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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
80/123

一段落

「あああああぁあぁぁぁあああぁぁぁ」


ゾンビのような呻き声を発しながらタクは机に突っ伏していた。まるで萎れた雑草のような状態となったタクに私様は微塵も遠慮する事なく大笑いしていた。


「まぁそんな事もあるだろ!」


「初恋相手が魔族…あの思わせぶりな態度も全て利用する為の…はぁ…」


「グレーの話を聞いた所メアリーは友情を全く抱いていなかった訳じゃねぇんだし、いずれ戻ってくるとも約束したんだろ?ならそんな悲観しなくてもチャンスは巡ってくるだろ!」


「そうですかね…」


「大体人生に失恋はつきもんだ!私様だって数々の失恋を経験してる訳だし、お前もクヨクヨすんなよ!」


「えっ、ウェルフル先生が失恋!?」


「振る側だけどな」


「あぁ…」


一瞬顔を上げたが、私様の返答に彼はまた机に突っ伏しだした。そんなボロ雑巾のような状態の彼を放置し、アガリが話しかけてくる。


「それで、これからどうするんですか?」


「どうするも何も、もう全て終わったよ。シークイ、メアリーロナウド、我が妹の件の全てが片付いたんだ。ケイトの奴が結界魔法の効果を書き換えてウニストスを出入り出来ないようにしていたが、それももう元に戻った。外に閉め出された奴らもそろそろ結界魔法が変化した事に気付く頃合いだろ」


「…じゃあ、その妹さん御一行については?」


そう言うアガリの頬には汗が流れていた。普通に考えればケイトは学校を襲い、結界魔法を操作して外部との出入りを阻止した凶悪犯だ。…それでなくとも、魔族だ。本来ならばウニストスの教師として見逃す訳にはいかないであろう。


そう、本来ならば。


「お前よ、アガリ。もしお前より立場が上の人間に『今すぐ舌を噛み切れ』って言われたらどうするよ?」


「え?そんなの当然…命令に背いてでも断ります」


「それと同じだ。私様にとってあいつは妹だ。立場上どうたらって理由で命は奪えねぇ」


「………」


私様の言葉にアガリは黙り込む。彼が納得しているのか、それとも私様に疑念を抱いているのかは分からない。ただ…少なくとも思う所はあるのだろう。仲間が魔族であったと知った以上、彼の抱く『魔族は悪』という認識は微量ながら変化している筈だ。


そんな中、グレーが私様に話しかけてくる。


「…あの」


「あ?」


「あの人…本当にウェルフル先生の妹なんですか?」


「んだよ。気になるか?」


「双子と言うにはお二人の姿はあまりにも同じでした。そっくりなんてものじゃない。肌の色や角を加味しなければ…全く同じだったんです」


「あー」


「どうなんですか?」


私様はつい思い出し笑いをしてしまう。そんな私様をグレーは首を傾げながら見ていた。


「ウェルフル先生?」


「アイツなー、言うなりゃ私様に憧れた奴なんだよ。それで話し方やらも私様に寄せてたんだけどよ」


「はい」


「『仲間の前では自分はケイトじゃなくてアカマルだ。だからこの話し方は変えられないし、この姿も変えられない』って言ってたんだよ」


「…はい」


「んじゃお前はまだ私様として生きてくのか?って聞いたんだよ。そしたらよ…ケイトの奴『いや、私達は姉妹だろ?』って言ってきたんだよ!妹が内面的にも外見的にも姉に似るのは当然だってよ。ヒヒヒ…」


「…でも二人は姉妹じゃないんですよね?」


「ケイトは嘘付かないからな。アイツがそうってんなら私達は姉妹なんだろ!はっはっは!」


「頭が痛くなってくるわ…」


呆れ返るグレーを前に私様は笑う。


「ま、ともかくだ。明日からはまたいつもの日常が戻ってくる。とりあえず私様は妹達の見送りに…と、言いたい所だが」


「言いたい所だが…?」


「テンメイ。ちょっと付き合え」


私様が呼ぶと、壁に寄りかかりながら黙っていたテンメイはこちらの方を向いた。


「何か用でも?」


「お前よ、召喚魔法で嗅覚の良い存在を呼び出せるか?」


「ボクを見くびらないでくれ。使い魔として狼を召喚出来る」


「上出来だ」


「何故わざわざボクの力を?ウェルフル、君もそれぐらいの魔法、造作もないだろう」


「まー…念の為だ」


「…?」


「全てが終わった後、私様は学校中に使い魔を走らせて安全確認をしたんだ。そしたらよ、落し物があった」


「落し物ぐらい普通では?」


私様は首を横に振る。


「違ぇのよ。その紙からな…知ってる奴に似た匂いがしたのよ」


「…はぁ。ではその人の落し物では?」


「にしては紙に書いてある内容が妙だった」


「何て書いてあったんですか?」


興味津々で身を乗り出すグレーや注目する周りの視線を前に、私様は記憶にあるその文章を読み上げた。


「『彼女を得る為の最も大きな障害となるのは、あの骸骨だ。骸骨を始末する方法は三つ。孤立した所を総出で襲うか、人間達に殺ってもらうか、彼の仲間達に殺らせるか。我らが王が例の作戦を成功させた場合、我が悲願である彼女の入手は達成される』」


「…骸骨やら彼女やら話が見えてこないですね」


「そもそも、こんな文章をわざわざ紙に書き起すのもおかしい。私様から見れば『骸骨を案ずるならば彼女を差し出せ』という警告にも見える。つっても私達に覚えがない以上、我が妹達に関係する話だろうな」


「じゃあこの事は本人達に伝えるんですか?」


「伝えるにせよケイトにだけだ。向こうがわざわざ書き残した以上、何らかの動揺を誘っている可能性が高い。無闇矢鱈に伝えまくるもんじゃないさ」


「そうですか…」


「つー事でテンメイ、一緒に来い。例の紙は私様の使い魔が持ってる」


「仕方ないな」


渋々壁に預けていた身体を動かし、テンメイはこちらの方へと向かってきた。そんな彼に頷き、私様は生徒会室の扉に手をかける。


「そんじゃ、お前ら二十分後に校庭前に集合な。行ってくるぜ」


そう言い残し、私様はテンメイと共に部屋を出た。さっさと行動に移さなければ妹達の帰りの時間が近付いてしまう。よって早歩きで廊下を歩いて例の使い魔の元へと向かっているのだ。


そんな道中にて、テンメイは尋ねる。


「で?誰の匂いがしたんだ?ボクの知らない人なら匂いがどうたら言われても分からないが」


「お前も会った事あるから分かる筈だよ」


「知り合いにあんな奇天烈な文を書く人は居ないね。誰だ?」


「あの白髪の少女だよ。名前は確か…キャロだったか?」

書き終わってから気付いたのですが、思っていた以上に話が短くなってしまいました。長めの話と短い時の話の差が激しいですね。

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