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少女は魔族となった  作者: 不定期便
箸休め編
86/123

シロ

「なるほど…そんな事が…」


「そうなんじゃ…ワシには何が何だかさっぱり」


プルアはお手上げと言わんばかりに両手を広げた。突然彼女が僕の部屋に入ってきた時はなんだろうと思ったが、想像していたより重大な話に僕は両手を組んで頭を悩ませる。


「無理じゃとは思うがイヴよ…何とかシロについて思い出す事は出来んか?現状お主だけが頼りなんじゃ」


「無理だね…昔の事は断片的にしか覚えてないから」


「そうじゃよなぁ…残る手掛かりと言えばこいつぐらいか…」


そう言ってプルアはチラリと床に倒れるその物体の方を見る。そこに転がるのはプルアが持ってきた、森で見つけたもう一人のプルア。見るからにボロボロで無茶な運用をされていた事が伺える。


「とりあえず解析はしてみるよ。どれくらいの情報を得れるかは分からないけど」


「うむ、頼りになるのう!」


「まぁただ…現時点でもシロさんとやらの目的について想像の余地はあるね」


「む?」


床に落ちている壊れたプルア、そして首を傾げてちょこんと座り込むプルアを見比べながら僕は言った。


「どういった手段でプルアを手に入れたのか、何故僕達の事を知っているのかは分からない。けど君を狙う理由として想像つく中で最も単純な理由は『自分のプルアを修理したかったから』だ」


「あー…ワシを破壊し、その備品を使って故障した部分を補おうとしていたのか」


「そう簡単にプルアを修理出来るとは思わないけど、アダム兄さんもプルアを改造出来たんだ。もしシロさんが過去に僕と関わりを持っていたならばプルアの設計について何か知っていてもおかしくはない」


「うむ…確かに納得感はあるのう」


「とは言っても、彼女が何者なのかもディドを求める理由も分からない。…そもそも、僕らはディドの事についてもあまり知らないしね」


「流れでサラッと住み着いただけじゃもんなぁ」


「そのディドは今何処に?」


「外でクママルと一緒に寝ておるよ」


「そっか」


彼女の話を聞いて僕は考え込む。その様子にプルアは口を開いた。


「どうしたんじゃ?」


「いや…杞憂かもしれないけど、ある可能性を考えていて」


「む?何じゃいその可能性とやらは」


「…僕達がディドに襲われたのは単なる悪戯かと思っていた。けどもし、彼が僕達を故意に選んで接近してきたとすれば?」


「それは流石に…と言いたい所じゃがもしシロとディドの間に関わりがあるとするならば有り得るのう。ディドの事を狙うシロはワシらの事を知っていたんじゃから、ディドもワシらの事を知っていてもおかしくはない」


「ディドが敵だとは思ってない。けど僕達の知らない秘密がある事は確かだろうね」


「そうじゃなぁ…しかしディドと会話が出来ない以上、情報を得るには再びシロが現れるのを待つしか…」


「そうだね。とりあえず僕はシロさんのプルアの解析に取り掛かる。もし何か分かったら知らせるよ」


「プラントにこの事は?」


「伏せておこうか。シロさんがわざわざプラントの名前を出したのが気になる。…それに、彼に余計な情報を与えてはならないとリィハーちゃんに言われてるから」


「ふむぅ、そうか」


プルアは小さく頷くと、彼女は立ち上がって部屋を出ようと扉へと近付いた。そしてドアノブを握り、彼女はこちらを見る。


「それじゃあワシは散歩でもしてくるわい。そろそろムッテへ向かった三人が戻ってきてもおかしくない頃合いじゃろう、少し様子を見てくる」


「行ってらっしゃい」


「うむ」


彼女はひらひらと軽く手を振ると、扉をバタンと閉めて廊下へと出て行った。そんな彼女に手を振り返した僕は溜め息をついて壊れたプルアの方へと近寄る。


「やっぱりどう見ても僕らのプルアそのものだ。それも初期のプルアではなく、兄さんと一緒に修理した後の…」


ガチャガチャとプルアを分解しながら僕は彼女の内部をじっくりと観察する。シロさんがプルアを作る方法を知っていたとして、今のプルアと全く同じものを作り上げたというのは何だか違和感がある。ユウドでの騒動の後にプルアと接触していなければ無理な話だ。


「…シロさん、か」


あまりにも不可解な状況に、胸の奥をザワザワという気持ち悪い感覚が襲う。どうしようもなく、心臓が煩く鼓動する程の悪い予感に僕は冷や汗をかいた。


正直、心細い。僕は皆んなが早く帰ってくるように天へと祈りを捧げた。


〜〜〜〜〜〜〜


「ちっ…まただ。クソが…」


モウモウと呑気に鳴く牛を睨み付けて、俺は手に持っていたバケツ一杯のキノコシチューを冷凍保存用の箱の中へと放り込む。バケツが八個は入りそうな箱だが、気が付けば今入れたバケツが八個目だ。上手くいかない現実に俺は深い溜息をつく。


「俺が牛乳を手に入れようとすると決まって必ず別の何かが出てくる。クソ…この呪いさえ無ければとっくの昔にバターを…」


「協力してあげようか?」


「あ?」


聞き慣れない声に俺は思わず声のした方を向く。ここにあるのはせいぜい牛と、部屋の隅に積み上げられた牛用の麦。そんな麦のてっぺんには見慣れぬ存在が座っていた。キャロのように真っ白な長い髪に兎の耳を生やした女性。彼女はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべてこちらを見下ろしていた。


「…この魔族の国にどうやって侵入しやがった」


「まぁまぁ、そう敵意を向けないでよ。私は君に害を与えるつもりは無いから」


「確かに協力するとかほざいてやがったな。どういう事だ?」


「取引だよ。もし君が私の望みを叶えてくれるのなら、私は君にバターをあげる。どう?」


「生憎だが対価になっていないな。バターを受け取ろうとしても俺には呪いが…」


「『イショクソウ』」


その単語に、俺はぴくりと指を動かした。そんな俺の反応を見て彼女はケラケラと笑う。


「イショクソウは人の身体を分解し、自身の中へと取り込む。しかしバターを使って酔わせる事で、イショクソウは人間の欠損した部位を蓄えていた遺体を使って再構築する。本来は危険な植物だけど、使い方によってはこれ以上無いぐらいの医療道具となる」


「………」


「プラントさん、君は肉体を取り戻したいんだよね?…バターを使って、自分の肉体を吸収しているイショクソウから全てを取り返す為に君は頑張っている。だからもし協力してくれるなら、私はプラントさんの代わりにイショクソウを起動させる」


「こちらの情報は筒抜けって訳か…」


「私からの条件は二つ。一つはこれから人間とは関わらないと誓う事。もう一つは…」


「結構だ」


「え?」


唖然とした様子で彼女は目をパチクリとさせる。まるで完全に想定が崩れたかのような、信じていたものに裏切られたかのような表情だ。


「いやいやいや…目的を知った上で協力してくれるのなんて私ぐらいだよ?そんなに血眼になってバターを求めるぐらいなら取引に応じた方が良いと思うけど」


「会ったばかりの名も知らぬ馬の骨を信用しろと?お前が約束を守る確証は無い。…そして同時に、俺が約束を守ると保証も出来ない」


「はぁ…やっぱり難しいね、君は。私の名前はシロ。どうすれば信用してくれる?」


「正体と目的と住処を教えろ。俺の判断でそれが正しい情報だと感じるなら信用してやる」


「…仕方ないかぁ。分かった、全部話すよ。けど他の皆んなには内緒にしてね?」


「場合による。だがもし協力して欲しいなら話すしかないぞ」


「しょうがないなぁまったく。それじゃ、よーく聞いてね」


シロはニタァと口角を上げ、自分の正体をさらけ出した。

『逆さの砂時計』。ムッテへと向かう目的となった魔道具。ですが実は最初からキャロ達が手に入れる想定ではありませんでした。当初は帝国の魔族達に出し抜かれて砂時計を奪われるというのを考えておりましたが、紆余曲折あった結果砂時計はどの陣営にも奪われる事はありませんでした。

そんな逆さの砂時計の製作者である、ジニー。彼についての話ももう少し深掘りしたかったのですが、中々タイミングがありませんでした。いずれ彼についての話もする予定ですので、イケメンらしいジニーの顔ファンの方が居ましたら是非楽しみにしていてください。

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