだろう」


「うーん、気にはなるけど……」


「私、やっぱり二人の所に行ってみようかな」


「駄目……!」


 ちょっとした出来心だった。それなのに、フレアは慌てた様子で私の右手を握る。


「フレア?」


「あっ……。ううん、何でもない」


 急にどうしたのだろう。フレアはそれ以上話そうとはせず、何か思い詰めた様子で俯くだけだった。

 冷たい風が私たちを撫でる。

 使い魔たちは四人で話し合っていたのだろう。クラウとアレクがいないことに気づいたようで、こちらに振り向いた。


「アレク様とクラウ様はどこに?」


「森の方に行っちゃった」


「あの方たちは……何をやってるんだか」


 ロイはやれやれと言わんばかりに溜め息を吐く。そこへ草を踏む足音が聞こえてきた。クラウとアレクが戻ってきたのだ。アレクは私たち六人に目配せをすると、口を開く。


「悪かったな。そろそろ行くか。日が暮れちまう」


「本当ですよ。何をしてらっしゃったんだか」


「まあ、こっちの話だ」


 アレクとロイが言い合いを続ける中で、そろそろと倒木から立ち上がった。道の真ん中で佇むクラウの元に駆け下り、難しそうな顔を見上げてみる。


「何してたの?」


「うーん、ちょっとね」


 アレクと同じで、答えてくれる気はないらしい。むっと膨れると、クラウに苦笑いされてしまった。

 八人で、定番となった隊列を組む。誰からともなくそろそろと歩き出す。

 数十歩歩いたところで、看板を見つけた。この数字は1だろうか。


「あと一キロか。もうちょいだな」


 やった。もう少しで、この旅という苦行ともお別れ出来る。私だけではなく、全員の歩くペースが上がる。

 森の奥に建物らしきものが見えた時には、歓声が上がったものだ。

 しかし、それもすぐに落胆と失望に変わってしまう。


「嘘……だろ?」


 フレアとアレク、更にサラとロイの背中越しに見えたものは、豪邸なんかではなかった。廃墟だ。屋根は崩れ落ち、壁にもひびが入っている。こんな所に、本当に呪いを解く方法が眠っているのだろうか。


「とにかく、行ってみよーぜ」


 不安そうに振り返るサラとロイに、アレクは優しく声をかける。フレアも頷くので、二人は歩き出す他になかった。

 嘘だ。こんなの、絶対に認めない。涙で潤む視界に、挫けそうになる。


「俺は諦めてないよ。だから、ミユも」


「……うん」


 左腕で涙を拭い、右手でクラウと手を繋ぐ。その大きな手は小刻みに震えていた。

 森を抜けて視界が開けると、見るも無残な廃墟へと移り変わる。


「良いか? 瓦礫を取っ払ってでも、意地でも何か手掛かりを探すんだ。もう、他に方法は残ってねぇんだ」

 

「はい!」


 四人の使い魔は、駆け足で出入り口を潜り、素手で瓦礫の撤去作業へと移行する。空の色は黄色からオレンジへと変わってしまっていた。

 私たちもその中へと加わり、必死に手を動かした。多少、掌が擦りむけてしまっても構わない。望みが断たれないのであれば。


「そろそろ休もーぜ。日が暮れちまう」


 気づいた時には空は紫色へと変わり、手元も暗くなっていた。そこへ、アリアがランタンを手にして近づいてくる。


「ミユ様、明日もありますから」


「……うん」


 一刻も早く、こんな呪いを解いてしまいたいのに。

 手にしていた拳大の瓦礫を手から落とし、出入り口を潜る。

 食欲なんて出る筈もない。テントの中で摂った夕食のパンは、数口で止めてしまった。


「ミユ、もう良いのか?」


「うん」


「ちょっと食べてくれただけでも偉いよ」


 自身も食が進んでいないのに、クラウは私の頭を撫でる。頬が僅かに熱くなっただけで、感情の変化は乏しい。


「私、もう休むね」


「では、ミユ様はこちらに」


 アリアがもう一つのテントを指し示すので、それに従った。アリアとクラウと三人で、連れ立ってテントの中に入る。

 着替えもせずに布団の中へ入ると、クラウが手を握ってくれた。


「また、明日があるから。大丈夫」


 クラウの『大丈夫』という言葉に、何度救われただろう。きっとなんとかなる。こんな状況でも、希望を失わないでいられる。

 大きな手が私の頭を優しく撫でる。


「おやすみ」


 その言葉に導かれように、深い眠りへと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ