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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第21章 想い

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想いⅠ

 仲間とはいえ、男性陣と寝所を共にする訳にはいかない。サラがテントをもう一つ持ってきていたので、女性陣はそちらで寝ることにした。梟の鳴き声を聞きいているうちに、いつの間にか眠りに落ちていたようだ。

 浅い眠りの中からぼんやりと覚醒する。窓からは日が入っているので、朝を迎えたのだろう。寝た割には頭がはっきりとしない。

 目を瞬かせ、深呼吸をする。

 大丈夫、私はまだ生きている。右手を胸に当て、鼓動を感じた。


「ミユ、起きた?」


 声の方を振り向いてみると、眠たそうな赤の瞳が間近にあった。


「あたし、良く眠れなかった」


 言い終わるや否や、フレアは欠伸をする。私にも欠伸が移り、大きく口を開けた。


「私もだよ〜。あんまり眠った感覚しないもん」


「だよね。影がいつ襲ってくるか分からないのに」


「私たちが見張っていますから。お二人にはしっかり休んで頂かないと」


 眠気を感じさせないアリアの声が頭の方から聞こえる。

 こんな状況でしっかり眠れという方が無理がある。


「アリア、強制は良くない」


 小さく、鈴の音のような可愛らしい声が聞こえた。これはサラの声だろうか。初めて声を聞いた。

 驚いていると、フレアはむくりと起き上がる。


「早く着替えて、男性陣の様子を見に行かなきゃ。カイルとロイがいるからそんなことはないと思うけど、また殴ってたら大変だし」


「えっ!?」


 三週間程前のクラウの痛々しい顔が思い出せれる。あんな事態は避けなくては。

 慌てて跳ね起き、傍らに置いてあった麻袋に手を伸ばす。適当に衣服を引っ張り出し、着替えを始めた。人を殴るなんて最低だ。たとえ、何か事情があったとしても。一心不乱に着替えたせいで、マントが斜めになっていたらしい。フレアの手が伸びてきて、マントの留め具を右へと引っ張る。


「ミユ、慌て過ぎ」


「だって……」


 心配で堪らなかったから。口に出来ずに唇を尖らせてみる。


「アレクもそんなに馬鹿じゃないから。すぐには手は出さないよ。さっきのはあたしがオーバーだった。ごめんね」


「それなら、うん」


 一旦、冷静さを取り戻そうと深呼吸をした。頭がスッキリとする。


「ちょっと待ってて。あたしもすぐ着替えちゃうから」


「うん」


 フレアの着替えを数分ばかり待ち、四人揃ってテントを出た。出たすぐ側で、準備を整えた男性陣と鉢合わせする。


「おぉ、丁度良かったな。オマエらを迎えに行こうとしてた所だ」


「あたしたちもだよ」


 アレクとフレアは優しく笑い合う。それよりも、クラウの顔だ。私を見て微笑むその顔には、傷一つない。良かった。


「どうかした?」


「ううん、なんでもない」


 目をぱちくりと瞬かせるクラウに、首を振ってみせる。


「ま、良っか」


 何もないのなら、それが一番良い。私がふふっと笑うと、クラウも小さく笑う。

 そうしている間に、使い魔たちはテントを片づけたようだ。周囲は木々と道しかない、静かな森へと戻っていた。


「それでは、今日も一歩ずつ進みましょう」


「は〜い」


 元気良くカイルへ返事をすると、何故かみんなに笑われてしまった。変なことをしてしまっただろうか。首を傾げてみても、クラウがニコニコと笑うだけだった。

 この日の空は雲で陰っており、余計に風が肌寒く感じられる。マントを羽織っているお陰で、大分、体感気温は上がっただろう。朝食のパンを齧りつつ、水筒の水で喉を潤しつつ、足を動かす。


「あのさ」


 隣から聞こえた声に、首を傾げる。


「何〜?」


「ミユの誕生日っていつ?」


「えっ? 九月二十日だけど……」


 プレゼントでもくれるのだろうか。期待に胸を膨らませつつ、次の言葉を待った。


「九ヶ月後、か……。ありがとう」


「クラウの誕生日は?」


「えっ、俺の? 十一月十五日」


「えっ?」


 もう過ぎてしまっている。しかも、出逢った後に。プレゼントをあげていないどころか、『おめでとう』の一言も言えていない。何故、もっと前に聞けなかったのだろう。


「誕生日なら、誕生日って言ってよ〜!」


「だって、それどころじゃなかったから……」


「嘘〜……」


 あまりにも衝撃的過ぎて、心がついていかない。大きな溜め息を吐くと、クラウは小さく笑う。


「来年祝ってくれたら、それで良いよ」


「うん……」


 来年こそ、絶対に祝ってあげよう。また生きる理由が出来た。

 

「私、頑張って生き残るから」


 アレクとフレア、その先に居るロイとサラよりももっと先を見据え、未来に思いを馳せる。クラウにプレゼントを渡す自分の姿を想像してみる。それがどんなに過酷な道であろうと、必ず乗り越えてみせる。決意を新たにすると、クラウが頭を優しく撫でてくれた。


「良し、休憩だ!」


 アレクが足を止めたのは、たいして景色が変わり映えしない場所だった。相変わらず砂利道だし、傍には小川が流れている。

 砂利の上に腰を下ろしてはお尻が痛くなりそうなので、川原へと移動した。魔導師と使い魔、それぞれ四人で組になって円に座る。


「オマエら、疲れてねぇか?」


 アレクは私とフレアに目配せをした。


「あたしは大丈夫」


「私も」


 意外と平気なものだ。足の裏は多少痛いけれど、筋は張っていない。筋肉痛もない。

 アレクは返事を聞くと、傍らに置いてあったクラフト紙の袋に手をかける。


「昼飯だ。文句は言うなよ」


 中から出てきたのは、またしてもハードパンだった。一人につき一つづつ渡してくれる。

 文句を言う者なんている筈がない。旅の道中だ。腹が満たされて、美味しければ何でも良い。

 ううん、何でもは言い過ぎたかもしれない。野ウサギなどは使い魔を連想してしまい、食が進まなかっただろう。アリアの方を見てみれば、使い魔たちで作戦会議をしているようだった。

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