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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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じゃあな。また会おうぜ

「どうだ?久しぶりのウニストスの校舎は」


「あぁ…何もかもがあの時のまんまだ。当時の青春を思い出すなぁ…」


人気の無い廊下を歩きながら私は感傷的な気持ちで呟いた。目に見える景色、その全てが学生時代に見たものと同じなのだ。こうして廊下を歩いているとまるで過去に戻ったかのようなそんな錯覚を覚える。


「あの日…たまたま魔法大会に参加してよかった。そこで姉貴と出会い、私の人生に色がつき始めたんだよな」


「へっ、私様にとっちゃ初めての苦い敗北の記憶だけどな。…ま、会えて良かったってのは同意するぜ」


「それで言うとこっちだって今まで感じた事のなかった恐怖を味合わせられたんだぞ。普通車椅子の奴連れながら壁を突き破って飛び降りるか?」


「楽しかったろ?」


「まぁ…悪くはなかったな」


「そう言ってくれるならオコテルにこっ酷く怒られた甲斐があったってもんだ。あ、そうだ聞いてくれよ。オコテルの奴未だにここで先生やってるんだぜ?」


「まじかよ!アイツももう六十ぐらい歳行ってるだろ」


「安心しろよ、小言は衰えず今も尚健在だぜ?」


「そいつぁ恐ろしいなぁ。へへ…」


過去を思い返しながら私はウェルフルとゆったり歩きながら談笑をする。だがしかし…私達の後を付いてくる気取った男にとってはあまり好ましい状況ではなかったようだ。


その男、テンメイはぐったりした様子で間に入ってくる。


「例の置き手紙の話はもう伝えただろう…何をグダグダしてるんだ」


「おいおい、久しぶりに会う親友なんだぜ?世間話ぐらいしたって良いだろうが」


「ならボクは別に居なくても良いだろう。帰る」


「まぁまぁそう言うなって!」


「はぁ…なんでこんな……ん?」


そこでテンメイは気が付いた。私が興味深そうに彼の事を観察している事を。


「…なんだ?」


「似てるな…」


「は?」


「なぁ姉貴、こいつさ…」


「お、ようやっと気付いたか」


「やっぱりそうだよな!?」


「…?何を二人で盛り上がってるんだ。気持ち悪い」


怪訝な顔でテンメイはこちらを見る。しかしそんな視線も意に介さず、私は興奮が冷めきらずにバンと彼の背中を力強く叩いた。


「いや〜!まさか会えるとは思ってなかったからびっくりしたぜ!お前欲しいもんあるか?」


「はぁ…?」


テンメイは助けを求めるようにウェルフルの方を向く。すると彼の心情を察したウェルフルは彼に説明を始めた。


「ケイト…いや、アカマルに尽くしてくれたツウっていう老いた侍女がいたんだよ。テンメイ、お前はツウの婆さんの妹の孫。つまりツウの婆さんの姪孫って訳だ」


「いやぁ、何か雰囲気似てるな〜って思ったんだよな!ツウの親族に会えて嬉しいぜ!」


「…いや、そんな親戚の事なんか知る訳ないだろう。勝手に大叔母の話で盛り上がらないでくれ」


「ツウは立派な人だったぜ!なにせ、私が生まれたのもうちの母ちゃんが生き残ったのもあいつのお陰で…」


「知らないって言ってるだろ。そんな話をされても困る」


自身に関係ない話に冷めるテンメイとは対照的に、私は未だに興奮が冷めきっていなかった。ツウは私を守ろうとして死んでしまったが…彼女の血筋はまだ生きている。その事実に何だか嬉しくなったのだ。実際、彼らは私と何の関係もないただの他人。しかし…ツウの大切な家族なのだ。


私はテンメイと無理やり肩を組む。


「ツウには随分と世話になった。だからその恩返しとして、お前ら一族に何かあったらすぐに駆けつけてやる!遠慮せず頼れよ!」


「…何なんだこいつは」


「な!」


「…はぁ、まぁ味方は多いに越したことはない。少し失礼する」


「お?」


テンメイは私の頭に手を伸ばし、髪の毛を一本抜き取った。


「その者の一部さえあれば、ボクの魔法でいつでも連絡出来る。何かあったらこの髪の毛を使って連絡させてもらおう」


「おー…その若さでそんな高等魔法が使えんのかよ?すげぇな!」


「ふん。いいから離せ」


相変わらず冷めきったテンメイは無理やり私の腕を引き剥がした。つれないなぁと頬を膨らませる私に、ウェルフルが話しかけてくる。


「そろそろテンメイにばっかりじゃなくて私様にも構ってくれよ。…あ、テンメイはもう帰っていいぜ」


「何なんだ一体…」


「それよかケイ…アカマル。大切な話があるんだ」


「わざわざアカマルって呼ばなくても良いぞ。ケイトでいい」


「そうか。んじゃ、ケイト」


彼女はこちらを真っ直ぐ見つめる。そして私が真剣に聞こうとしている事を理解すると、小さく頷いて語り始めた。


「この世界はいつ誰が死ぬか分からない、危険な世界だ。そんな中…お前は今回の一件でその強靭な肉体を失い、ただの人間程度の肉体へと成り下がった」


「…あぁ、そうだな。ダンベルすらも満足に持ち上げられねぇ」


「しかし…お前はその代わり、私様の『ステップアップ』の魔法を得た。…今まで脳の障害で基礎魔法以外の魔法を扱えなかった、お前がだ。魔族になり障害が無くなったにせよ、お前の中にあった『諦め』は新たな魔法を習得する事を拒んでいた。けどそんな中で…お前は初めて基礎魔法以外の魔法を使ったんだ」


「そうだな。生まれてきた時から魔法を満足に扱えない身体だった。…産まれてからの当たり前がずっと、心のどっかに引っかかってたんだろうな」


「これから、お前は様々な魔法を扱えるようになるだろう。だがしかし、魔法の会得には時間がかかる。しばらくの間ステップアップが主力の魔法となる筈だ」


「身体能力が低下した以上、身体強化の魔法は重宝するもんな」


「五分。…今のお前が強化魔法の負荷に耐えられる時間だ。その軟弱な身体じゃそれ以上持たない」


「………」


「お前はもうここへ来た時程強くもないんだ。だからよ…その…」


「あー…姉貴の言いたい事が何なのか、察しちまったぜ」


私は不安そうな顔をする彼女にニヤリと歯茎を見せた。


「要するに『危ない事はしないでくれ』だろ?今まで通り無敵のウェルフルの真似をし続ければ早死するだけだと」


「…心配もするだろ。お前は私様の小さなケイトなんだぞ?」


「あぁ、心配してくれてありがとよ。忠告感謝するぜ」


「………」


ウェルフルは小さく俯く。そして…そのまま、覇気のない声を洩らした。


「ケイト。お前が何かとんでもない目標を持って行動している事、何となく分かる。魔族が群れるなんて普通の事じゃねぇもんな」


「…あぁ。恐らく、私達のしようとしている事は人間にも魔族にも大きな影響を与える」


「正直に言うと…私様からすりゃあ世界をどうにかしちまうような目標だなんてどうでもいいと思ってる。私達が生きている世界は自分と、その周りの大事な仲間達。世界のどっかで起きている戦いやら悲しみやらを考慮してちゃキリがねぇし、自分の周りの奴らを考えるので必死だ」


「………」


「お前が決めた事に口出しはしない。ただ…もし挫けそうになったら、また会いに来てくれ。自分の命が危ない時は何を投げ出しても生き残ってくれ。それが、親友としての願いだ」


そう言う彼女の目は真剣そのものであった。彼女は人が簡単に死ぬ事を、よく知っている。そして…ケイトという女の子の弱さも。先程まで触れていたアカマルという化け物の心の深い傷を。彼女はようやく出会えた守るべき親友が再び自分の元から立ち去っていく事を、不安に思っているのだ。


そんな彼女に、私は場違いな満面の笑みを浮かべた。


「おいおいウェルフル!そんな台詞お前に似合わねぇぜ?イヒヒ…」


「け、ケイトの癖に揶揄うんじゃねぇよ!私様は真剣にだな…」


「当たり前だ。お前がそこまで私の事を考えていてくれて…嬉しかったぜ」


「…ケイト」


「ただ一つこれだけは言わせてもらうぜ。魔族は理想を追い求める生き物だ。何を投げ出してでも逃げるなんて事は出来ねぇ。そもそも、投げ出すには大切すぎるもんが一杯あんだ」


「………」


「だが…同時に死ぬ気もねぇ。私はクレバーオーガ、アカマル様だぜ?何があっても生き残り、何があっても妥協はしねぇ!それがウェルフルとケイトの妹であるこの私の生き方だ!ガッハッハッ!」


「…ふっ、そうかよ」


彼女は曇っていた顔を晴らし、力強く私の肩を叩いた。そんな彼女の目は透き通っている。


「そんじゃ、行ってこい!お前はウェルフルじゃない、アカマルだ!ようやく掴んだお前自身の生き様を、私様に見せてみろ!」


「おう!『ステップアップ!!!』」


腹の底からそう叫ぶと、青白い光が真っ赤な私の肌を包んだ。全身を熱い魔力が包み込む、心地の良い感覚。まるで…ウェルフルがいつでも傍に居るような、そんな感覚だ。


そうして、向上した脚力で私は走った。目の前まで近付いてくる廊下の壁。どんどんと離れていくウェルフルの姿。そんな離れていく彼女に…私は振り返りながら親指を立てた。


「じゃあな!また会おうぜ、親友!」


ウェルフルと出会ったあの日のように、私は壁を突き破って宙へと放り出された。


〜〜〜〜〜〜〜


「…あんの馬鹿野郎。ステップアップは長続きしないっつったろうが。全く…人の話を聞かない奴だぜ」


私様は深い溜め息を吐き、その場に座り込む。そしてケイトが開けて行った壁穴から空に浮かぶ太陽を眺めていると、私様の隣に誰かが立った。


「…何だ、テンメイ。お前まだ居たのかよ」


「別れを言わずに立ち去るのはボクの美学に反する」


「へっ、そうかよ」


ごろんと寝っ転がって手足を伸ばす私様に、テンメイは顔を向けた。


「随分と嬉しそうだね?ウェルフル」


「あぁ、満足だ」


瞳を閉じるといつでも思い浮かぶ、彼女との日々。そんな時間の一つ一つを噛み締めながら私様は笑みを浮かべた。


「親友はもう、私様の力が無くても立てるようになったんだから」


「それは魔族になった時からそうだろう。今更だ」


「いいや?アイツはずっと借りもんの姿で、自分じゃない足で立っていた。それがようやく…自分自身として、堂々と仲間の元へ向かったんだよ」


私様は目をゆっくりと開く。そして…先程までケイトが立っていた、もう彼女の居ないその空間を眺めながら言う。


「歪んだ願いがアイツを魔族にした。…けど今は違う。アイツは自分の意志で魔族としての力を捨てた」


私様はニヤッと笑う。


「ちっぽけで弱い、どうしようもない本当の自分。しかし、私様とツウが愛したケイトという存在を自分が簡単に捨ててはならない。母ちゃんやツウが繋いでくれたケイトの命を終わらせてはいけない。私様を安心させられるぐらい立派に前へ進みたい。…そんな想いが、アイツとなったんだ」


私様はゆっくりと拳を宙に浮かべる。そして何も無い空間に拳を突き立て、全てに納得した穏やかな心情で言った。


「あばよ、親友」

これにてようやく長かったウニストスでの話は終わります。前回のユウド編よりも多い話数となりましたね。色々と計画していた当初の流れと異なり、書いている私でさえもどうなってしまうのか予想がつかないまま完結まで来ました。

章の名前である、『想いが彼女となった』。その名前の通り今回のお話は魔族となってしまった少女達が核となる話でした。友を想って復讐に走ったシークイ、視線を独占したいという想いから生まれたスイミ、弱い自分の全てを否定して強さを想ったアカマル。前回の敵は人間でしたが、今回は純粋な魔族が立ち塞がりました。この事で魔族に対する理解が深まっていれば幸いです。

しかし、章の名が指すのは彼女ら三人だけではありません。兄への憧れという想いを抱き、彼を目指して成長したグレー。彼女は魔族にはなりませんでしたが、原点である想いが今の彼女となった、という意味では他の三人と同じです。仲間達が連れ去られたり、洗脳されている中で常に解決の為に動いていた彼女は実質的に今回の裏主人公と言っても過言ではないでしょう。…いや、それはどうでしょうか。とは言っても意図的にそうした訳ではありますが、活躍の少なかったキャロよりかは主人公だった気はします。

という事で、長らくお疲れ様でした。前回と同様箸休め編の後書きに様々な設定を書いていこうかと思います。…とはいっても、前回忘れていて書ききれなかった設定も多々あったので今回も覚えている設定に限ります。

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