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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第15章 知らない過去

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知らない過去Ⅲ

「聞いたってことは、見てはいないの?」


「あぁ。オレとフレアも三回転生してるからな。魔導師だった期間が合わない時期もあった。オレとフレアが魔導師じゃなかった空白期間の出来事は、使い魔しか知らねぇ」


「アレクとフレアの前世の寿命が短いのも、カノンのせい?」


「いや。元々、魔導師の寿命は短ぇんだ。四十まで生きられたら良い方だろ」


 少しほっとしている自分が嫌になる。クラウの前世を死なせなたのは私なのに。アレクとフレアの前世の死が私のせいではないのなら良かったと、どうしても考えてしまうのだ。


「オレらのことは良い。アイツが今まで、どんな思いで生きてきたのか、少しでも伝わったんなら良いんだけどよー」


 頭を搔くアレクに、無言で頷いてみせる。

 私も前から分かっていた筈なのに。クラウは私にだけ優しく、温かな笑顔を向けてくれる。

 今分かったのは、それは私が特別な存在だから――ずっと探していた相手だから。

 こんなにも胸が熱く、痛く、切ない。はらはらと零れ落ちた涙は、テーブルに小さな水溜まりを作っていく。


「オマエのせいじゃねぇ。全部、影のせいだ。それだけは間違うんじゃねぇぞ」


「うん」


 アレクの言葉が心に染み渡っていく。その一言がなければ、私は自分自身を責めていただろう。

 今、初めて自分の気持ちを認めようと思った。胸の鼓動や高鳴りをカノンのせいにして、優しくされたのは仲間だからと言い訳をして。そんなのはもう止めよう。

 私は、クラウのことが好き。この世の誰よりも大好きだ。


 私が落ち着いた頃を見計らい、アレクは再び口を開いた。


「にしても、何でオマエだけ百年も転生しなかったんだろうな。カノンに原因があるのか、影に原因があるのか、そのどっちもかもしれねぇけどよー」


「う〜ん、私には分かんないなぁ」


「そーか。にしても、百年だけで良かったよな。もっと年数がかかっちまってたら、アイツ転生する気もなくしてたかもしれねぇし」


 それに関しては、ごめんなさいと心の底から謝ることしか出来ない。目を伏せると、アレクは慌てた口調で「いや……」と続ける。


「オマエを責めるつもりはねぇんだ。ただ、不思議に思っただけだ」


「うん、分かってる」


 アレクにそのつもりが無くても、私の心には重く伸しかってくる。そろそろ一人になりたくなってきた。


「私、部屋に戻っても良い?」


「あぁ。ただし、ぜってぇに水の塔に行くんじゃねぇぞ」


「うん」


 それは約束出来る。クラウの身に危険が迫っていないのなら、行く必要はないだろう。

 にかっと笑顔を向けるアレクを顧み、会議室を後にした。廊下はしんと静まり返っている筈だった。

 突然、ドアが思い切り閉まるようなけたたましい音が廊下に響く。フレアが立てた音ではないのなら、クラウが帰ってきたのだろうか。

 どうしても気になってしまい、慌ててクラウの部屋の前まで急ぐ。本当ならば、そのまま部屋の中へ入ってしまいたかった。しかし、そう出来ない理由があったのだ。

 部屋の中から泣き声が漏れていたから。

 私の呪いは解けないと、念押しでもされたのだろうか。

 今来た道を引き返し、自分の部屋へと向かう。私の両目からも自然と涙が溢れていた。辿り着くと、静かにドアを閉める。そのまま床にへたり込んでしまった。


「何でなの……?」


 何故、そんなに残酷なことが出来るのだろう。仮にもこの世界の神であるのなら、少しは希望を与えてくれても良いではないか。

 これ以上、クラウを傷付けたくはないのに。ごめんなさい。

 その後、どうやってベッドまで辿り着いたのかは覚えていない。瞬きをするような感覚で瞼を開けると、天井が目に映った。布団も身体にかけられ、温かさを感じる。


「あれ……?」


 いつの間に眠ってしまったのだろう。何度か瞬きをし、窓の方を見てみる。

 ダイヤに来てから、初めての雨だ。恵の雨とは言うけれど、今の私にはカノンとリエルの涙雨としか思えなかった。

 もう少し眠ってしまおうか。ううん、その前に。のそのそとベッドから這い出し、重たい身体を引きずりながらドレッサーの前へとやってきた。鏡の前には、あの時クラウがくれたリングが転がっている。この引き出しのどこかに、ネックレスチェーンがあった筈だ。左から順番に開けていく。見つからない。中央の引き出しにもない。では、右側に――あった。

 それを丁寧に摘むと、留め具を外した。リングを通し、首に回す。

 クラウから想われているとしても、両片思い状態だ。流石にこのリングを指に嵌める勇気はない。それならばと、クラウがしていたように、ネックレスへ通すことにしたのだ。

 呪いがあったとしても、影に狙われていたとしても、死にたくない。死ぬ訳にはいかない。これは私の決意だ。ネックレスの先で揺れるリングをぎゅっと握り締める。

 そんな時、部屋のドアがノックされた。


「ミユ、話があるんだけどよー」


「何?」


 一瞬、クラウが来たかと思ってドキドキしたのに。アレクの声で少しガッカリしてしまった。

 次にドアの間から覗かせたアレクは神妙な面持ちだった。戸惑いが残念な気持ちを上回っていく。

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