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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第14章 羽根

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47/90

羽根Ⅴ

 もつれる足で何とか踏みとどまり、膝を折ることは避けられた。ただ、この状況はまずい。どうしよう。


「ミユ」


 混乱の中で聞こえた声に、無意識のうちに振り返る。間近には青色の瞳があった。今にも泣き出しそうな瞳が。


「俺のこと、嫌いになった?」


 その声は微かに震えている。

 考えるよりも先に首を横に振っていた。


「私の方こそ嫌われたって――」


「そんな筈ない!」


 一瞬にして、マイナスな思考が吹き飛んでしまう。


「ホント?」


「うん」


 聞くと、クラウは小さく頷いてくれた。

 会話をした後で気づく。まるで恋人同士であるかのような内容ではなかっただろうか、と。恥ずかしくて目を伏せる。頬が熱を持ち始める。

 どうやらクラウも同じだったようで、再び話し始めるタイミングを二人で見計らっていた。


「あの」


「あのさ」


 そして、声が重なる。

 自然と視線を上げると、青色の目とぶつかった。またしても目を伏せる。


「何?」


「うん、さっき、俺に話があるって言ってなかった?」


 そうだ。それを話す為にここまで来ていたのだった。色々なことが重なって、すっかり忘れてしまっていた。


「あのね? 羽根のことなんだけど、取りに行かなくても良いみたい。さっき、神様が羽根を届けてくれたから」


「うん、知ってる」


 頭に『はてな』が浮かぶ。何故、クラウが知っているのだろう。まだ誰にも話していないから、私以外に知る由もない筈なのに。


「何で知ってるの?」


 小首を傾げると、クラウの表情が『しまった』と言わんばかりに渋くなっていく。顔まで逸らして。何か知られたくないことでもあるのだろうか。


「答えてくれないと分かんないよ」


「それは……言えない」


 クラウの拳を見てみると、微かに震えている。余程の隠しごとなのだろうか。


「何で言えないの?」


「ミユは連れて行けないから」


「私に関係してることなの?」


 私が関わっているのなら、聞かない理由はない。それなのに、クラウは表情を険しくするばかりだ。黙っていてもお互いに辛いだけなのなら、言ってしまえば良いのに。

 私も拳を作り、口を尖らせる。


「もう良い。もう知らない」


 内心とは裏腹な言葉が自分の口から飛び出してしまった。まずいと思ってももう遅い。

 しかし、何故か腹も立っているのだ。少しくらい教えてくれても良いのに、と。

 その苛立ちのまま、クラウに背を向けた。ドアノブを回し、部屋を出ようと試みる。

 ドアが開かない。鍵でもかかっているのだろうか。


「嫌われたとしても、それでも」


 と、ここで閃いた。部屋へ戻るなら、なにもドアを介する必要はないのだ。ワープしてしまえば良い。クラウの言葉が途切れた所で瞼を閉じる。自室を思い浮かべ、浮遊感に身を委ねる。


「絶対に危険な目には――」


 光に包まれた時、気になる言葉が飛び出した。もう少し聞いておいた方が良かっただろうか。そう思った時には光は消え去り、自室の中央に佇んでいた。


「危険って何……?」


 何か、とんでもないことに巻き込まれはしないだろうか。良からぬ不安が脳裏に浮かぶ。


“嫌な予感がする”


「私も……。どうしよう……」


 カノンに曖昧に答えながら、下唇を噛む。

 私のことなのに、私抜きでその危険に立ち向かおうとしているのなら、見過ごす訳にはいかない。かと言って、あの様子だ。クラウの部屋にトンボ帰りしても一筋縄にはいかないだろう。そもそも、部屋に行く勇気は残っていない。

 どうすれば良いだろう。

 頭を捻ってみたものの、良い案は思い浮かんでくれない。時間を置くしかないだろうか。

 アレクも怒らせた――ううん、正確には、怒らせたのはクラウなのだけれど、頼る気にもなれなかった。

 私には何でも言ってくれる筈だ。そう心の奥で密かに感じていた思いは、どうやら過信だったらしい。自分への苛立ちとともに、無力感に苛まれる。

 とりあえず、今日はクラウが行動を起こさないことを祈ろう。明日までに、何か対策を立てなくては。


「ねえ、カノン」


“何〜?”


「クラウが危ないことをしようとした時って、最初に何すると思う?」


 カノンは「う〜ん」と唸り声を上げ、数秒考える。


“あの人の事は分からないけど、リエルなら……私の顔を見に来ると思う”


「それに賭けて良い?」


“えっ?”


 私の顔を見に来るのなら、その時が一番行動に移しやすい。勇気は相当いるだろう。でも、今からなら心の準備くらい出来る。クラウを捕まえてしまうのだ。


“私の場合と実結の場合は違う。それは分かった上で行動してね”


「うん」


 不確定な事象に賭けるなんて、傍から見れば、それこそギャンブルかもしれない。私は本気だ。本気でクラウを止めようとしている。

 胸に手を当て、深呼吸をしてみる。少しだけ緊張が和らいだ気がする。

 ここで、もう一つの問題が浮かんできた。食事をどこで誰と摂ろうか、という問題だ。

 今日くらい、一人で食べても良いだろう。そう勝手に決めつけ、十二時を回った時計を垣間見る。

 あんなことがあったばかりなので、キッチンで腕を振るうアレクは、一人での食事を許可してくれた。ただ、何かあったのだろうということは伝わってしまったらしい。


「アイツと何があった?」


「喧嘩した」


 昼食を乗せたトレーを手にし、アレクも見ずに答える。次の質問が飛んでくる前に、さっさとキッチンから撤退した。

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