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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第16章 意思表明

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意思表明Ⅱ

 それからどれくらいの間、魔方陣の上に居座っていたのかは分からない。ただただ悔しくて、意地でも動いてやるものかと歯を食いしばる。


“実結”


 カノンに優しく名を呼ばれても、上手く反応が出来なかった。


“そろそろ帰ろう? 実結がダイヤを抜け出したこと、バレてる頃合だよ”


「駄目。神様から何も聞けてないもん」


 既に私の頭の中から、抜け出したことがバレてはいけないという考えは消え去っていた。神から直接謝罪があるまで、いつまでも居座る覚悟だ。


“何言ってるの! 実結まで皆に心配かけてどうするの?”


「だって、悔しいんだもん」


“それは分かるけど……”


 声から覇気が消えたカノンに、もう言うべきことはない。

 いつまで黙りを決め込むつもりなのだろう。神にとって、私はちっぽけな存在なのだろうけれど、あまりにも酷い。

 もう一言文句を言ってやろう。そう思った時だ。誰かの足音が聞こえてきたのだ。こちらに近づいてくる。この甲高いヒールの音、そんな筈は――。

 まさかと思い、はっと顔を上げた。その瞬間、左頬に衝撃と痛みが走る。その原因になった人物を見上げ、キッと睨みつけた。


「何しに来たの?」


「それはこっちの台詞だよ! 何でこんな所にいるの!?」


 薄暗がりで表情は分からない。それでも、フレアの声は震えていた。怒りのせいか、憎しみのせいか、その両方のせいなのか――。

 次の瞬間、予期していない事態が起きた。フレアはしゃがみ込み、私の身体を優しく抱いたのだ。


「お願いだから、一人で無茶しないで」


 あまりの事に、身体が動かない。ただ、怖い、と思ってしまった。

 前世で私を殺したかもしれない人だ。私も殺そうとするかもしれない。

 咄嗟にフレアの身体を突き飛ばし、身を縮めた。フレアは小さな悲鳴を上げると、そのまま蹲ってしまった。拒絶されても尚、彼女は口を開く。


「帰ろう? アレクにもクラウにも心配かけたくないから」


「二人とも、フレアがここにいることを知らないの?」


「うん。二人とも、それどころじゃないみたいだから」


「だったら、放っておいて。神様と話したいことがあるの」


 きっぱりと言い切ると、今度はフレアが目をつり上げた。


「アレクに言われたよね? 絶対に水の塔には行くなって」


「言われたけど、そんなの三日も前の話だもん」


「仲間の期待を裏切るの?」


 これは流石に頭にきた。両手でぎゅっと拳を作る。


「仲間を裏切ったのはアイリスでしょ!? 自分のことを棚に上げたりしないで!」


「あたしは……アイリスは、仲間を裏切ったことなんてない!」


 何を言っているのだろう。カノンを殺しておいて。

 しかし、それを言ったとしても、した、していないの水掛け論になってしまう。互いに感情は収まらないだろう。

 フレアのせいで、真面に神の話を聞ける状態ではなくなってしまった。ここにいる意味はない。


「神様、良かったね。私、神様どころじゃなくなっちゃった。今日はね」


 荒々しく言い捨てると、ゆらりと立ち上がった。


「帰る」


 天に一瞥をくべ、魔法を発動した。

 瞼を開ければ、そこは私の部屋の前だ。一歩足を踏み入れたなら、そこは自分だけの空間だ。一度、気持ちを落ち着けよう。

 ドアノブを回し、さっとドアを開ける。


「待って!」


 声と共に何かとぶつかり、よろめいてしまった。そのまま部屋へとなだれ込む。後方でドアが閉まると、鍵が締まる音がした。

 私の横にはフレアがいた。四つん這いで互いの顔を見る。

 ――やられた。この鍵はフレアの魔法だ。魔法でかけられた鍵は、魔法を使った本人しか開けることは出来ない。

 密室で一番会いたくなかった人と二人きり――何があるか分からない。心臓が妙に脈打ち、嫌な汗までもが滲んでくる。


「フレア、よく私と二人きりになれるね」


「疑いを晴らすためには、こうでもしないと駄目だって分かったから」


「疑い?」


 私にとっては、疑いではなく確信に近い。


「あたしたち、エメラルドの湖の近くで仲直りした筈でしょ? どうしてあたしがカノンを殺す、になるの?」


「湖で仲直り? なんのことを言ってるの?」


「えっ? ヴィクトとリエルが魔法対決してた時、あたし謝ったよね?」


 ううん、違う。私の記憶では、夜にアイリスと二人で会う約束をしただけだ。

 首を横に振ると、フレアは怪訝そうな表情をする。


「何で? あたしとミユで、記憶が⋯⋯違う?」


「えっ?」


 記憶が違う――そんなことが有り得るのだろうか。もし、フレアが事実を言っていて、私の記憶が間違っていたなら、ううん、その逆だってある。

 私の頭の中は混乱状態だ。正常な判断が出来るとは思えない。


「ごめん。フレア、ちょっと頭を整理させて」


「あたしも……分からなくなってきちゃった」


 私はベッドに、フレアは椅子に腰掛ける。顔を合わせることなく、自分自身と向き合う。

 私の記憶では、アイリスと二人で会う約束をした。しかし、アイリスは現れることなく、影に呪いをかけられた。その時にようやく、憎らしい笑みを浮かべたアイリスと対面する。

 フレアの記憶では、アイリスは今までことを謝罪し、カノンと仲直りをした。その後のことは、まだ分からない。


「ちょっと確認させて。アイリスはあの夜、何してたの?」


「えっ? あたしは、ふっと目が覚めたらカノンの姿がなくなってたから、外まで探しに行ったの。そしたら突然、森の方で爆発音が聞こえて……。そこに行ったら、カノンが倒れてた」


 またしても記憶が食い違う。カノンがテントを抜け出した時には、既にアイリスもいなくなっていた筈だ。


「それを証明出来る人は?」


「サラ。あたしについてきてくれたから」


 使い魔が証人になるかと問われると疑問は残る。とは言え、アイリスの行動を見ていた人物はいたのだ。

 一方で、カノンが目撃したことを証明出来る人物は私しかいない。

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