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少女は魔族となった  作者: 不定期便
箸休め編
94/123

最強の魔族

「グガッ…!」


欠損した部品が宙に撒き散らされると同時にワシは強く地面に叩き付けられていた。何が起こったのか分からない。それ程までに力の差がありすぎる。せめてもの抵抗として立ち上がろうとするも、背中を踏まれて口から血を吐く始末だ。


ワシを踏みつけるフードの男、ドラゴにシャンはため息をついた。


「機械とはいえレディーがボコボコにされてるのを見るのは気が引けるねぇ」


「手伝わないなら去れ。こいつは標的ですらない、ただの障害物だ。互いの最高戦力を集中させるような相手ではない」


「そう釣れない事言うなって。僕ちんは興味があるんだ。魔族の帝国を作ろうなどとほざくような愚か者の人間性がさ」


「もう一度剣を交えるか?」


「今はやめとこう。君との本気の戦いはベストコンディションで挑みたい」


相変わらず、最強の男達はワシなど眼中にすら無いようだ。彼らにとって、ワシはただの雑魚。ここで始末出来て当然の存在なのだ。敵であるワシより、協力体制な筈の味方を警戒しているように思える。


何と情けない話だ。仲間が危機に陥っているというのに、ワシは敵の大将に一矢報いる事すら出来ない。それどころか、敵として見られてすらいない。ワシは心から自分の非力さを痛感した。


力が欲しい。ミチバにも力があれば、孫娘の命を救えた筈だ。ウェハヤにも力があれば、息子がどんな存在であろうと受け入れる事が出来た筈だ。ワシに力があれば、皆を助ける事だって出来た筈なのに…


そんなワシの思考は、背中を貫く一つの剣によって上書きされた。


「終わりだ、機械人形」


その一撃によって、ワシの意識は完全に消え去った。


〜〜〜〜〜〜〜


「あら、ロボットちゃんもとうとうやられちゃったか。折角の美人さんだったけど、魔族だったし仕方ないかぁ」


「お前の発言には虫唾が走る。いい加減その口を閉ざすんだな」


「嫌だよ。僕ちんの口は女性を口説く為にあるんだから閉ざしたら勿体無いでしょ☆」


「軟派者が…」


「堅物ちゃんに僕ちんの気持ちは理解出来ないよね〜」


不快という感情を露わにした瞳で俺は彼の事を睨み付ける。しかしやはりシャンは相変わらずの態度で笑顔を浮かべるばかりだ。そんな彼にこれ以上意識を割かれてはならないと思い俺はそっぽを向く。


すると、俺は向いた方角に見慣れた大男の姿がある事に気が付いた。


「セクシー、戻ってきたのか」


その大男、セクシーはずんずんと大きな足音を立てながらこちらへと近付いてくる。そんな彼に俺は尋ねた。


「どうだ?例の少女の懐柔には成功したか?」


その問いに対し、セクシーはニィと口角を上げた。


「あたぼうヨ!俺様のスーパー話術によッて引き入れる事に成功したゼ!」


「そうか。ならいい」


「だがヨ!条件があるみてェなんだヨ!」


「む、条件だと?何だそれは」


「その条件ッつうのがヨ!傑作なんだヨ!」


「ほう?」


「で、これが条件らしいんだワ!」


次の瞬間、俺は近くの岩場にめり込んでいた。この全身を襲う激痛、セクシーの腕を突き出したような構え。セクシーが俺を殴ったというのは明白だった。


こちらを指さして大笑いするシャンを横目に、俺は立ち上がりながらセクシーに対し脅すような声色で尋ねる。


「これはどういう事だ?」


「悪く思わねェでくれよボスゥ!キャロの出した条件ッつうのが『魔族の帝王とシャンを倒せ』ッてもんなのよォ!」


「お前はそれを飲んだのか…?」


「ゲヒッ!挑戦ッてのは燃えるだろゥ!?格上二人を相手に出来る事なんて中々ねェからよウ!殺ろうゼ!」


「全く…お前という奴は…」


随分と厄介な条件を付けられたものだと頭を抱える。恐らく例のキャロという少女は俺達最高戦力を足止めする事さえ出来れば仲間達は無事避難できるとでも考えたのだろう。先ず負けないが、流石にセクシーを相手にすれば瞬殺とはいかない。


俺は渋々頷いた。


「良いだろう。交渉の為にやっている事だ、お前を裏切り者としては扱わないでおこう」


「そうそウ!いやァ、やッぱボスは理解あるなァ!」


「あーっはっは!魔族の帝王とやらも大変だね!味方に襲われるなんて!くくく…」


「煩いぞシャン。お前は黙って見ておけ」


「そンじャ行くぜボスゥ!俺様の全力、受け止めてくれよォ!」


セクシーは足に力を込める。するとその衝撃で地面と彼の足の間に爆発が起き、彼の巨体はいつの間にかすぐ目前まで迫ってきていた。流石の脚力と言わざるを得ない。


そんな彼は俺の上半身とほぼ同じ大きさの拳でこちらの頭部に正拳突きをしようとした。


「甘い」


彼の拳を仰け反る事で回避し、下からその腕を蹴り上げる。その衝撃で重心を失う彼の懐に俺は掌を向けた。


「『ラズベリー』」


「むぐッ!?」


俺の掌から砲弾のような青黒い球体が発射され、それはセクシーの腹に深く食い込む。そしてそのまま、彼の身体と一体化した。すると彼は苦しそうに頭を掻き毟る。


「毒の塊…!こいつはきちィゼ…!」


「魔法を掻き消すお前の体毛も、圧倒的な魔力を前にすれば気休めでしかない」


「いいぜェ…まだまだ勝負はこれからダ!」


セクシーはニヤリと笑うと、両手を地面に叩き付けた。するとその衝撃で俺の足元の大地が割れ、そのまま重力に逆らえずに地面の中へと落下していく。そんな俺に、セクシーは飛び降りる事で追撃を仕掛けようとしてきた。


「落ちれば落下死、上がれば俺様のパンチが待ッてるぜェ!流石のボスも空中では無力だろウ!」


俺は両手に握る剣を壁に突き刺し、落下を防ごうとする。だがしかしそれは上から落ちてくるセクシーに追い付かれる事を意味していた。


「『超マジカルキュートパワフルゴッドグレートパンチ!!!』」


この状況で彼の渾身の一撃を避けることなど不可能であった。空気さえも抉るような凶悪な一撃は頭上から俺を襲い、その事に気付くよりも先に俺は割れた大地の奥深くへと叩き付けられる事となった。あまりにも深いこの穴で落下すれば死は免れない。いや、それ以前にセクシーの全力の拳を耐えられる生物がどの程度居るのかすら定かではないだろう。


充分な手応えを感じ、セクシーは高笑いする。


「ガッハッハッ!俺様の勝ちだぜェ!ボスゥ!」


彼は勝利を確信して奈落に向かって喜びのあまり叫んだ。彼の知る限り今の攻撃をまともに喰らって生きていられる存在など居る筈がなかったのだ。だからこそ、全てが終わったと油断していたのだ。


だからこそ、彼は穴の底から向かってくる光を見て目を丸めた。


「嘘だロ…!?」


「『ストロベリー』」


俺の放った火球が彼のすぐそこまで迫ってきていたのだ。その火球は大地を焦がしながらセクシーのすぐそこまで迫る。


「グッホォォォォォオ!?」


彼は獄炎に巻き込まれ、そのまま地上へと飛び出す。そして壁を蹴りながら火球と共に地上を目指していた俺は穴の中から飛び上がり、力無く宙を舞うセクシーを横から蹴ってやる。その結果彼は面白いぐらいに地面を転がり、近くにあった民家にぶつかって動きが止まる。


だが流石セクシーと言うべきか、彼は驚くべきタフネスで立ち上がった。


「馬鹿ナ…!不死身なのカ…!?俺様の必殺コンボを受けてもまだ立ち上がるとハ…!」


「セクシー、お前ではこの俺に勝つ事など出来ない」


「ギヒッ…ヒヒヒヒヒ!興奮してきたァ!良いぜェ!楽しいゼ!この全身が苦しみを訴えるような感覚!高揚感によッて早くなる鼓動!あァ、堪らねェ!これこそが戦いダ!最高ダ!」


「だが俺達には時間が無い。終わらせるぞ、この戦いを」


「良いぜェ…終わらせるゾ!」


俺は左の拳を強く握った。すると彼も右の拳を握る事で応えてくれる。俺達がするべき事はもう、決まっていた。


俺とセクシー、その二人が大地を蹴ったその瞬間、俺達の拳はぶつかっていた。


「これが俺様の…全力だァ!!!」


限界まで鍛え抜かれた筋力から放たれる一撃に、俺は全身が痺れていた。身体中が悲鳴を上げるような力比べ。最強を求めた魔獣の全力を前にここまで持っているなんて奇跡そのものであろう。


だが、魔族の帝王として負ける訳にはいかなかった。


「セクシー…よく聞け」


「むウ!?」


「お前の主はこの俺だ。全てを支配する、それが俺だ」


「ち、力が…ドンドン上がッテ…!?」


「お前が力を求めたというなら、更なる力でねじ伏せよう。帝王は全てにおいて完璧でなければならない」


「ハッ…ハハハハハ!最高だぜェ…ずッとアンタについてくヨ!ボス!ボスゥゥゥゥゥゥ!!!」


次の瞬間、空気が弾けた。ふと自分の左手を見てみると、ぶつかりあったせいで拳から血が出ている。骨にも違和感だ。それ程までに、激しい力比べであった。


そんな力比べに敗北したセクシーはほんの少しも動かずに地面に横たわっている。全力を出し切った事、そして俺の腕力によって気絶しているのだ。こちらの邪魔をしてきた割に満足そうな顔で気を失っているのが腹立たしい。


「見事な戦いだったよ。良い退屈しのぎになったかな」


そう言うのは見物人、シャンであった。彼は相変わらずの薄ら笑いを浮かべながらこちらに歩み寄る。


「やはり君は強い。現時点で、最も僕ちんと実力が近い存在と言えるね。その強さの秘訣はなんだい?」


「…貴様は自分が何故強いのか、考えた事はあるか?」


「当然、把握してるよ。僕ちんは力を求めて誰よりも鍛錬を重ねた。それだけの話さ」


「女性を虜にする為にか?」


「さぁね。で、君はどうして強いんだい?」


「守りたかったものがあったからだ。多すぎる敵を前に、強くなるしかなかった。それだけの話だ」


「へぇ。ま、これ以上詮索しても教えてはくれないよね」


「無論だ」


「それじゃ、そろそろ移動を…ん?」


「どうした?」


シャンは顎で俺の視線を誘導する。彼の指した方角を見てみると、そこには先程始末した機械人形が倒れていた。…いや、注目すべきはそこではないだろう。機械人形の隣に、いつの間にか全身から黒い鱗のようなものを生やした低身長の人物が立っていたのだ。


その人物はギロリと目を輝かせる。


「プルアを傷付けたのはお前達だな」


「…その雰囲気、貴様がリィハーか?」


「リィハーちゃんだって?ユウドで会った時と随分雰囲気が変わったじゃないか!」


「………」


彼女はチラリとプルアに目線を向けた。そして、独り言を漏らす。


「まだ完全に破壊はされていない。良かった、まだ生きてる」


「で、リィハーちゃんは何しに来たのかな?ロボットガールちゃんを回収する為?」


「貴様の実力では俺達から逃れる事は出来ない。お荷物を抱えてどうする気だ?」


「決まってる」


リィハーは視線を機械人形から外すと、こちらに掌を向けた。


「この国の王として、何としてでも民を守る。それが私の役目」


「やる気かい?いいよ。王直騎士団団長、シャンが遊んであげるよ」


「死んでもらうぞ。リィハー・エイレイト」


「『ダーク』」


彼女の魔法により、辺りは暗闇に包まれた。

箸休め編と銘打ちながらあまり休まらないような展開が続いております。前回の箸休め編のチョコレート作りとは雲泥の差ですね。

という訳で、次回からはまた新章に入ります。契約を交わした後のキャロがどうなったのか、魔族の国リィロントはどうなるのか、逃がした仲間達はどうなっているのか、気絶しているセクシーさんは今どんな夢を見ているのか。是非楽しみにしていてください。

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