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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第22章 希望から失望へ

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希望から失望へⅠ

 朝日を浴びながら、手に持つパンも放置し、唸り声を上げる。

 湖の畔から数百メートル進むと、分かれ道に差しかかったのだ。看板や立札の類は何もない。


「どっちに行けば良いんだ?」


 アレクの声に反応する者はいない。クラウと指を絡め合い、互いの顔を見合わせる。


「もう、どっちかに賭けるしかないよ。間違ってたら到着が一日遅れちゃうけど、仕方ない誤差だよ」


「でもなぁ」


 クラウの返事にも納得していないのか、アレクは頭に手を当てた。

 アレクの空いた手を握り、フレアは眉間にしわを寄せる。


「はっきりしない人は嫌われるよ?」


「あ? あぁ……まぁ、な。どっちの道が良いか多数決で決めるか?」


「それで良いよ」


 私とクラウ、フレアはアレクに頷いてみせる。


「私たちは魔導師様たちに一任します。私たちに行く先を決める権利はありませんので」


 ロイが言い切ると、他の使い魔三人も頷いた。


「じゃ、オマエら決めたか? せーのでいくからな。せーの!」


「右!」


「左!」

 

 アレクとフレアが右、私とクラウが左で、意見が真っ二つに割れてしまった。またしても唸り声を上げる。


「使い魔も入れ」


「ですが……」


「このままじゃ決まんねーよ」


 アレクとロイが口論をする最中で、もう一度分かれ道を見比べてみる。どちらとも森の奥に続いており、どちらが正解の道なのか、さっぱり見当がつかない。

 その時だ。


 ”右に行け”


 ふと、誰かの声が聞こえたのだ。どこかで聞いたことのある声なのだけれど、誰の声なのか思い出せない。


 ”右に行くんだ”


 また聞こえた。

 正解は右の道だ。強い意識が働き、言葉となって溢れていた。


「右だよ」


「ミユ?」


「右の道を進めば、クレスタの館に行ける」


 クラウの手を引っ張り、駆け出していた。アレクとフレアを追い越し、ロイとサラも通り過ぎ、右の道へと入る。


「ミユ!」


 強い力に右手が手繰り寄せられ、クラウの身体に衝突した。

 今、私は何を必死になっていたのだろう。自分が分からなくなる。


「ミユ、なんか変だよ?」


 私もどうかしていたと思う。自分を突き動かしていたものの正体が分からない。


「声が……聞こえて……」


「どんなことを言ってた?」


「『右に行け』って」


 間を置き、クラウは質問を重ねる。


「誰の声だった?」


「神様、かな。私、この世界に知り合いなんてほとんどいないし」


 神しか思い当たらない。

 砂利を踏みしめる音が近づいてくる。他の皆もようやくこちらへやってきたのだろう。


「とりあえず、こっちに進むか。ミユが意見変えたから、さっきの多数決も右が過半数超えたしな。違ったら、ワープしてここに戻ってくる。これ以上考えててもしょうがねぇ」


「そう、だね」


 納得はしていないのかもしれない。それでも、全員が頷くしかなかった。

 道を踏みしめる足取りは軽くはない。緊張の糸が途切れれば、いつ崩れてしまうか分からない。そんな中、前だけを見て進む。途中で隣から唸り声が聞こえた。


「でも、なんで神様はミユにだけ?」


 クラウは大きすぎる独り言を呟いた。

 何時間歩いたのかは、もはや分からない。無言の空気に、もう耐えきれなくなってしまった。


「ねえ、皆、何か話そうよ~」


 悲鳴にも似た呟きが漏れる。


「話なんかしてたら、オマエ疲れるんじゃねーか?」


「静かなのよりはマシだもん」


 呆れ顔を向けるアレクに眉をひそめ、唇を尖らせてみる。

 思うところがあったのか、アレクはその表情を和らげた。


「そーだな。話でもするか。オマエら、小さい頃の遊びは何だった?」


「水遊び」


「雪合戦」


「ブランコ」


 アレクの問いに、三者三様の答えが出揃った。


「ガーネットって暑いから、水で暑さを凌ぐしかないの。皆でプールに集まって遊んだなぁ。ウォータースライダー、怖かったけど楽しかった」


 フレアは遠い目をして顔を綻ばせる。


「俺は雪だるまとか、かまくらとか作ったりもしたし、スケートもしたけど、一番思い出に残ってるのは雪合戦かな。顔面に雪玉当たったりもしたけど、楽しかった」


 クラウは、ははっと笑い声を漏らす。


「私は遊具でいっぱい遊んだよ。滑り台とか、シーソーでも遊んだけど、一番はブランコだなぁ。自分では思いっきり漕いだつもりだったけど、今見たらそうでもないんだよね~」


 友達とブランコに乗って、どちらが高くまで漕げるか競走したものだ。幼稚園時代にまで記憶が遡り、思いを馳せる。幼稚園ではお泊り会もあったし、お遊戯会もあったし、楽しいことがいっぱいだった。

 今となっては遠い昔のように感じられる。


「オレは砂遊びだったな。棒倒しで勝った時は、嬉しくてその辺走り回ったけどよー。トパーズの城を作ろーとして砂が崩れた時は泣いたな」


 アレクでも泣いたことがあるなんて。意外だ。驚いていると、アレクはニッと笑った。


「んじゃ、次は家庭教師に教わってたの頃の話だな。何の講義が好きだった?」


「家庭教師?」


 学校ではないのだろうか。頭にはてなが浮かぶ。


「ミユは学校に行ってたのか? んなら、その話でも良いぞ」


「ダンス」


「語学」


「音楽」


 今度もバラバラな意見が揃い踏みした。


「オレはテーブルマナーだな。色んなもん食えて、教養も学べるんなら一石二鳥だろ」


「アレクらしい」


 フレアはふふっと笑い、アレクを見遣る。


「そっか。ミユ、笛吹けるもんね」


「うん」


 フルートを始めたのは高校からなのだけれど、音楽は小学生の頃から好きだった。歌うのも、リコーダーを吹くのも好きだった。


「クラウは語学?」


「うん。昔から本を読むのが好きなんだ。特にファンタジー系の話が好きだな」


 クラウの口からファンタジーなんて言葉が出てくるとは思わなかった。私にとっては、この世界そのものがファンタジーなのだから。

 不思議な感覚を覚えながら、感嘆の声が漏れた。

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