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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

叙述トリック &謎解き

【絶滅】 The extermination

作者: メイズ

史実をモチーフとしたフィクションです m(_ _)m

 アタシたち一族の始まり。


 *


 生まれ故郷を離れ、とある南の島に降り立った少数。それがアタシたちの始祖様。その数、17、8だったと伝わってる。


 それは春夏秋冬を百回繰り返すよりも、もっと遠い昔の出来事。


 彼らはなぜ生まれし地を離れ、見知らぬ離れ島まで行ったのか? どうやって果も見えぬほどの広い海を越えたのか?


 *


 口碑によると、彼らは自ら故郷を後にしたわけではなかった。(かどわ)かされてそこまで来たという。


 それは、よく使う通り道に仕掛けられた からくり的な罠にはめられて(さら)われたという非道。日常の中、思いもよらぬ青天の霹靂の出来事だったそうよ。


 ずる賢い人間の術中に落ち、屈辱なことに(おり)に入れられ船で運ばれた始祖様たち。


 *


 自然の秩序に従い、神の与えに(のっと)り、平凡に暮らしてた始祖様たち。悪人どもに仕掛けられた不意なる暴力的謀計。生け捕りにされた目的は不明だったけど、ある程度は想像がつくというものだった。


 ありがちなのは、やはり新鮮な────


 ((((;゜Д゜)))



 囚われの始祖様たちは、死を覚悟したという。


 *


 しかし、悪人どもが我ら種族を捕らえた目的は、生体組織そのものでは無かった。


 始祖様たちを受け渡された人間たちは、労働力を欲していた。最前線で戦わせる戦闘員を。


 彼らが手を焼いていた恐ろしい敵と戦わせるために、始祖様らは(さら)われ連れてこられたとすぐに判明した。


 アタシたち種族は俊敏な狩りの種族。目をつけた人物がこの国にいたという。


 *


 乱暴に扱われたけれど一転、村人たちの始祖様らへの待遇は良かったという。


 結局、強制的に傭兵に雇われた、みたいな感じ? 始祖様たちは成り行きを受け入れた。


 もう自力では戻れないし、そうするしかないよね・・・


 ───それが拉致により連れられた地にて、少数から成り上がりし我が一族の運命の始まりだったのよ。

 

 *


 恐ろしい敵とは?


 暗闇を愛するその敵は、とんでも無く危険で、凶暴で、不意打ちで襲って来る種族。動くもの全てが敵で獲物であるかのように。


 知ってるわ。あの恐ろしい種族の毒牙にかかったら、助かる見込みは、神のみぞ知るってことも。


 神出鬼没。


 どこから現れるか知れない、しなやかな体躯を持つ攻撃的な種族。


 奇襲が良く使われる手口。それはまるでゲリラ戦。テロ。村の人間らは、先手で敵を探し討伐することを始祖様たちに望んだ。


 ───アタシたちの始祖様たちが、その島で自由に暮らすことを許されたのはそのせいなのよ。


 *


 けどね。アタシたちが俊敏で身体能力が高く、狩りに優れた種族だからって、あの恐ろしい敵と好き好んで対決したくはない。


 奴らは夕刻から主に行動し、不意に襲って来ることが多いけど、アタシたち種族は、日が沈んでから活動するのは好まない。暗くなったら寝る。


 アタシたちは大昔から神が決めた自然の法則に沿って生きてる。だから仲間には誰ひとり不自然な生き方をしようとする者はいないのよ。


 期待に添えないのは申し訳ないけれど、始祖様たちはターゲットに指定された個体をほとんど見つけることはなかったという。


 お役に立てないのは、始祖様たちのせいじゃない。アタシたち種族を無理解のまま無理矢理連れて来た人のせいよ!


 拉致られたとはいえ、島で放たれた始祖様たちはもう自由だった。それに、与えられた仕事を放棄しても、特に問題は無く過ごせてたという。


 というか、あの人間どもは、始祖様たちが傭兵の役回りを、ほぼ放棄していたことにも気がついていなかったという愚かさだったようよ?



☆☆☆


 自分たちで敵を倒せない愚図な人間どもに、アタシたち種族を指揮出来る訳ないじゃないwww


 人間ってマジ愚かな生き物だ。ちゃんと調査もしないで大いなる見当違い。


 彼らは専門家ぶった理論は立派でも、大自然の真髄はわかってはいないのよ。嗤える。


 フフッ・・・目立つ場所から専門家って名乗る方々って、いつの時代もどうも胡散臭いようね。


 皆が知らない事なら何を言ったとて、嘘も間違いも誰にも気づかれないし、いい加減なことを語ろうが糾弾されることはない。その肩書さえあれば。


 そしてその権威を信じて従う愚かな人たちのおかげでアタシの始祖様たちは、素晴らしい楽園を手に入れたのよ! 美味しい食べ物にも事欠かない。


 強制的移住だったけれど、災い転じて福となした始祖様たち。


☆☆☆



 始まりの仲間は16、7あまりだったそうけれど、オスメスいれば子どもが生まれるのが当然よね。その子どもも成長し、子孫を残す。ねずみ算的に増えて全盛期には3万まで増えたと言われてる。けど、全体のこととなると全容は把握出来てたのかは不明ね。


 だって島は広いし、数が増えれば同族だろうがグループ化するし、縄張りが出来るものだし、お互い立ち入るのはご法度になるもの。


 *


 それから50の春夏秋冬を超えた頃。


 選ばれた極一部の同胞は、アマミと呼ばれるこの新天地に連れてこられた。それがアタシの直接の先祖ね。その数は30ほどだったと伝えられてる。この島はアタシの生まれ故郷。


 町も畑もあれど、ほとんどを森林に覆われたこの広い離れ島。


 この新しきフロンティアでも、第二の始祖様たちは繁栄を始めた。


 人間どもの愚かな勘違い。アタシたちは、承った傭兵の仕事をしてるようで、してはいない。


 我々種族は、ここでは仲間を1万まで増やすことに成功。子どもは一族の宝よ。少子化なんてアタシたちには関係無い。自然の摂理に従うのみ。生み、育てる。それこそが生きること。


 この世は弱肉強食だもの。たくさん子どもがいた方がいいに決まってる。子どもが生まれなければ絶滅してしまうわ。



☆☆☆


 人間って、不思議よね。ちょっと偉ぶった人がそう言えば、それが本当のこととして受け入れられるの。


 皆、疑うこともせず、一途に従うのよ。小さな反論はかき消される。


 アタシたちは、人間たちがの望んだ働き方はしない。勝手に誤解したあんたらが馬鹿なだけ。


 アタシたちにとっちゃ、こんな素晴らしい場所に住めるなんて、マジありがたいったらないってば。


☆☆☆




 けれどもこの世は諸行無常。


 始まりがあれば、遂に終わりの始まりが来たみたい。


 第二の始祖様がこの地、アマミに放たれ、春夏秋冬を幾重にも巡らせたこの楽園に。


 人間どもは、今頃になってやっと気がついたらしい。我々が人間の為に働いていないことを。


 *


 ───役に立たないとわかったら、手のひらをくるりと返された。


 *


 アタシたちを捕らえる罠があちこちに仕掛けられ、仲間が狩られて行く。日々どこかしらで、誰かが死んでるのを見かけた。酷い。なんて残酷なの!!


 あの筒状の罠に嵌まれば、容赦なく首を絞められて殺られてしまう!


 *


 ジャングルの中で仲間に出会うことも滅多になくなった。


 危険を察知し、用心深く振る舞うアタシたちに対し、新たなる攻撃戦法が加えられた。


 人間どもは、我々とは別の種族を森林に放ち、アタシたちを狩らせる手段に出た。


 長い四本脚で駆け回る毛むくじゃらの獣。人間に服従しきってるヘタレ獣の存在は知っていたけど、アタシたちを攻撃して来るとは思いもしなかった。


 *


 人間ってなんて冷酷なのッ!!


 嗚呼、アタシの家族はとっくに皆 狩られてしまった。孤独にジャングルを彷徨うアタシ。日々怯えながら・・・


 仲間とすれ違ったのはもう記憶の彼方。


 もしかして、アタシが最後の生き残り・・・?




 【2018年 4月】


 ワンッ、ワンッ、ワンッ───


 あの、恐ろしい獣の声がどんどん近づいて来る!


 イヤッ!!! こっちに来ないで! アタシは何も悪いことしてない。散った仲間だって同様だッ!!


 茂みに隠れたアタシにけたたましく吠え続ける獣。来ないで! だれか助けてーッ!



 ワンッ、ワンッ、ワンッ ウー・・ウー・・ワワワワンッ!


 赤く垂らした舌と大きな口から覗く鋭い犬歯。獣がハァハァ弾ませる息が、アタシの顔にかかる。



「ここか? ブラッキー? おお、いたぞッ!! そこに追い込め!」


 恐怖で動転したアタシは、仕掛けられてた檻に追い込まれた。



「よーし、偉いぞ、ブラッキーR号! さすがNo.1マングース探知犬だ。ヨシヨシ♡ おお? 随分威勢がいいな、このマングースは」



 今さら囚われの檻の中で暴れても体が痛むだけど、それでも。


 ガシャーン、ガシャーン、ガシャーンッ!


 森林に響く派手な金属音。


 樹上の鳥たちが驚いてバサバサと飛び立ち、ヒラヒラと一枚の羽が、檻の前に舞い落ちる。


 熱帯の森林の湿ったぬるい空気。それでも時に吹き抜ける風は涼しく、潮の匂いを運んで来る。


 空を見上げれば木々の隙間には、アタシの気持ちとは真反対の、白いふわふわ柔らかそうな雲が流れる気持ちの良い青い空。


 アタシはこの世の最後の景色をこの目に焼き付けておく。ここがアタシの生まれし故郷。死んだとて忘れないわ。


 そうよ、忘れない! この屈辱を。


 ガシャーン、ガシャーン、ガシャーンッ!


 アタシのかわいい子どもたちが罠にかけられた哀れな最後の姿が思い出されて、頭の中をグルグル巡ってクラクラする。痛みなど、もう感じない。この檻の中で暴れられるだけ暴れてやるッ!!!


 ───呪ってやる。子どもたちの分も。散って行った たくさんのたくさんの仲間の分まで。


 身勝手な人間どもなんて滅んでしまえ! ハァ、ハァ、うぐっ・・・もう、力が入らない・・・


 ガシャン・・・


 ───体が限界だ・・・


 檻の中で、伸び切って横たわるアタシは、最後の気力を振り絞り念じる。アタシたちを包み育んでくれたこの大いなる自然の神に、これまでの感謝の想いを天に贈る。


 届け! この純粋なる想い。アタシたちは自然の法則に逆らったことなど一つもない! 人間どもと違って。


 代々、神の法則に従って生きて来たアタシたちは、人間からしたら不思議な力を持ってる。人間どもがとうに失った、いにしえの力を。


 さあ、神よ。アタシの純粋なる美しい生命と引き換えに────



 ───霞んでゆく視界・・待って・・・もう少しだけ・・・お願い・・・



 息絶え絶えで、かろうじてまぶたの隙間から見える最後の景色。



 ───フフッ・・・来た・・・


 動く物体には取り敢えず攻撃しとくのが、ハブの特徴だもの。


 自然の摂理。


 ───涅槃(ねはん)で会えるかしら?



 尻尾を大げさに振る犬の頭を撫でる男。


 その死角となる背後では、ハブが首をもたげ───




 ***



 2018年 4月の捕獲を最後に、マングースの生息情報は空白となった。


 2024年 9月3日 環境省は、奄美大島のマングースが根絶されたことを宣言した。


 


                             【終わり】




1910年、ハブ対策として沖縄本島に16、7匹移入されたマングース。やがて3万匹にまで増えた。1979年には、さらに奄美大島に30匹放たれたと見られてる。


しかしながらハブは夕方から活動する夜行性、マングースは昼行性の雑食性。活動時間の違いから出会う率も少なく、他に捕らえやすい動物がいるため、マングースがわざわざ危険なハブに挑むことはほぼ無かったことが後に判明。


ただ、人が持ち込んだ外来種が、農作物に被害を与え、奄美では在来固有種アマミノクロウサギ、アマミトゲネズミなどをエサに増え続けるだけだった。


当時マングースが導入されたのは、一流大学の一流研究者であり、生物地理学の専門家で動物学の権威ある、一人の博士による提案だったという。


俺はコロナ以来、専門家と名乗る人らを信用すんのはやめてるけどね〜 ( ´~`)


歴史って語るよな。



2000年から駆除を展開し始め、2005年、マングースは特定外来生物に指定された。


捕獲専門集団が組織され、島内に捕獲の罠が数万個仕掛けられ、マングース探知犬も導入。2018年4月に捕獲されたのが最後で、以降生息の情報はない。


2024年9月3日 環境省は、奄美大島のマングースが根絶されたことを宣言した。つい先日のことですね。


 ───とは言え、島は広いし密かにひっそり生きてたりして・・・・?



この世の上位者の行為によりこの世に生まれ、滅ぼされる命。この法則は、地球上の全ての生命体に当てはまる、という戦慄なのです・・・


もちろん、人間界内でもね。



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― 新着の感想 ―
 なるほど、これは知らない話でした。  というか、最初は人間の話だと思って読んでました。  でもこの作品、人間の歴史にも通じていそう。  お見事。
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