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【完結・改訂版】異世界で魔法を手にしましたが、前世の記憶と呪いもついてきました~green side story~【第一部】  作者: 七宮叶歌
第7章 水

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水Ⅲ

「カノン、俺――」


「綺麗だよね、空」


「えっ?」


「一日でこんなに色が変わるなんて、凄いよね~」


 もしかすると、人間よりも表情が豊かかもしれない。見ていて飽きない。

 ぼんやりとしていると、隣から小さな笑い声が聞こえた。

 思わずリエルの方を振り向いた。


「ん~?」


「いや、なんでもない」


 またしてもリエルは笑う。

 そんなに笑うなら、何が面白いのか理由を聞かせてくれても良いのに。僅かに頬を膨らませてみる。


「ごめんね」


「しょうがないなぁ~」


 リエルが困り顔になってしまったので、許すことにした。これでは何だか私が悪いみたいだ。

 風がさわさわと草原を、私たちを撫でて流れていく。

 リエルと喧嘩をする為に、ここに来たのではないのに。

 プレゼントを持つ両手に力を込める。


「これ、プレゼント。誕生日おめでとう」


 勢い良く、プレゼントをリエルに押し付けた。

 私の頬も、リエルの頬もほんのりと紅潮する。


「ありがとう」


 返ってきた顔はにっこりと笑っていたので良しとしよう。

 リエルはリボンを解き、包みを開けていく。中から姿を現したのは、勿論、木製のオルゴールだ。

 側面に着いたねじを巻き、蓋を開くと可憐なワルツの音が鳴り始める。


「可愛い音でしょ?」


「うん、凄く可愛い」


「去年からこれにしようって決めてたんだよ~」


「そんなに前から?」


 驚かれると、段々恥ずかしくなってしまう。照れ隠しのために、笑いながら大きく頷いた。

 リエルは目を細め、嬉しそうに微笑む。


「手、繋いで良い?」


「えっ? う、うん」


 突然の発言に驚き、慌てて返事をしてしまった。もしかしたら、声が裏返っていたかもしれない。

 私の左手にリエルの手が触れる。心臓が喉から飛び出してしまいそうだ。

 そして、リンゴのように真っ赤に染まった顔のリエルを見て、この恋は片思いなのではなく、両片思いなのだな、と悟った。


 * * *


 幸せで温かな気持ちが心を満たす。今回の登場人物は二人だけだった。カノンはリエルに恋をしていたようだ。多分、リエルも同じ気持ちなのだろう。誕生日を好きな人と迎えられるのは羨ましいなと、強く思う。

 今のオルゴールの曲名は、確かくるみ割り人形の花のワルツ――ううん、異世界の記憶なのだから、地球の曲である筈がない。首を振ろうとした瞬間、強烈な頭痛に襲われた。


「痛……い……!」


 頭を抱え、呻き声を上げる。誰かが私の身体を撫でてくれているけれど、返事をすることが出来ない。

 冷たいものも頭の上に乗せられる。それも気休めにすらならない。

 まさか、こんなに酷い頭痛に襲われるとは思ってもみなかった。涙が滲む。


「ミユ、これ飲んで」


 ぼんやりとフレアの声が耳に届く。

 何かを握らされたので、それをそのまま口に放り込んだ。甘い何かが口の中でほろほろと溶けていく。

 痛みのせいなのか、口に含んだもののせいなのか、再び瞼は光を閉ざした。


 次に目を覚ましたのは夜だった。日が変わっていたのか、そうではないのかは分からない。

 ずっと付き添っていてくれたのか、傍にはアレク、クラウ、フレアの姿があった。


「私……」


「頭痛はどう?」


「まだ、少し痛い」


 とは言え、先ほど経験したような痛みよりは大分ましだ。冷静に状況を確認出来る。


「さっき飲ませてくれたのは何?」


「鎮痛剤と睡眠薬だ」


 だからすぐに眠ってしまったのだ。頭痛が治まってきているのも鎮痛剤のお陰だろう。


「鎮痛剤はあんま身体に良くないからな。ホントに酷い時だけだ」


「うん。ありがとう」


 礼を言った後で気付いた。過去を見て、頭痛で苦しんでいるのはこの人たちのせいなのではないかと。


「このままミユの調子が良くなれば、六日後にまた過去を見に――」


「私が行きたくないって言ったら……皆はどうする?」


 瞬間、三人の顔が一気に曇った。

 これ以上酷い頭痛なんて、私の身体が耐えられそうにない。もう十分だ。


「第一、この過去を見て何になるの? さっぱり分からない人の良く分からない過去なんて」


「過去を見なきゃ先に進めねーんだ」


「先って何? 進めないってどこに?」


 聞かれたくない事を問うたのか、三人は顔を見合わせる。


「もう限界だよ」


 クラウは俯き、小さく呟く。


「あたしもこれ以上、隠し事はしたくないよ」


 フレアまでもが私から目を逸らした。

 気まずい空気だけが流れる。


「あのな、ミユ」


 そう口にしたアレクでさえ、陰鬱そうな表情だ。

 小さく息を吐き出すと、後の言葉を続ける。


「オレらは最初からオマエを騙してた」


「えっ?」


「いや、コイツらは関係ねぇな。オレがオマエを騙してたんだ」


 騙された覚えなんてない。

 私が小首を傾げると、アレクはポリポリと頭を掻く。


「この過去を見終われば、オマエは完全に魔法を使えるようになる。たまに花がどっかから出てきてただろ? あれはオマエの魔法だ」


 頭の処理が追いつかない。ただただ口をぽかんと開け、三人を見詰めてみる。

 魔法を得るか得ないか、それを決めるために過去を見ていた筈なのに。三人は最初から、魔法を得る前提で私を連れ回していたのだ。

 問題の中心にいる私に黙ったままで。

 流石にこれは許せない。怒りがふつふつと湧いてくる。


「頼む、責めるならオレだけを責めてくれ」


「三人とも出てって」


「他にも話が――」


「良いから出てって!」


 もう何も信用出来ない。

 ベッドで伏せ、頭の上から布団を被った。


「行こう」


 クラウの小さな声が聞こえると、三人の遠ざかっていく足音が続いた。


「何で?」


 何故、そんなに私を頼るのだろう。放っておいてくれないのだろう。お願いだから、地球に帰して欲しい。

 右目から涙が零れ落ちた。

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