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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第18章 小さな冒険

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小さな冒険Ⅱ

 しかし、頷くことは出来なかった。そんな未来が本当にやってくるのだろうか。心のどこかで疑問を感じていたのかもしれない。


「んじゃ、出陣祝いの飯でも食うか! ロイ、頼む」


「作ってあったと思っているんですか? 今は六時、皆さんがお戻りになったのは五時前。料理をしている時間なんてありませんでしたよ」


「はぁっ!?」


「驚くこともないでしょう。一時間以内には作ってきますから」


「また一時間かよ……」


 なんとなくアレクとロイの会話を聞きながら、ゆっくりと振り返る。そこには頭を抱えるアレクと、やれやれと肩をすくめるロイの姿があった。


「一時間くらい、すぐですよ。皆、行こう」


「うん」


 ロイは先頭を切って退室し、カイルとサラも私たちを気にしながら後に続いた。

 置いていかれたクラウとアレクはうんざりした様子だ。


「ミユ様、私も行きませんと」


「あっ、ごめんね」


 今頃になってアリアから身体を離し、一歩後退る。アリアは私たち全員に微笑みかけると、閉ざされていく扉の奥へと消えた。


「待つのは仕方ないけど、あたしもちょっとだけ疲れちゃった」


「ちょっとじゃねーよ」


 アレクは頭に片手を置き、大きな溜め息を吐く。そこへ、クラウが何かを閃いたように手を合わせたのだ。

 

「そうだ、皆でトランプでもしない? 部屋から持ってくるよ」


 聞き覚えのある言葉に疑問符が浮かぶ。


「えっ? トランプ?」


「あっ、ミユは分かんないか。後でルールを教えるよ」


「ううん、私がいた世界にもトランプがあったから、ビックリしてるの」


「えっ?」


 クラウだけではなく、アレクとフレアもぽかんと口を開けている。数秒間、時が止まったかのように感じた。


「ミユが言ってるトランプと、俺たちの言ってるトランプが同じかどうかは分かんないけど……。とりあえず、持ってきてみる」


「あ、あぁ」


 首を傾げつつ、クラウは足早に部屋へと向かう。残された私たちは顔を見合わせた。


「異世界なのに、んな偶然ってあるのか?」


「あるからミユもトランプを知ってるんだろうけど……」


 アレクとフレアは唸り声を上げる。


「でも、ホントに一緒なのかは分かんないから」


「まぁ、そーなんだけどよー」


 私の発言にも納得していないようだ。

 それから間もなく、クラウは帰ってきた。手しているのは、やはりカードの束だ。


「これなんだけど……」


 座りながら、私にそれを渡してくれる。細かい唐草模様の裏面、見たことのある数字と記号が羅列してある表面、どう考えても地球のトランプと同じだ。

 驚いてしまい、なかなか言葉が出てきてはくれない。


「ミユ、ババ抜きって知ってる?」


 ぼんやりとクラウの声が聞こえる。

 

「知ってる。最後までジョーカーを持ってる人が負け」


「じゃあ、ポーカーは?」


「知ってる。賭け事でしょ?」

 

「遊び方まで一緒……?」


 先程のアレクの言葉通り、こんな偶然なんてあるのだろうか。


「遊び方が一緒なら、ルールを教えなくても良いだけでしょ? 気楽に考えよう?」


「そうなんだけどさ」


「じゃあ、ババ抜きしよう? クラウ、トランプ切って」


「う、うん」

 

 不思議で堪らない。フレアが言うのでトランプに興じ始めたものの、終始、不可解で仕方がなかった。使い魔に聞いても理由は分からないと思われたので、疑問をぶつける者もいなかった。

 ロイの宣言通り、夕食も一時間で用意された。魚介のパエリアに卵サラダ、ハンバーグにチーズケーキ――多分、美味しかったのだと思う。


 * * *


 あっという間に一日は過ぎた。朝食は摂ったし、フルートと楽譜、日記などは鞄に詰め込んである。

 後は仲間たちと別れの挨拶を交わすのみだ。

 アリアと一緒に部屋を出て、会議室へと向かう。その途中でアレク、ロイと出くわした。立ち止まることはなく、アレクの横に並ぶ。


「忘れもんはねぇか?」


「うん、大丈夫。忘れてもすぐに取りに来れるし」


「それもそーだな」


 アレクは「ははは」と笑い、私の肩をポンポンと叩く。


「ちゃんと食うもんは食うんだぞ」


「分かってるよ~」

 

 まるで親戚か何かのようだ。思わず小さな笑いが漏れる。

 扉を開けると、既にクラウとフレアは窓際で談笑していた。傍にはカイルとサラの姿もある。

 一度話を止めて微笑む二人の元へ、トコトコと走り寄った。


「オマエら早かったな」


「持って帰るものなんて、ほとんどないから」


「それはそーなんだけどよ」


 フレアの素っ気ない反応に、アレクは頭を掻く。


「何かしてたの?」


「まぁな。これ渡そうと思ってよ」


 アレクは小さなクラフト紙の袋をフレアへ手渡した。中身を確認したフレアは目を輝かせる。


「唐辛子のキャンディ……。ありがとう」

 

「あぁ、また作ってやる」


 唐辛子のキャンディで喜ぶなんて、余程辛い物が好きなのだな、と感心してしまった。

 クラウも二人の姿を見て苦笑している。


「皆の顔も見れたし、俺は帰るよ。この二週間が勝負だからね」


「あぁ。時間の制約があるのは厳しいけど、文句は言えねぇしな」


「あたしも出来るだけのことはしてくるから」


 私のために皆が必死になってくれているのは酷く嬉しい。ただ、無理をしないで欲しいのは事実だ。


「ちゃんと食べてね? ちゃんと寝てね?」


「大丈夫、分かってるよ」


 クラウに笑われて、アレクみたいなことを言ってしまったと恥ずかしくなった。紅潮した頬を隠すように照れ笑いをした。


「じゃあ、二週間後に、また」

 

 名残惜しくはあるけれど、時間が勿体ない。挨拶も早々に会議室を後にした。

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