表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は魔族となった  作者: 不定期便
箸休め編
83/123

目的

見覚えのない帰り道。あの時の私は寝ていた上にスイミさんによって連れ去られていたので当然であると言えば当然なのだが、それでも何だか変な気持ちになってくる。私達の家にではなく全く知らない未開の地へ連れて行かれて行かれそうだ。


そうした事を考えながら私はごろんと馬車の座席で横になっていた。程よく馬車が揺れ、ポカポカと暖かい太陽が私の肌を優しく照らす。控えめに吹く風が私の前髪を揺らす度にウニストスでの出来事が終わったと実感し、溜まっていた疲れが一気に襲ってくる。このまま目を閉じて寝てしまいたい程だ。


だがしかし…どうにも寝れない理由がある。私はちらりと睡眠を妨害する人物の方を見ると、視線を動かしてアカマルに話しかけた。


「ねぇ…リィちゃんに何かあったの?」


馬車の後部座席にて、山積みになった焼きとうもろこしをむしゃむしゃと食べるリィちゃんの姿がそこにはあった。何処か拗ねたような表紙の彼女に、馬車を操るアカマルは苦笑いを浮かべる。


「分かんねぇ。街で合流したと思いきや突然『ありったけの焼きとうもろこしを買え』って言い出してよ。仕方なく…」


「んー、何でだろ」


私達が話していると、リィちゃんはムッとした顔をする。


「アカマルが突然私を置いて居なくなるのが悪い。あの時本当にお腹空いてたんだから」


「あー…あの時の事か…」


「アカマルがお金持ってるから何も買えないし、屋台から香る匂いが更にお腹を空かせるし。飢えた子供を置いてくなんて最低」


「う…悪い」


「そもそも何で勝手に何処かへ行っちゃったのさ」


二人が何の話をしているのか私には分からない。しかしアカマルが何かをしでかしたのだろうという事だけは理解出来た。


彼女はバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。


「元々ムッテで暮らしてた時はまぁまぁ良い暮らしをしてたんだよ。屋敷はあるわ、使用人は多いわでよ。今私達が乗ってるこの馬車を引く馬だって我が家がある施設に預けてた奴だ」


「それにしてはアカマルに懐いてないけどね」


「うるせぇ。…話を戻すぜ。そんでまぁ、色々あって我が家の使用人は…その…全員居なくなっちまったんだ。帰省したぐらいに認識してくれ」


「全員が帰省?…まぁ、分かったよ」


「そして、リィハーと街を歩いていた時…私は一人の男を見つけた。そいつは使用人全員が居なくなった日、たまたま別の町まで買い出しに行っていて屋敷に居なかった使用人だった。そこでこの町に来るのがご無沙汰だった私はウェルフルとしてそいつと接触しに行った」


「それで…その後どうなったの?」


「…そこで私は聞かなかった方が良いような話をいくつか聞いちまったんだ。あまり気分の良い話じゃねぇが、聞くか?」


私とリィちゃんは迷わずにこくりと頷く。そんな私達にアカマルは「子供は好奇心旺盛だな」とぼやきながらもその話を語り始めた。


「私が魔族になったきっかけの、ある犯罪者が居た。そいつは勝手に他人の家に侵入して手頃な女子を溶かすのが趣味だという、最低の男だ。当時人間だった私も奴の毒牙に掛かった」


「何だか…聞き覚えがあるような…」


「そんで、例の使用人の話を聞いて私は絶句した。私が居なくなってから最近まで、アイツは証拠も残さずにずっと犯罪行為を続けていた。…私は長らくムッテから離れていたが、その間私と同じ境遇の可哀想な被害者達が量産されていたんだ」


「そんな…」


「そしてつい最近、とうとう奴の尻尾を掴んだウェルフルにより奴は社会的地位を失った。今頃何処かで浮浪者として生きているだろうな。ざまぁねぇぜとは思うが…でもよ、アイツが奪ったものはどう足掻いても戻って来ねぇんだ。それまでに、アイツのしでかした事は大きすぎた」


「そうだね…奪った命はもう二度と戻らないんだから…」


「そこで私は思っちまった。『もし、あの時自分に力があって、奴を撃退する事が出来ていれば、止める事が出来ていれば救えた命は沢山あった筈だ』と。まぁ、そんなんはもう今更どう言っても変わらねぇのは分かるよ。ただ…あの時の私はまだ、過去を赦されていなかった。だからよ…冷静になれなかったんだよ」


「それで…ウニストスを襲ったの?」


「あぁ。お前らに言ったかは覚えちゃねぇが、私の目的はウェルフルになる事だった。でないと、皆んなを守れなかった自分の罪に耐えきれなかったからな」


「でも、それはアカマルの罪なんかじゃないよ」


「…私にとっては罪だった。今はもう、どうしようもなかったと開き直ってるよ。だが、人間というものは必要以上に自分を呪う。そして自分を愛せなくなった者は周囲の者さえも愛せなくなる。今思えば…最低だったな、私。周りを巻き込んでよ」


「………」


「まぁ、なんつーか…これが私の本当の姿だ。がっかりしたか?」


彼女の質問に、私は迷う事なく首を横に振った。そしてその行動に眉をひそめたアカマルへ、私は言葉を投げかける。


「そんなもんだと思うよ。私だって自分が本当に辛い状況の時、果たしていつも通りでいられるか、周りの人達の事にまで頭が回るかって言われたら自信が無いもん。けどそうして荒ぶっている姿が本性なのかと言われれば、そんな事はないよ。人の気持ちって良くも悪くも状況に左右されちゃうと思うから、私はアカマルに対して失望したりなんかはしてない」


「…寛大だな、お前は」


「アカマルの悪い所以上に、アカマルの良い所も一杯見てきたからね。それに、私もアカマルと同じ。一人ぼっちになっちゃった時の不安や恐怖はよく分かるから」


「いやいや、私の方はただの帰省で…」


「さっき、私達に気を使ってぼかしたんだよね?重い話を聞かせたくないからって」


「ちっ…勘のいい餓鬼がよ…」


「アカマルの嘘が下手なんだよ」


アカマルはぐぬぬと悔しがりながら歯を食いしばった。しかし、やがて食いしばっていた歯の力は抜け、彼女はフッと笑う。


「まぁいいさ、嘘は私らしくねぇからな。…実を言うと後ろめたい気持ちはあったんだが、お前の言葉でいくらか安心したよ。ありがとな」


「ずっと前に話したでしょ、私達は『家族』だって。家族に寄り添うのは当たり前の事だよ」


「懐かしいな…その話をしたのも出会って二日目、とかそんぐらいだったよな」


「家族が居るから一人じゃない。アカマルを含む、皆んなのお陰で私は孤独から立ち直れたんだよ。だからアカマルももう、一人で抱え込まないで」


「…おうっ」


アカマルは照れたようにくしゃっと笑った。その彼女の表情には、以前に感じ取っていたような闇などは無い。正真正銘、私の大好きな明るいアカマルの姿であった。その姿に、改めて彼女が帰ってきたんだなぁと感じる。


だが、私は気付いていなかった。深い闇をその目に宿しながら苛立ったように貧乏揺すりをする一人の少女が居た事を。


「話はもう済んだ?アカマル、私が置いてかれて怒ってる事、忘れてない?」


「お前まだ怒ってたのかよ…!」


「当たり前だよ。こちとら空腹だったんだぞ」


「だから悪かったって…!」


「いいや、許さない。あの時の私の恨みを思い知れ」


「ちょっ!?腕に噛み付いてくんな!おい!こっちは馬車を動かしてんだぞ!」


「あむあむ…」


「はーなーれーろ!この馬鹿王!」


馬車の揺れが大きくなるような、そんな殺伐とした取っ組み合いがアカマルとリィちゃんの間で行われた。ギャーギャーと騒ぎながら乱闘する二人の姿に、私は思わず笑みをこぼしてしまう。


あぁ、ようやく…日常が戻ってきた。


〜〜〜〜〜〜〜


「ほらよ」


ギィと音を立てて扉を開くや否や、彼はこちらに向けて中身の詰まった袋を投げてきた。そうして乱雑に投げられた袋を何とかキャッチすると、彼はフンと鼻を鳴らしながら近くにあった椅子に座る。相変わらず、態度が悪い人だ。


「ありがとうプラント。助かるよ」


「言われた通り集めてきたが、大量の魔石なんて何に使うんだ?さぞかし大層な目的があるんだろうなぁ?グロテスク」


「そんなトゲトゲしないでよ。ほら、これでも食べて」


放り投げられた袋をテーブルに置き、僕は代わりに彼へ一枚のお皿を差し出した。そんな皿の上には湯気の経つ、先程作ったばかりのホットケーキが置かれている。バターだけを乗せた、シンプルな味のおやつだ。


だがそんなホットケーキを見て、彼は怪訝な目をする。


「何のつもりだ?」


「…あぁ、そうか。ごめんね、すっかり忘れてた」


「ちっ…」


プラントは舌打ちをしながら差し出された皿を受け取ろうとする。しかしその瞬間、皿を持っていた指に激痛が走った。突然訪れた痛みに顔を歪めるとその瞬間、パリンと何かが割れる音がした。


「ごめん、落としちゃった」


「…自分のせいではない事ぐらい分かるだろ」


「まぁ…それはそうだけどさ」


「クソが…」


プラントは椅子から立ち上がり、機嫌が悪くなったのかこの部屋を後にしようとする。そんな彼の背中に、僕は言葉を投げかけた。


「その『呪い』…解呪出来ないんだっけ」


「無理だ。呪いをかけた人物の魔力量が多すぎる。金縛りに合うだとかそういった呪いに比べ、俺にかけられた呪いはあまりにも単純だ。難易度が低い分、向こうは自分の持てる魔力を無駄無く使ったんだ」


「そう…だね」


「腹が立つ…」


「でも、そんなに困るものでもないでしょ?『バターを手に入れられなくなる呪い』だなんて」


「お前らにとっちゃそうかもな。だが、こっちには事情がある。俺にとっちゃ最低の呪いだ」


「そっか…確かにパンケーキはバターで食べたいもんね」


「馬鹿野郎が」


「冗談だよ。プラントが何を考えているか僕には分からないけど…それでも、事情があるんだよね」


「………」


プラントは何も答えず、黙ってそのまま僕の部屋を出た。やはり…僕は彼が苦手だ。彼はいつも、遠い何かを恨むような目をするから。


「…バターを手に入れて何になるんだろう」


正直言って、彼のバターに対する執着は異常だ。人間達の町へ必要な物を買い出しに出掛けると、彼は必ずバターを手に入れようとする。そしてやがてそれが無駄だったと悟ると、彼は何処から連れてきたのか牛を飼い始めた。バターを得る為だけにだ。しかし…彼が飼う牛は決まって奇病にかかる。そしてその結果、牛乳が出なくなるのだ。


一体、過去にプラントに呪いをかけた人物は何を思ってそんな呪いをかけたのであろう。そしてプラントは何故呪われた後でもあんなにバターを求めるのであろうか。呪いをかけられていない僕が協力しようにも、彼がその理由を教えてくれた事は無い。


「考えても答えは出ない、か。仕方ない」


脳を切り替え、せっせと先程落としたパンケーキと皿の破片を集める。そして粗方掃除の終わった僕はプラントが渡してくれた袋の方を見た。


「とりあえず、今は僕に出来る事をしよう。こんなに沢山魔石があれば『魔力の研究』が進む筈だ」


袋の中で光る色とりどりの宝石達が持つ魔力。それらを研究し続ければ…いずれは…


きっと、僕の願いは叶う筈だ。

前回に引き続き、没設定を語るお時間がやって参りました。私は普段からオタクのような語りをする癖があります。

『ムッテ編』。前話で少し触れたように、人間を敵としたユウドとは対照的に魔族の存在を強調した話となりました。魔法学校という事もあり、本来は魔力という概念についての事も語る予定だったのですが、元の予定から変更されました。あとついでに逆さの砂時計の合言葉として出てきたジニーさんについても触れる気でしたが、それはまた今度という事になりますね。

という訳で変更ばかりの計画性も何も無い私ですが…ムッテ編の大まかな流れさえもかなり違いました。当初はアカマルと魔法の訓練をしたキャロが生徒達や先生達に驚かれながらもその結果を披露する、というのを考えておりました。簡単に言えば俺、何かやっちゃいました?です。そういう展開は好きな方多いんじゃ…と思いながらやろうとしましたが、そういった状況を書くのが苦手すぎたので、断念する事となりました。そして結果的にキャロは今回無力な存在となりました。可哀想ですね。話が長くなってしまうので詳細は省きますが…当初の想定がそのまま通っていた場合…最終的にキャロVSセクシーさんの構図となっておりました。本編を見た後だとキャロ側が負ける気しかしませんが…その場合セクシーさんはどう負けていたんでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ