表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第21章 想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/90

想いⅡ

 オレンジが香るパンを齧り、ひしと噛み締める。


「クレスタの館ってどんな所なんだろうな」


 ぽつりとアレクが呟いた。それにクラウが答える。


「豪華な屋敷を想像してたけど……違うのかな」


「こんな辺鄙な所に、んな豪華な屋敷なんか建てるか?」


「貴族の別荘とかさ」


 別荘を建てて、呪いに関わる何らかの痕跡を残した。そう言うことだろうか。

 「う~ん……」と唸りながら、エメラルドで見た貴族の邸宅を思い返してみる。

 あれだけ大きな建物なら、主も知らない何かが残っているのかもしれない。


「で、その館のどこに呪いを解く方法があるんだ?」


「館にいる人に聞いてみよう?」


「それもそーだな」


 アレクは一人納得したようで、うんうんと頷く。


「明日には到着だ。肩に力入れても結果は同じだ。気楽に行こーぜ」


 明日、か。明日には、私の命運は決まるのだ。気楽に行ける筈もない。アレクの顔を見ながら、口をへの字に曲げてみる。


「オマエら、そんな顔しなくても良いだろ? 呪いは解ける。オレはそう信じてる」


 オマエ『ら』という言葉が引っかかり、クラウとフレアの顔も見てみる。揃って不服そうな顔をしていた。溜め息を吐き、二人に首を振ってみせる。

 話し合いが終わったのか、ロイを先頭に使い魔たちがこちらへとやってきた。


「一人でも気楽な方がいないと、上手く行きませんよ。皆さん、出発しましょう」


 それもそうか。暗い気持ちばかり引きずっていては、良い結果は生まれない。深呼吸をし、森の新鮮な空気を肺へと送り込む。

 きっとなんとかなる。みんなと合わせて立ち上がり、カノンのリングを握り締めた。

 森を歩くのも、段々と苦痛になってくる。曇天のせいもあるけれど、日差しはあまり届かないし、景色が変わり映えしない。道の傍らで咲く野花に気持ちを持っていくことしか出来なかった。


「あれ、なんていう花だろう。可愛い」


 六枚の花弁を持つ白い花を指差し、心をときめかせる。


「それはタマスダレですね。別名、レインリリーとも言います」


 後ろからアリアが解説をしてくれた。雨に咲く百合――別名も可愛らしい。

 次にマーガレットに似た黄色の花を指差す。


「じゃあ、あの黄色い花は?」


「ウツクシナです」


 変わった名前だ。目を凝らしてみると、蜜蜂らしき虫が一匹だけ飛び回っている。

 自然はこんなにも逞しい。地震があったばかりなのに、花は咲き、虫も活動している。

 そして、昨日見た村の惨状がちらりと思い返される。胸が痛み、唇を嚙み締めた。


「ミユ」


 声にはっとし、顔を上げた。青の瞳が私を見詰めている。縋るように、その左手を握り締めた。クラウもしっかりと握り返してくれる。

 そんな時、道が右へと曲がった。まっすぐに行った先には、水面のようにキラキラと光を反射する何かがある。もしや、湖だろうか。


「あの湖の辺りでテントを張りましょうか。魚もいっぱいいるでしょうし」


 嫌でも意識してしまう。百年前に想いを伝え合った日を。影と戦った日を。

 ロイの声を曖昧に聞き、ごくりと生唾を飲み込んだ。

 湖があるからと言って、何かが起こると決まった訳ではない。恐らく、あの湖とは違う場所だ。落ち着け自分、と深呼吸をしてみる。

 道を進めば進む程に、眼前には湖が広がっていく。湖水は茶色く濁ってはいるものの、波打つ水面は太陽の光を嫌と言う程に反射させる。小川は湖から流れていたものだった。木製の橋を渡ると、湖畔が視界を占める。

 先頭が足を止め、こちらに振り返った。

 

「到着ー! 休みましょう!」


「ミユ、ちょっとこっちに来て欲しい」


「えっ? うん……」


 返事をするや否や、クラウは私の手を引いて足早に湖を目指す。

 どうしよう。もしかしたら、もしかするのかもしれない。緊張は最高潮に達していた。

 クラウが足を止めたのは湖の水際だった。靴が濡れてしまわないように気をつけながら、小石が転がった畔に腰を下ろす。

 景色を楽しんでいる余裕はない。心臓が喉から飛び出そうだ。


「俺、ミユに話がある」


「何?」


 声だって上擦ってしまっただろう。

 湖の方を見ていた青い瞳は、まっすぐにこちらを向いた。


「俺、ミユのことが好きだ」


 瞬間、顔が火を噴いた。時が止まったかのように感じられる。

 風が私たちの間を駆け抜け、また時間が動き出す。


「私も……好き。クラウのことが好き。だけど……」


「……何?」


 俯き、なんとか自分の想いを伝えようと試みる。唇は僅かに動くのに、声が出てくれない。

 もう一度声を出せるまでには、数分かかったように感じられた。


「クラウが好きなのは、私とカノン……どっち?」


 言った瞬間、クラウは目を見開く。また、数秒間の間が開いた。


「確かに、きっかけはカノンだった。でも、今の俺はミユのことが好きだ。断言出来るよ」


「ホント?」


「うん」


 私を見る瞳は、まったくブレていない。深い青に吸い込まれそうになる。


「ミユが好きなのも、リエルじゃなくて、俺?」


「うん。最初からクラウのことしか見えてなかった」


「良かった……」


 ここにきて、初めてクラウの瞳が揺らいだ。

 どちらからともなく互いの体温を求め、抱擁を交わす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ