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少女は魔族となった  作者: 不定期便
精霊は罪人となった
97/123

臆病

「オイテクオイテク」


「シゴデキシゴデキ」


「ノミイコノミイコ」


ゾンビ達は私を乱暴に投げ捨てると、壁の中へと潜っていく。明らかに金属で出来た壁の中へめり込んでいくのを見て、彼らにそういった特殊能力がある事を理解する。


突然襲いかかってきた緑髪の青年から逃れる為、私は彼らの誘拐を受け入れた。その結果…私は今、牢獄の中に居た。いや、その表現も間違っているかもしれない。四方八方脱出不可能な白い鋼の壁ではあるのだが、檻の代わりに透き通った硝子があった。妙に硬く、とても壊せないという意味では檻と同じだが、向こうからの見通しが良い事から牢よりかは被検体を観察するような雰囲気を感じさせる。


「さっきのゾンビさん達も白衣を着てたし…何処かの研究所なのかなぁ。でも、地中に研究所なんてあるものなの?」


「そ、そうだよ。こ、ここは研究所だよ」


「わっ!?」


突如独り言に答える謎の声に、私は思わず全身を震わせて驚いてしまう。そして改めて部屋の中を観察してみると、先程は見落としていたが部屋の隅っこに誰かが縮こまっているのが見えた。


その人物は二十代後半程度に見える痩せ型の男の人であった。彼は銀と黒が入り交じったような髪をオールバックにしており、体育座りでちょこんと佇む彼の髪は床まで伸びていた。そしてその朱色の瞳は何かに怯えるかのように小さく震えている。ゾンビ達と同じく白衣を着てはいるが、どうやら彼は人間のようだ。


「あなたは…?」


「ひゃっ…!」


私はそんな疑問を口にしながら彼に向かって一歩踏み出す。するとその瞬間、彼は全身をビクンと動かした。そして更に身体をキュッと縮こませる。その様子はまるで何かに怯える子供のようだ。


「あの…ごめんね、怖がらせちゃって。大丈夫?」


「ご…ごめん。おれ…人…怖くて…」


「………」


彼のその言葉に、私はある人物を思い浮かべる。その人物は親指を立てながら『分かるよ!人と話すの怖いよね!うんうん!』と元気に相槌を打つ。この人といいホワイトさんといい何故やたらと人間恐怖症が多いのか。


私は脳内からホワイトさんを追い出すと、彼を刺激しないようにしゃがみこみながら話しかけた。


「何も酷い事はしないよ。ただ、状況が分からなくて。ここが何なのか教えてくれる?」


「う…うん。わ、わかっ…分かった」


「ありがとう。私はキャロ。あなたは?」


「お、おれ…化け物って呼ばれてる…」


「化け物?」


聞き返すと、彼は辛い出来事を思い返すかのように目を背けた。


「お、おれ…両親が死んで、一人で旅してた…だから名前がな、無い。けどみっ、皆んなはおれの事化け物だって言うから…」


「うーん…何でだろう?でもどんな理由があってもそんな呼び方するなんて酷いよ!」


「か、顔…怖いって言われた事ある…」


「顔?…確かにオールバックで赤目はちょっと怖いかも?よく見てみれば目付きも鋭いし…」


私はポンと手を叩くと、彼に微笑みかけた。


「そうだ、じゃあ私が名前を付けてあげる」


「な、名前…?おれに…?」


「そう。ずばり、君の名前は…」


「ごくり…」


「『クリ』!どう?」


彼は目をぱちくりとさせる。


「クリ?…栗?」


「栗はね、見た目はトゲトゲしてるし近寄り難いけど、でも中身は甘みのあるまろやかな味で美味しいんだよ!」


「お、おれ…食べられる…?」


「違う違う!えっと、見た目程怖いものじゃないって事!」


「こ、怖くない?おれの事…」


「怖くないよ。だって悪い人じゃないんでしょ?」


「う…」


彼はうっすらと瞳に涙を浮かべると、恥ずかしそうに顔を腕の中に埋めた。


「ありが、と、う…今日からおれ…く、クリ」


「礼には及ばないよ、クリさん!それじゃあ、親睦も深まった事だし教えてくれる?ここは何なの?」


「こ…ここはキッズの研究所…」


「キッズ?」


クリさんは恐る恐る頷くと、話を続けた。


「キッズっていう…こ、怖い人が居る。その人と仲間達の研究所…」


「仲間達…さっきゾンビさん達が白衣を着てたけど…」


「あ、あれも元々キッズの仲間…今はもう、し、死んでて生きてない。キッズの命令だけ聞いてる…」


「やっぱりあれは本当にゾンビだったんだ。けどやっぱり不思議。死んで生き返ってるのはグロテスクさんも同じなのに、こんなにも違うなんて…」


「な、何の話…?」


「ううん。何でもない」


訳が分からなそうに眉を顰める彼に、私は更なる疑問を投げかけた。


「それで、キッズさんは何でわざわざこんな所に研究所を?地面の中なんて明らかに普通じゃないよ」


「キッズ…は、国を追われてる。だからこの…『聖地』へと逃げ込んだ。せ、聖地に入っちゃ駄目だ、から…」


「聖地…?」


「聖地は精霊がねむっ、眠る場所…人間は精霊に近付いちゃいけない…」


「精霊…!?」


精霊というのは誰しもがおとぎ話で知る事となる、遥か昔に存在したとされる世界の創設者だ。実在するのかどうか、何処へ姿を消したのかも定かではなかったその存在がこの土地に居るというのだ。あまりにも突拍子の無い話に私は困惑する。


「精霊が眠ってるって…つまりそのキッズさんは精霊の研究をしてるの?」


「た、多分。この研究所の外には地底人達の暮らす村があって…そこに開かない神殿がっ、ある…んだ」


「ち、地底人?」


「せい、精霊を信仰してる人達…でもそれはいけない事だから人間として扱われてない…みたい」


「そうだね…確か精霊は人間を裏切ったとかで邪神として扱われるようになったとか。でもそれを信仰してる人達がいるの?」


「おれも…会った事な、ない。話に聞いただけ…ごめん」


「ありがとうね。色々教えてくれて」


「あ、ありがとう…?」


「うん?どうしたの?」


「おれ…そんな事初めて言われた…ちょっとびっくり」


「…余っ程辛い人生を歩いてきたんだね」


私は彼へと近寄る。未だに慣れぬのか、クリさんは再び警戒したようにビクビクとするが、そんな彼の肩に私は手を乗せた。


「もう大丈夫。これからは一緒に居よう?何かあっても私が守ってあげるから、今まで欲しくても得られなかった『初めて』をこれから沢山手に入れればいいよ」


「き、キャロ…おれ、嬉しい…ありがとう…」


「よし!それじゃ、先ずはここから出ないとね。こんなとこに居ても何も出来ないから」


「ど、どうするの…?」


「クリさんにも手伝ってもらうよ。ちょっとこっち来てくれる?」


「わ、分かった」


彼は少しずつ身体を動かし、私の指示した通り硝子の前へと移動してくれる。先程まで縮こまっていたが、こうして見るとやはり背の高い大人の人だ。ただ、性格は大人とは程遠い臆病なものではあるが…


そうして内股で震えながら立つ彼はちらりと私の方を見た。


「こ、これでいい…?」


「うん、ありがとう!よし…『ヘルフレイム』」


「ヒッ…!?」


魔法を唱えると、私の掌に炎が生まれる。その炎を見てクリさんは小さく悲鳴を上げた。


「もや、燃やされ…」


「燃やさないよ!大丈夫だから動かないで」


「う…」


「『ナイトステップ』」


「え!?消え…」


「後ろだよ、クリさん」


私の言葉に彼は気付く。そう、私は一瞬にて硝子の向こう側へと移動していたのだ。クリさんは訳が分からないとでも言いたげに私の事をまじまじと見つめる。


「ど、どうやって…?」


「私は魔法を使って影の中を自由に動けるの。だから明かりとなる炎を使ってクリさんの影を硝子の向こうまで伸ばしたんだ」


「おれの影…役立ってよ、良かった」


「けど私のナイトステップじゃ自分以外の人を動かす事は出来ないんだよ。だからちょっとここで待ってて。鍵を探してくるから」


「そ、それよりお願いがある…んだ」


「お願い?」


「キャロ…は、どうやってここへき、来た?」


「えっと、味のしないステーキを食べたらゾンビさん達が現れて…」


「あれは弱い魔族を捕まえる為の…罠。け、けど弱い魔族は悪い事しない。だっだから…捕まってる魔族達をにが、逃がし…逃がしてくれっ、る…?」


その言葉に私は目を見開く。人間にしては珍しく、彼は魔族を悪として認識していないのだ。しかも、自分の事よりもそちらを優先して欲しいと純粋に願う善性に私は胸を打たれた。


彼の放った言葉は一般論として、間違っている。だからこそ彼は今まで以上に『逃がしてくれ』というのを躊躇っていたのだ。だが魔族と共に過ごしていた私だからこそ、すぐに頭を縦に振った。


「分かった。捕まってる魔族の人達も、クリさんも絶対助けるよ」


「け、けどキッズは怖い。だか…ら…皆んなを逃がしたらおれはいいから…キャロも早く逃げ…」


「ぼくの話をしているね?」


その声に私とクリさんは身体をビクリと震わせる。声のした方、廊下の奥側から聞こえてくるペタ…ペタ…という不気味な足音に、私は身体を強ばらせた。


「あれが…キッズさん?」


人間というにはあまりにもおぞましすぎる姿に、私は唖然とした。

コミュ障って何だか可愛くないですか?(謎性癖)

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