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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第19章 災禍

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災禍Ⅱ

 アリアの声に共鳴するように、大地が唸り声を上げ始めた。風が止み、木々が騒めく。と同時に、強烈な振動が襲い来る。家具たちがガタガタと嫌な音を立てる。

 思わず頭を抱えた。


「早く!」


 アリアが叫ぶや否や、他の使い魔たちの姿は掻き消えた。

 アリアは私の身体に覆い被さる。


「怖い……!」


「仕方ありませんね」


 呟く声が聞こえたかと思うと、周囲に光が満ち溢れ、浮遊感に捕らわれた。この感覚はワープだ。

 私は魔法を使っていないのに、どうして。訳が分からずに震えていると、私に掴まっていたものが離れ、重たいものの落ちる音が響いた。


「アリア……!」


 私の隣に横たわるアリアの額には汗が滲み、その呼吸も荒い。


「どうして?」


 何故、こんなことになってしまったのだろう。涙が溢れ、滴り落ちる。

 ふらつく身体を無理やり起こし、アリアの肩を軽く揺さぶった。


「アリア!」


「ミユ様……。良かった……」


 囁くと、緑の瞳は瞼に閉ざされた。


「やだ……。アリア……!」


 叫んでみても、反応は返ってこない。死んでしまったらどうしよう。

 怖くなり、彼女の身体に縋り、声を上げて泣いた。丁度そんな時だった。


「ミユ!」


 足音が聞こえる。誰かが近づいてくる。

 振り返ると、そこにはクラウとカイルの姿があった。走り寄ってくるクラウに反射的に飛びついた。


「アリアが……! どうしよう……!」


 わんわんと泣く私の背中を、大きな手が優しく撫でる。


「カイル、アリアの様子は?」


「確かなことは言えませんが、あの状況です。魔法陣なしでミユ様をワープさせたのでしょう」


「そんな、無茶な!」


「ミユ! アリア! 無事か!?」


「地震があったってホントなの!?」


 どうやらアレクとフレアも来てくれたらしい。でも、私の頭はアリアのことでいっぱいだ。泣くことしか出来ない。

 

「そんなの、後で良い! 俺はミユを運ぶから、カイルはアリアを運んで!」


「分かりました!」


 背中と膝の裏に何かが触れると、身体がふわりと浮いた。揺れる身体、足音、それらをなんとなく感じる。

 扉の開く音が聞こえると、フカフカな物の上に座らされた。これは多分、ベッドだ。

 顔から両手を退けると、隣にはクラウが座っていた。私の右手を取り、ぎゅっと握り締める。目の前にはアレクとフレアがしゃがみ込み、私に優しい眼差しを向けてくれていた。


「ここはダイヤだよ。もう安全だから」


「アリアは?」


「使い魔が見てくれてるから。心配しなくて良い」


 クラウの言葉を、アリアの生命力を信じるしかないだろう。小さく頷き、口を結ぶ。


「混乱してるだろーけど、聞かせてくれねぇか? 影が現れたのはホントか?」


 アレクの問いに、こくりと頷く。

 

「地震が起きたのもホント?」


 フレアの問いにも、こくりと頷く。


「ヤベぇな……時間がねぇ……」


 私の呪いを解く時間は、果たして残されているのだろうか。心臓が嫌な鼓動を始める。左手で胸を押さえつける。


「でも、どうしてエメラルドだけに災害が? トパーズにも、サファイアにも、何も起きてないでしょ?」


「エメラルドに呪いを解く手がかりがあるからだろ。そのうち、世界中で災害が多発するかもしれねぇ」

 

 百年前と同じことが起きるというのだろうか。ごくりと生唾を飲み込む。


「ミユの熱が下がって、アリアも回復したら、すぐにエメラルドに行くぞ。戦いになる前に、ぜってぇミユの呪いは解かなくちゃな」


 アレクの言葉に、クラウとフレアは無言で頷いた。

 そうだ。三人も呪いを解く方法を探してくれていたのではないか。その結果はどうだったのだろう。


「みんなの結果は?」


 三人に聞こえるか聞こえないかと言う程の声量で問いかける。三人は一様に俯いてしまった。


「済まねぇ。オレは、何も見つけられなかった」


「あたしも」


「俺もだよ」


 ルイスとオリビアから聞いた方法に賭けるしか道はない。そう言うことだ。

 大丈夫だ。きっと、呪いは解ける。信じよう。


「きっと、呪いは解けるよ」


 自分にも言い聞かせるように呟き、三人に微笑んで見みせた。笑顔の輪は広がっていく。


「そういえば、ミユ、熱は?」


 クラウの右手が私の額に触れる。温かい。


「熱が引いてる?」


「えっ?」


 言われて初めて気づいた。寒気はないし、身体の怠さもない。


「熱っぽさが……なくなったみたい」


「んな都合の良いことあるか?」


 アレクは眉間にしわを寄せる。


「前に影が接触してきた時に、ミユに魔法をかけた、なんてことはねぇよな」


 有り得ない話ではない。影は用意周到な性格だ。


「いや、考えても仕方ねぇか。今のは忘れてくれ」


「忘れられる訳ないじゃん。影は、そういう奴だよ」


「そう、だったな」


 アレクは大きく息を吐き出し、首を横に振る。フレアも思い詰めた様子で俯いてしまった。

 その時、私のお腹が限界を迎えたようだ。緊張感のない音が部屋に鳴り響く。瞬時に顔が高温を発した。俯いて、なんとか顔を隠してみる。


「六時か。そりゃ、腹も減るな」


 間を置き、手を合わせる音が聞こえた。


「飯作ってきてやるからよー、ちょっと待ってろ。なんかあったら、すぐに呼びに来るんだぞ」


 顔を上げた時には、アレクはこちらに背を向けていた。片手をヒラヒラと振り、部屋を後にする。

 すぐにアレクと入れ違いでロイがやってきた。

 

「アリアの様子はどう?」


「まだ意識が戻りません。回復まで二、三日かかるかもしれません」


 ロイの返事に、クラウは顎に手を当てて「うーん」と唸り声を上げる。

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