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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第19章 災禍

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災禍Ⅰ

 熱が出て、早五日が経った。体温は高いまま、なかなか引いてくれない。

 アリアは私の看病の為と防守のために、この部屋を離れることが出来なかった。聞き込みも出来ないし、蔵書を調べることも出来ない。

 流石にまずいとは思うのに、身体が言うことを聞いてくれない。

 ぎゅっと布団を握り締め、粥の入っていた皿を持つアリアを見詰めてみる。私の間近でアリアは目をぱちくりとさせた。


「どうなさいましたか?」


「早く、皆に知らせなきゃ」


 アリアはむっとした表情へと変わる。


「お熱を下げる方が先です」


「そんなこと言ったって~」


 役割を果たしているのかどうかも怪しい、額の上の水嚢を見遣った。


「いつになったら熱が下がるの~」

 

「そう仰られましても……」


 アリアに言っても仕方がないのは分かっている。

 けれど、これだけは言わせて欲しい。


「アリア、皆に伝えてきて。一つだけ、呪いが解けるかもしれない方法が見つかったことと、私が熱を出して動けないこと」


「ですが、ここを離れる訳には……」


「お皿を片づけるついでだと思って、お願い」


 尚もアリアを見詰めてみる。

 観念したのか、アリアは細い息を吐く。椅子から立ち上がり、テーブルに皿を置いた。


「口伝では時間がかかります。メモを置いてきましょう。今は、皆様方は出かけておいでだと思いますし」


「うん」


 アリアは部屋を動き回り、紙とペンを用意する。椅子に座り、何かを書き連ねると、その三枚の紙を手にこちらへ戻ってきた。


「一分以内に戻ってきます。もし何かあったら、絶対に悲鳴を上げてください。私も気づくのが早くなりますから」


「分かった」


「では、行ってまいります」


 アリアは頷き、瞼を閉じる。ウサギの姿に変わると、光に包まれて掻き消えてしまった。

 一分くらいなら、きっと大丈夫だ。そう高を括った。

 みんなは何か発見があっただろうか。あったら良いな、と淡い期待を抱いてしまう。一つよりも二つ、更に三つの方法があった方が、呪いを解ける可能性は高くなるからだ。

 小さく溜め息を吐き窓の外へと目を遣った。今日の天気は曇りだ。一羽の白い小鳥が窓を横切った時、アリアは無事に帰還した。


「目のつきやすい所に置いてきた筈です。メモを見たら、一度エメラルドに来るようにと使い魔には伝えています」


 良かった。これで、私の心配事は一応解決しただろう。安心すると、眠気が襲ってきた。瞼が重い。


「ミユ様、一度眠ってしまわれては?」


「うん、そうする……」


 ぼんやりとする頭で頷き、そっと瞼を閉じた。


 夢は見なかった。ううん、覚えていないだけなのだろうか。

 深い息を吐き、窓を見遣る。空の雲は僅かに黄色みを帯びていた。


「あっ! ミユ様がお目覚めに」


「ご気分はどうです?」


 この声はアリアではない。カイルとロイだ。ゆっくりと首を動かすと、アリアとカイル、ロイ、それにサラの姿もある。


「みんな、来てくれたの?」


「はい。アリアのメモを読みましたから」


 使い魔は揃って笑顔で頷いてくれた。


「それにしても、五日間も熱が冷めないなんて。よっぽど疲労が溜まってらっしゃったのかな」


「多分、心労だよね。百年前のことを思い出されてから、色々なことがあり過ぎたから」


「お身体もだよ。走り込みしていらっしゃったし」


 カイルは「はぁ……」と大袈裟に溜め息を吐く。


「ミユ様に無理させ過ぎなんだよ、クラウ様は」


「アレク様もだよ。賛成は同罪」


「叱ったらしょんぼりしてたから、効果があれば良いんだけど」


「私もアレク様をちゃんと叱らなきゃ」


 カイルとロイは揃って溜め息を吐く。


「言うことを聞いてくれない主を持つと、お互い大変だね」


「うん」


 今度は二人で肩を叩き合い、互いを慰め合っている。

 ぼんやりと眺めていると、アリアが近づいてきた。水嚢を避けると、冷たい手を私の額に乗せる。


「まだ熱が下がらない……。どうなっているのでしょう」


 私に聞かれても、原因は分からない。首を傾げると、サラもこちらにやってきた。手を口に添え、アリアにヒソヒソと何かを伝えているようだ。


「身体の危険信号、もっと休めっていうこと、うんうん」


 アリアが頷くと、サラは手を引っ込めた。


「結論、お熱が下がるまで休みましょう」


 結論も何も、アリアの言い分は全く変わっていないと思う。思わず小さく笑ってしまった。

 カイルとロイは安堵の息を漏らす。


「笑えるのなら、安心致しました」


「快方ももうすぐでしょう」


「そうだと良いんだけど」


 早く熱が下がれば良いな。祈りながら、天井を見た。一瞬、黒い靄のようなものが過った気がする。


「えっ?」


 その瞬間、氷柱が私の上を通ったのだ。それは轟音を立て、壁に突き刺さる。

 殺気が私を覆い尽くす。


「ミユ様!」


 悲鳴にも似たアリアの声とともに、何かが私に被さった。この赤髪はサラだ。

 恐ろしくて、なかなか視線を動かせない。

 震えながら声にならない声を発していると、またしても轟音が耳をつんざいた。


「いや……」


 確実に影がいる。この部屋が戦場と化している。逃げたくても身体が動かない。魔法を使いたくてもコントロールが出来ない。

 こんなところで殺される訳にはいかないのに。


「えっ!? どこに行った!?」


 声に気がつき、思わず振り向いてしまった。いる筈の影がいない。殺気も消えた。

 また何も危害は加える気はなく、ただ脅しに来ただけだろうか。そう思われた時だった。


「みんな、魔導師様のところに戻って!」


 アリアが叫んだのだ。


「そんなこと、出来る訳がないじゃないか!」


「良いから、早く! 地震が……来るの!」

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