表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第15章 知らない過去

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/90

知らない過去Ⅱ

 はっと顔を上げると、眠そうではありながらも眉間に皺を寄せるアレクの顔があった。


「こんな朝早くにどーした?」


「アレク、どうしよう! クラウが……!」


「ちょっと落ち着け」


 落ち着いていられる訳がない。首をぶんぶんと横に振る。一緒に涙までもが溢れてくる。


「何があったか、一から話せるか?」


「そんな場合じゃない!」


「良いから話すんだ!」


 その脅しにも似た声色に、肩がビクッと震えた。言葉が何も出てこなくなる。


「悪ぃ。脅すつもりはねーんだ。アイツは無事だ。安心しろ」


「何でそんなことが分かるの?」


「いや、アイツに口止めされてるからよー」


 何のために口止めなんて――。

 訳が分からず、揺れる眼差しを向けてくるアレクを見詰めてみる。

 それ以前に、何を口止めされているのだろう。私にとって都合が悪いことなのだろうか。堪らず首を傾げてみても、アレクの表情は変わらない。


「何で?」


「いや、本人に聞けよ」


 当の本人がこの場にいないのに、聞ける筈がないではないか。口を尖らせてみると、アレクの眉が僅かに動いた。


「ここじゃなんだ、会議室で話そうぜ」


 恐らく、フレアを配慮してのことだろう。私はここでも構わないのだけれど、アレクは嫌だったようだ。私の身体を避け、ゆっくりと廊下へと出てきた。


「行くぞ。立てるか?」


「うん」


 腰に手を当てたまま、アレクは僅かに微笑む。彼が歩き出す前に、私も立ち上がろう。自分を奮い立たせ、両手を床についた。


「歩きながらでも、何があったのかくらい話せ」


「うん……」


 先に歩き出したアレクに遅れを取らないように、駆け足になる。一呼吸置き、何とか口を開いた。


「昨日、喧嘩した後は何もなかったんだけど、今日の朝になってクラウが部屋に来てくれて――」


 不安のせいか、若干早口になる。上手く伝えられたのかは分からない。早くクラウの居所を教えて。アレクに訴えるように、語気も強まっていく。

 会議室に入り、そそくさと指定席に座る。ようやく話終わると、アレクは頭を抱えた。


「アイツ、オマエに何一つ言わなかったんだな」


「私、仲間を危険な目には遭わせたくないだけなのに……!」


「大丈夫って言っただろ。危険な目に遭うような話じゃねぇ」


 アレクは大袈裟に溜め息を吐き、こちらに向き直った。若干、その表情から怒りの感情を読み取れたのは気のせいだろうか。


「それより、アイツを『仲間』って言ったか?」


「それが……何?」


「ただの仲間か?」


 それ以外に何があるのだろう。張り詰めた空気感のせいか肯定することも出来ず、ドキドキしながら僅かに首を傾げた。


「……報われねぇよな」


 アレクは私から視線を逸らすと、数秒押し黙る。


「口止めなんか、どーでも良くなった。オレはオマエに話がある」


 腕を組むと、再びまっすぐな瞳が私を見据えた。


「……何?」


「今、アイツは水の塔にいる」


「じゃあ、助けに行かなきゃ!」


「止めとけ。ろくなことにはならねぇ」


 勢い良く立ち上がろうとした所を、アレクは言葉だけで制する。思わず動きが止まった。


「オマエの呪いのことで話があるから一人で来いってよ。神ってヤツが言ってたらしい」


「えっ? でも、私、呪いは解けないって神様の口から聞いたばっかりだよ?」


「それは良く分からねぇけどよ。何でアイツが、ここまでオマエのことで必死になるか分かるか?」


「えっ?」


「アイツは、ずっとオマエを探してたんだ」


 言葉の真意が良く分からない。返事が出来ずにいると、アレクは細い息を吐く。


「良いか? アイツには、ぜってぇ話すなよ?」


 念を押すように、一言一言をはっきりと話す。私もクラウに言うつもりはないので、無言で頷いた。


「リエルはカノンを助けられなかったことをずっと後悔し続けた。カノンの墓は、影と戦った、あの場所にあるんだけどな? 毎日カノンに会いに行ってたんだ」


 その光景は想像に難くない。ぎゅっと胸を締め付けられるような思いに駆られる。


「どこの世界にあるか分からねぇ、あんな場所に毎日ワープだぞ? 心臓が耐えられる筈がねぇ」


 ――ただの心臓発作だよ――


 クラウが言っていたあの言葉が蘇る。

 なんということだろう。リエルが亡くなったのはカノンのせいだったのだ。


「もう気付いたみてぇだな。リエルが死んだのは、カノンが死んだ一ヶ月後だった」


 耐えられず、涙が一粒零れ落ちた。


「辛ぇ話はまだ続くんだ。悪ぃな、オレの気が収まらねぇからよ」


 アレクも睫毛の影を落とす。


「アイツの後悔はその後も続いた。一回、二回、三回転生しても、終わらなかった」


「三回って……百年で三回も?」


「いや、アイツで四回目だ。アイツ以外の三人は、二十五までには死んでるからな」


「えっ……?」


 頭がついていかない。何がどうしてそうなっているのだろう。ううん、分かろうとしていないだけなのだろうか。


「無茶ばっかりしやがって。オレらもアイツを止めたんだけどな。全然、聞く耳持たねーし」


 勿体ぶらないで教えて欲しい。目で先を促すと、アレクは小さく頷いた。


「アイツ、カノンの転生を信じて、時間が許す限りエメラルド中をひたすら探し回って、その度にワープして……んな無茶な魔法の使い方して、身体が持つ訳がねぇんだよ。三人とも、リエルみてぇな最期だったらしい。カイルから聞いた」


 アレクの声が震えている。必死に絞り出した言葉なのだろう。それ以上に、私の心も震えていた。どうしようもない後悔と懺悔の念が津波のように押し寄せる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ