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少女は魔族となった  作者: 不定期便
箸休め編
88/123

三秒間の記憶

「…プラントが失踪した」


イヴの発したその一言に、場は静まり返る。ここは魔族の国にある一つの広場。噴水から出る水の音は耳を癒し、この広場を二つの見知らぬ人物を象った石像が囲っていた。一人は鎧を身に付けた大柄の男、そしてもう一人はまだまだ若い少年である。


そんな広場にて、この国の住人達は集まっていた。イヴ、クママル、ゲンキ、ディド、そしてこのワシ、プルア。ディドは鼻ちょうちんを作りながら興味が無さそうに爆睡しているが、それ以外のワシを含めた三人は皆イヴの言葉に耳を傾けている。


そんな中イヴは続けた。


「居なくなった原因は分からない。ただ…最近起きたたった一つの異変、シロさんという人物の出現が関わっていると僕は思う。他にプラントが消える理由が思い付かない」


「うむぅ…じゃがシロもやり手だったが、プラントも強いぞ?ワシの見立てでは実力はかなり拮抗しておるじゃろう。他の誰にも気付かれる事無くプラントを倒し、攫ったというのか?」


「二人の激しい戦闘が気付かれてないとなると、かなり考えずらいね。そうなるとプラントが自分の意思で立ち去ったように思える。洗脳の類を受けたか、あるいは取引を持ちかけられたか」


「全く…いずれにせよ『プラントと人間を接触させるな』、だなんて言っておりながら自分で連れ去りおってからに…」


「理由は分からないけど、それだけ警戒してたって事だろうね。もしプラントを連れ去る計画が失敗したとしても、僕達が彼女の言葉を重く受け止めてプラントに注意を払っていれば彼と人間の接触は止められるであろうと」


「んー、何だかなぁ…ワシとディドが目的の癖にプラントに意識を持ってかれてるように見えるのう」


「恐らく、彼女は僕達ですら知らないプラントの何かを知っている。…彼女は僕らについてあまりにも詳しすぎるんだ。次はどんな手段を使ってくるか分かったもんじゃない」


「それに…懸念点はそれだけじゃないよなぁ」


ワシは首を横に動かす。そしてこの国を囲う城壁を眺めながら呟いた。


「アカマル達の帰りがあまりに遅い。移動距離や向こうで数日過ごすかもしれない事を含めた帰りの日時の予想を六日もオーバーしておる。それだけ長くムッテに滞在しているか、移動中に何かがあったか…」


「三人は強いから大丈夫だよ。そう心配する事もないよ」


「お主は優しいのう。自分も顔色が優れない癖に、一丁前に励まそうとしておるのか?」


「………」


「仲間を心配するのは当たり前じゃ。お主も強がらなくても良い」


「そう…だね。ごめんねプルア。正直に言うと…不安だよ。現状何が起きているのかが分からないから、この先どうなっちゃうのかが予測出来ないんだ。もしかしたら今この瞬間も、想像を超えた何かが起きているのかもしれない…」


「頼りの綱であるプラントやアカマルも居ないんじゃなぁ。今古株はお主しか居ないからのう、責任を感じてしまうのも理解出来る。じゃが、あまり抱え込むんじゃないぞ。緊張や不安は悪い想像を呼び寄せるだけで何の得もありゃせんからな。いざとなったらワシが居る、安心せい」


「プルア…」


「ガウッ!ガウガウ!」


「クママル…ありがとう二人共。少し、気が滅入ってたみたいだ」


彼は小さく笑うと、腕を足の間に持っていき指を組んだ。そして上がっていた口角を下げると、真剣な眼差しでワシら一同の事を見た。


「実を言うと…例の壊れたプルアの解析が完了したんだ。その結果に動揺していたんだよ」


「ほう、たった一日で調べ上げたのか。それでどうじゃった?その結果とやらは」


「先ず前提として、プルアの構造について説明させて欲しい」


彼はコホンと小さく咳をする。


「元々僕が作ったプルアは一から十まで全て自分で作成した、完全なる機械だ。しかしアダム兄さんはプルアについて完璧に理解している訳では無い。だからこそ、完成されている人間という母体にプルアの機能を移植すれば自分でもある程度はコントロール出来ると踏んだんだ。つまり、プルアは半分人間で半分機械という不自然な存在なんだよ」


「そうじゃな。元々のプルアとお主の父、ウェハヤを元に造られたのがワシじゃ」


「そんなプルアは脳とメモリーが融合している。普通の人間の場合は無理だけど、プルアの場合何とか記憶を解析する事が出来たんだ。そしてそれを映像化する機械を作り上げ、僕は彼女の記憶を覗いた」


「流石は天才じゃ!それで、どうじゃった?」


「大部分が壊れていてどうにも記憶を見る事は出来なかった。…ただ、ある二箇所の記憶だけは再生する事が出来た。九秒の記憶と、三秒の記憶。とても短いデータだったけど、僕はそれを見て絶句したよ」


「何があったんじゃ…?」


「そうだね…それじゃあ、九秒の方から説明しようか」


そう言うとイヴはワシの顔を真っ直ぐに見た。ただ見ただけではない。それはまるで…ワシの表情を伺っているかのようであった。彼のその何かを含んだような目線が妙に気になる。


しかし彼の発せられた言葉に、ワシは彼の視線の意味を理解した。


「機械仕掛けの化け物が蔓延る、地獄のような町。そこでプルアは三本の剣と化した足を振り回し、化け物達を破壊していく。そんな中彼女は二人の少女の存在に気が付き、魚の形をした毒の魔法を放って彼女らを助ける。そして驚いた顔をする少女達の方を見て、記憶は終わる」


「なぁ、その少女達とはもしや…」


「あぁ。君の想像通りだ」


「…今のワシがキャロとリィハー、彼奴らと初めて出会った時の光景じゃ」


「そう。僕と兄さんが君を修理した後の君の記憶。ディンガの怪物が暴れてるのを見てピンと来たんだ。やっぱり僕の予想は正しかったみたいだね」


「じゃが…それってどういう」


「つまりだ。この壊れたプルアは二号機でもなんでもない、正真正銘『君』だ。だからこそ、ようやくディドとシロさんの繋がりが分かった」


「なぬ…?」


「…ディド、ディメンションドラゴンという種は世界の垣根を超えて移動すると言われている。しかし一口に世界と言っても実際に世界間の移動をした人物が居る訳でもないから、それが全く別の世界なのか無数にある他の可能性、パラレルワールドへと移動しているのかも分からない。ただ事実としてここに全く同じプルアがもう一体居る以上、ディドがパラレルワールドからシロさんと壊れたプルアを連れて来たという仮説が立つ」


「パラレルワールド…そんなもん存在するのか?」


「プルア、君はこの世界の事を知り尽くしているのかい?…そんな人は誰一人として存在しない。だからこそ人の空想は否定出来ず、浪漫に溢れたものなんだ」


「ふむぅ…」


「少なくともシロさんが僕達についてやけに詳しかったのも、プラントと人間を引き合わせたらいけないという警告をしてきたのも、向こうの世界で僕達と関わりがあったからという考え方は出来るね。ユウドからの帰り道、たまたまディドが僕達に悪戯を仕掛けてきたのも元々ディドが僕達の事を知っているからなのかもしれない」


「じゃが…少しおかしいぞ。シロが一方的にこちらを知っているならともかく、クママルも奴の事を知っているみたいじゃった。それはどう説明する?」


「事実として、得体の知れない存在を相手にプラントは素直に同行した。恐らく…今まで全く関わりの無い相手な訳ではないんだ。プラントもクママルも納得するような何かが彼女にはきっとある」


「むぅ…まぁいい。話が逸れたが、二つ目のプルアの記憶とやらを聞かせてもらおうではないか。シロの正体を掴む為には情報なんて多い方がいい」


「そうだね。でも…君にとってはショッキングな話かもしれない」


そう言うと、イヴはワシから目を離した。彼のその瞳が向く先はそう、一匹の熊であった。イヴは頬に汗を垂らしながらクママルの目を見る。


そんなイヴを前に、クママルは緊張した様子で小さく頷いた。覚悟は出来ている、そう言いたげだ。彼の意志を聞き、イヴは躊躇うように口を開く。


「クママル」


「ガウ…」


「プルアの記憶だと…君は…」


イヴは歯を食いしばり、俯きながら言い放った。


「死んでいた…」

近頃どうにも物覚えが悪くなってきました。ムッテ編について話したかった事は沢山あった筈なのに、何を書きたかったかを忘れてしまいました。老人という訳では無いのですが、何だか最近認知症になっているような気がします。

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