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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第14章 羽根

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羽根Ⅱ

 その日は部屋の中で無気力な時を過ごした。何かをする訳でもなく、何かを考える訳でもない。眠ろうと瞼を閉じても、深い眠りに就くことは出来なかった。

 夕食を摂りはしたけれど、何を食べたのか、味はどうだったのかも覚えていない。

 深夜零時を過ぎたところで、ようやく明かりを消した。眠れるか不安ではあった。瞼を閉じてみると、意外にうつらうつらとしてくるものだ。そのまま意識は暗転し、気付いた時には朝になっていた。カーテンの隙間から朝日が漏れている。

 重たい気持ちは一晩では晴れず、爽やかとは言い難い朝だ。

 何とか着替えをし、髪を梳かす。ドレッサーにはカノンの結婚指輪が転がっている。そこへ自然に目がいった。

 私だって、死にたくて死んだ訳ではない。カノンの思いを代弁するかのように、緑色の石が輝いている。

 これから私はどう行動すべきなのだろう。塔に行って羽根を貰えば、待ち受けているのは百年前と同じ結果だ。どうせ果てるなら、足掻けるだけ足掻きたい。神が駄目だとしても、もしかすると何か知っている人がいるかもしれない。

 一縷の望みが見えてきた時、ドアが三回ノックされた。


「ミユ? 起きてる?」


 声に反応し、振り返る。顔を覗かせたのはクラウだった。


「今日からご飯は皆で会議室でって、アレクがさ」


 皆でとは、四人でということだろうか。フレアと一緒に食事なんて、私に耐えられる筈がない。


「フレアも来るなら……行かない」


「ミユの気持ちは分かるけど、いつまで避け続ける気?」


「それは……」


 もしかすると、一生避け続けるかもしれない。首を横に振り、口を真一文字にする。


「もしフレアがいなかったら、会議室に来れる?」


 小さく頷き、俯く。


「ちょっとアレクと相談してくる」


 ドアは静かに閉まり、クラウの気配は消えていった。

 問題を作ったのはフレアなのに。何故、私がこんなにも悩まなければいけないのだろう。

 イライラする気持ちを抑え、ふぅと溜め息を吐く。


“実結、覚えてる? 呪いをかけられた夜のこと”


「覚えてるよ。忘れられる筈ないもん」


 薄気味悪いあの笑みは、紛れもなくアイリスだった。五年間も仲間だったのだ。見間違える筈がない。


“私は許せない”


 カノンの怒りは私以上なのだろう。震える声と同調するように、顔の温度が上昇していく。

 何があってもフレアとは食事は摂らない。固く決意し、両手で拳を握り締める。

 それから数分後、再びクラウは顔を出した。私の様子を窺いながらも、そっと微笑む。


「今はフレアはいないから。ご飯食べよう」


「うん」


 今度は断る理由もないので、すんなりと頷いた。それを見て、クラウは手を差し伸べてくる。

 嬉しい感情よりも、恥ずかしい感情が勝ってしまう。なかなか手を取れずにいると、クラウは苦笑いをし、手を引っこめた。


「行こっか」


 どちらともなく歩き出し、廊下を進む。フレアの部屋へ差しかかると、ドアを思い切り睨みつけた。こんなことをしても何にもならないのに。小さく息を吐き出し、怒りを収める。

 会議室に入ると、アレクは食事の準備をしてくれていた。三人分の皿を指定席の前に置いていく。


「今日はシリアルにしてみたぞ。好きなだけ食ってくれ」


 気の滅入ることが続いているので、軽い朝食はありがたかった。さっと食べて、すぐに部屋へ戻ろう。挨拶もせずに席へ座り、一呼吸置く。続いてクラウとアレクも席に着いた。

 テーブルの中央にはシリアルの入った大きなボウルと牛乳、目の前には空のシリアルボウル――。


「いただきます」


 小さく呟き、手を合わせる。

 木のスプーンで自身のシリアルを装うと、そのスプーンをクラウに渡した。牛乳もしっかりと注ぐ。

 早く食べないとすぐにふやけてしまう。頬張ると、カリカリとした食感と砂糖の甘みを感じられた。


「ミユ。あの夜、カノンの身に起きたことは、粗方アリアから聞いてる。その上で頼む」


 顔を上げると、まっすぐにこちらを見詰める黄色の瞳があった。


「フレアを受け入れてやってくれ」


 朝食と称して説得するためだけに私を呼んだのなら、とんだ間違いだ。ここにいてやる理由はない。一気に頭に血が上り、両手をテーブルに突いていた。


「ミユ」


 その左腕をクラウが掴む。睨んでみても、首を横に振るだけだ。


「確かに、カノンとアイリスは仲良かったとは言えねーかもしれねぇ。でも、それだけで仲間を殺すようなヤツじゃねぇ」


「私が夢でも見たって言いたいの?」


「少なくとも、オレはそう思ってる」


 馬鹿馬鹿しい。心内で嘲ると、クラウまでもがアレクに賛同を示す。


「実際、カノンはあの時に気絶してたから、夢だった可能性はある。あくまでも、可能性、ね」


 『可能性』とは言っているけれど、決め付けに等しい。上手く私を言いくるめるつもりなのだろう。


「私が夢とか幻とか見たんだとしたら、あの影の台詞は何? アイリスに『キミも共犯だろう』って。影も私が見た夢の内容を知ってたって言うの?」


「それは――」


「そうだ」


 アレクはクラウの言葉を遮り、キッパリと言い切ってみせる。

 どこまでアイリスに幻想を抱いているのだろう。嫌気が差してくる程だ。

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