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少女は魔族となった  作者: 不定期便
箸休め編
93/123

グロテスクの悲願

随分とよく手入れのされている城だ。王都にある人間の城と比べれば幾分か規模は劣るが、王族とその従者達が暮らすには充分すぎる。禍々しさを感じさせつつも、決して趣味が悪い訳でもなく上品さを感じさせる作りに私は何処か感心していた。


そして感心と言えば、目の前の男の逃げ足に対してもだ。私、いや私達は現在とある目的の為に騎士団と手を組み、魔族の国へと攻め込んでいる。そして城内へと足を踏み入れた私は見つけたのだ。目的の人物、イヴ・ヴゥイムを。彼は中が膨らんだ袋を胸に抱えながら廊下を駆ける。


「ハァッ…ハァッ…!」


彼は息を荒くしながら大事そうに抱えた袋と共に廊下を走る。そんな彼を私と数名の騎士は追い掛けていた。騎士達が魔法を次々に放つも、イヴ・ヴゥイムは泥臭くつまづきながらその魔法を避けていく。


そんな様に苛立ち、私は自分をおんぶしている騎士の頭をポカリと叩いた。


「何やってるのー!ちゃんと当てないと逃げられちゃうよ!」


「し、しかしスイミ様!奴は中々すばしっこく…それに我らの部隊はあまり魔法のコントロールが得意でなく…」


「あーもう使えない!せっかく寄生して下僕にしてやったってのに…騎士が聞いて呆れるわ」


深い溜息をつきながら天を仰いでいたその時であった。私はふと、目を離しているうちにターゲットの姿が見えなくなっている事に気付く。


「一体何処へ…?」


「あの部屋です!あの部屋へと逃げ込みました!」


「あーそう。…私は背中から降りるから、先に突入しなさい」


「え?は、はい!スイミ様の為ならば喜んで!行くぞお前ら!」


「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」


私を降ろし、騎士達はイヴが逃げ込んだとされる部屋の扉を突き破って部屋の中へと強引に入る。逃げ場の無い部屋の中へと追い詰め、大人数で攻め込めば普通ならば捕えられる筈であろう。だがしかし、彼らが部屋に入った瞬間に城が揺れた。


「「「ぬああああああ!!!」」」


そう、城を揺らす程の大爆発が部屋の中で起こったのだ。そんな爆発に巻き込まれた騎士達は黒焦げになりながら廊下の壁へと叩き付けられる。そんな全滅して廊下に倒れ込む彼らの姿を私は鼻で笑った。


「騎士でありながら魔族の下僕になるなんて可哀想だね。わざわざ部屋の中へ逃げ込むだなんて、どう考えても罠でしかないのに。キュートなスイミちゃんに夢中になってそこまで頭が回らなかったのかな?」


伸びる騎士達を踏みつけながら私は爆発によって壁の吹き込んだ部屋の中を見る。するとそこには元々家具だったであろう木片達が床に散らばり、その真ん中で小さく座り込むイヴの姿があった。恐らく家具を盾にして爆発から身を守ったのであろう。


そんな彼に私は微笑みかける。


「チェックメイト」


「はは…全員吹き飛ばす予定だったのに、追い詰められちゃったね」


「爆発は好き?もしそうなら、残念だったね。これから自分の頭が吹き飛ばされる光景が見れないなんてね」


「じゃあせめて、最後に教えてくれないかな?君達の目的は何なのか」


「えー、仕方ないなぁ」


ぶらぶらと両手を振り回しながら私は彼へと近寄る。


「私達の目的はある三人を始末する事。そしてそのうちの一人が君だったってだけだよ」


「…それは僕が、優れた科学者だから?」


「優れてるなんてもんじゃない!イヴの頭脳は世界の根幹に関わる!…って、私の仲間が言ってた。何か色々言ってたけど興味無かったし聞き流してたから分かんない」


「また頭脳か…僕が父さんに殺されたのもそれが理由だったな。一体全体僕が何だって言うんだ…?」


「『生まれ変わり』だって」


「え?」


「昔居た科学者の生まれ変わりって言ってたよ。皆んな結構輪廻転生を信じてるんだねぇ」


「………」


「それじゃ、今度は私から質問してみてもいい?その袋、何が入ってるの?」


私は興味本位で尋ねる。すると彼は袋を抱く腕に力を込めた。


「これは…命より大事なものだ」


「へぇ?興味あるな〜」


「もし奪おうとするなら、僕は刺し違えてでもそれを妨害するよ。だから、近寄る事はお勧めしない」


「君がぁ?私をぉ?」


私はニッと笑い、指を鳴らす。するとその瞬間弾いた私の指は崩壊し、私の指を形成していた約百体の景色虫がイヴの事を囲んだ。一匹一匹では特段殺傷能力はない。だが数さえあれば力づくで袋を引き剥がす事も、イヴが抵抗している間に目に寄生する事も出来る。しかもおまけに、魔法を使える私自身も一歩引いた距離で魔法を放つ事が出来るのだ。


「これじゃ刺し違えるどころか、一方的に奪われちゃうね〜?」


「射程距離内」


イヴはそう呟き、私に掌を向けた。


「一回限りの大技。さっきは逃げるのに集中しなくちゃいけなかったけど、今度は落ち着いて狙える」


「切り札の魔法があるって言いたい訳?」


「そう。僕が唯一使える、最強の魔法だ」


「へぇ…クックック…」


「何がおかしい?」


「バレバレだよっ?」


私の発言に彼は一瞬動きを止める。そしてその後深いため息をつくと、こちらに向けていた手を下げた。


「何で分かったの?」


「気迫が感じられなかった。グレーさんっていうお友達が居るんだけどね、その人は魔力が枯れる最後の最後まで全力で魔法を放ってた。そんな全てを出し切ってもいいっていう覚悟が無かったからかな」


「ハッタリも通用しなかった…か」


イヴは全てを諦めたかのように脱力して床に倒れ込む。彼の表情は疲れを滲ませていた。


「分かったよ、降参だ。無駄な抵抗はせず君に殺されるよ」


「物分りがいいね!さっすが〜」


「…そう、最後の実験だ」


その言葉の意味が分からず私はしかめっ面を浮かべる。そんな私を意に介さず、彼は持っていた袋の中をごそごそとまさぐった。そして中から虹色に輝く妙な物体を取り出す。


それは複数の魔石を取り付けられた部品で無理矢理接合された、ガラクタのように見えるものであった。機械的である事、そして魔石を使っている事から何らかの意図があって作成された魔道具であるという事は理解出来る。しかし、今まで見たどの魔道具にも属さない異質な見た目をしたそれが何なのかは理解が及ばない。


「それは?」


「魔石を利用して内部の『核』に莫大な魔力を流し込む魔道具だよ。それぞれの魔石が持つ性質を最大限に利用し、溢れることなく空中にある魔力を少しづつ吸い取り、保管しているんだ」


「ふーん…それだけ?保管している以上、何らかの意図はあるよね?」


「一定数魔力が集まればある『仕掛け』が作動するようになっている。放っておいても自動で目標数までは到達するが…途方もない年月がかかる。一番手っ取り早く起動させる方法はそう、人体で最も魔力が溜まる場所、魂を吸収させる事だ」


「私が君を殺せば、君の魂を使って装置が起動すると。じゃあ先にその装置を破壊すれば解決だね!」


「深緑の魔石と菫色の魔石の二種を繋ぎ合わせ、触れた者に猛毒を流し込む仕組みを作った。僕は元々死人だし、死ぬ事はあっても猛毒に侵される事は無い」


「じゃ、魔法で」


「銀色の魔石という、高価で取引されている魔石があるんだ。その魔石は一部の騎士の鎧や盾に使用され、魔法を反射するという特殊かつ実用的な効力のお陰で人間達の間で重宝されている。プラントが頑張って取ってきてくれたんだ」


「…触れるのが駄目なら道具は?例えばハンマーとか」


「これには『どんな物理攻撃をも弾く』機械が取り付けられている。過去のプルアに内蔵されていた機能だが…今はアカマル達によって失われていた。けど、もう一つの壊れたプルアの中にはまだその機能が残っていたんだ。僕はその仕組みをこれに移植し、物理的に壊す事を不可能にしたんだ」


「はぁぁぁ…君って面倒臭いね。つまりどんな手段を用いても破壊は不可能って事か」


「そういう事だよ。命は惜しいけど…この『魔力保管装置』が起動するなら本望だ。殺れよ」


そう言うと彼は顎を上げ、自分の喉元を晒した。彼の言葉通り、イヴは死が怖いのだろう。瞳は不安で震え、見栄を張って笑みを浮かべる口元も上手く形を保ててはいなかった。当然だ、死が怖くない生物など居ない。


そんな彼の喉元に、私は人差し指を当てた。


「見ものだね。君が命を賭けてまで動かしたかったものは何なのか」


「もし僕の理論が正しいならきっと驚く筈だよ。残念だなぁ…その顔が見れないのは」


「君の後を追うお仲間さん達に感想を伝えとくよ。私がどう思ったのかは彼らから聞いて」


「はは…皆んなは強いから大丈夫だよ。君達なんかに殺されない。僕はそう信じてる」


「叶うといいね。…それじゃ」


「あぁ…」


「『ラブスウィートアタッ…』」


魔法を唱えようとしたその瞬間、脳が揺れた。そして目まぐるしく回る世界に混乱していると、私は自分が何らかの衝撃によって壁に叩き付けられたのだと理解した。平常心を取り戻し、私は自分が先程まで立っていた場所を見る。


するとそこには…全身が黒い鱗のようなもので覆われた背の低い人物が立っていた。そんな乱入者を見て、イヴは目を丸くしている。


「その背格好…仕草……まさか君は…リィハーちゃんなのか…?」


リィハー。それは他ならぬ、この国の王の名前であり、ムッテにて敵対した少女の名前であった。あまりの豹変ぶりに驚くが、彼女も人間ではなかったという結論に至り自身を落ち着かせる。


そんなリィハーと呼ばれた彼女はくるりと上半身を捻ってイヴの方を見た。


「グロテスク」


「………」


「二度と命を諦めようとするな。これは王であるこの私、リィハー・エイレイトの命令」


「リィハーちゃん…」


「帰るよ。皆んなが待ってる」


「…うん、分かった。それと…ごめん」


「説教は後。とにかく行くよ。道中で死んだら許さない」


「はは…うん。そうだね、絶対に死なない」


リィハーが手を差し伸べると、イヴはその手を強く掴んだ。

今回の箸休め編の一話目にてプラントがグロテスクに大量の魔石を渡していたのはこの機械を作る為です。果たしてどんな代物なのでしょうか。いつぞやの後書きで兄に食べられたプリンを復元する機械でしょうか。

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