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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
79/123

幽霊と少女

「…あ」


廊下にて休憩を挟んでいた私達は足音が近付いて来る事に気が付いた。そしてその人物を見るや否や、私とリィちゃんは思わず走り出していた。


「「アカマル〜!」」


子供達に群がられ、アカマルは後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべていた。その様子に、彼女が元に戻ったのだと確信する。


「良かった…いつものアカマルじゃなくなったらどうしようかと…」


「あー…まぁ、なんだ。お前らにも色々迷惑かけたな。悪かった」


「…アカマル」


落ち着いた声色で彼女を呼ぶリィちゃんにアカマルの視線は向けられる。するとリィちゃんは真剣な表情で口を開いた。


「もう、大丈夫?」


「…あぁ。長い間迷惑かけたな。もう大丈夫だ」


「良かった」


そう言ってリィちゃんは口元に僅かな笑みを浮かべた。思えばリィちゃんとアカマルの関係は私なんかよりもずっと長い。アカマルの闇を知らなかった私とは違い、リィちゃんはずっと不安だったのだろう。だからこそ、アカマルの言う『大丈夫』という言葉に心底安心しているのだ。


そうして再会を喜んでいると、一人の人物が会話に混ざり込んでくる。その真っ赤な角刈りの男子生徒、アガリさんは丁寧にお辞儀をしながら話しかけてきた。


「お話中の所失礼します。…ウェルフル先生はどうなったのでしょうか」


「あぁ、姉貴か」


「…姉貴?」


アガリさんが聞き返し、私とリィちゃんはぽかんとする。そんな大混乱に陥った私達を他所にアカマルは飄々とした態度で親指を後ろに指した。


「姉貴なら後ろに居るぜ。もっとよく見てみろよ」


「ん…?」


しかし、彼女の背後には誰も居ない。おかしいなと思いながらじっと目を凝らして彼女の姿を探していた時であった。


突然床をすり抜けて何者かが現れた。


「わっ!?」


あまりに突然の出来事に驚いて尻餅をついてしまう。そんなリアクションをしてしまった私と唖然とする一同を見てアカマルと床の中から現れた存在はゲラゲラと大笑いをした。


「やったな姉貴!案の定驚いてやがるぜこいつら!」


「こんな身体になった以上先ず最初にする事と言ったら驚かせる事だよなぁ、妹よ!キヒヒ…」


「ウェ、ウェルフル先生…」


アガリさんが言葉を出せずにあわあわとしている中、彼の背後に立つグレーさんが頭を押えた。


「もう…ウェルフル先生が何をしても驚かないようにするわ」


「いやいや…え?ウェルフル先生幽霊に…え?」


事態を飲み込んだグレーさんと、動揺し続けるタクさん。その反応の差が面白くはあるのだが、かく言う私もあまり理解が追いついていない。アカマルとウェルフルさんが姉妹で、アカマルは元に戻って、ウェルフルさんは幽霊になっている。あまりにも一度に物事が起こりすぎているのだ。


そんな私達を嘲笑いながらウェルフルさんは言う。


「てな訳で、これから私は幽霊としてお前らの面倒を見る。良かったな、『うちの先生はお化けなんだよ!』って家族に自慢出来るな!」


「自慢出来る事じゃないですよ!」


「っと、そんな事よりメアリーの奴はどうした?」


彼女が尋ねると、グレーさんとシズカさんは何も言わずに互いに顔を見合わせる。その光景を見て何かを察したのか、ふぅと息を吐いてウェルフルさんはアカマルを見る。


「ちょっと生徒達と色々話してくるわ。…お前らも、三人だけで話せた方が都合がいいだろ?」


「あぁ、そうするか」


「んじゃ、後でな」


「おう」


そう言い残してウェルフルさんは生徒達と共にその場を去った。方角を見るに、恐らく生徒会室にでも向かっているのだろう。今日は色んな事が起こりすぎた。ゆっくり話せる環境を求めたのだろう。


そしてその場には私、リィちゃん、アカマルの三人が取り残される。彼らが去ったのを確認し、アカマルは真剣な眼差しを私達に向けた。


「改めて悪かった。仲間だってのに、お前らに襲いかかっちまって」


「ううん。気にしてないよ」


「いや、下手すりゃお前らは私の手により死んでたんだ。そんな簡単に流せる事じゃねぇ」


「いや本当に大丈夫だから…実際こうして生きてるんだし」


「そうはいかねぇって」


食い下がらないアカマルに困っていると、リィちゃんが救いの手を差し伸べてきた。


「じゃあ国王としてアカマルの処置は後で決める。それで文句無い?」


「あぁ、それで文句は無いぜ」


「よし、後で色々めんどくさい事代わりにやらせちゃうもんね」


「…処置の方向性が何か違わねぇか?」


「そんな事より話すべき事がある」


首を傾げるアカマルを前に、リィちゃんは咳をして喉の調子を整えた。


「逆さの砂時計をどうするか」


「グレーさんの話によると砂時計は取り返したんだもんね」


「今が絶好のチャンスではある。どうする?」


色々あったが、当初の予定は砂時計の入手だ。円満に終わって皆んなが安心しきっているタイミングで砂時計を奪うのは心苦しいが…でないとここへ来た意味が無い。


よって実行に肯定的な意見を発言しようとすると、私の言葉をアカマルが遮った。


「砂時計は諦めるか」


「…アカマルらしくないね。どうして?」


「理由は簡単、私達じゃ奴らに勝てねぇからだ」


その言葉の意味が分からず眉を顰める私達にアカマルは説明を始めた。


「激しい戦いの過程で、私は鬼の力を失った。魔法は相変わらず使えるものの、身体能力は一般人レベルにまで下がっちまった」


「確かに…心做しか筋肉量が減って前より細くなったような…」


「んで、あっちには姉貴と砂時計がある。砂時計を奪おうとしてんのがバレたら善戦する事もなく全滅だぜ」


「うーん…砂時計の凄さは知らないけど、それでも最高戦力のアカマルが弱くなっちゃってるなら厳しいかも…」


「ま、つまり何も成果は無かった。完全なる骨折り損って事だ!」


彼女のその言葉に、私とリィちゃんは顔を見合せて笑った。対するアカマルは私達の行動の意味が分からずに目を細めた。


「何だよ?」


「成果ならあったよ」


「あ?」


「アカマル、ムッテへ来る前よりずっと良い顔してるよ。それだけで来た意味はあったんじゃないかな」


「…ま、そうだな」


ニヤッと歯を見せてアカマルはこちらへと近付いてくる。そして私とリィちゃんを小脇に抱えてその場を走り回った。


「こうして元気になったんだもんな〜!その為にわざわざムッテへ来てくれてありがとうな、二人共」


「元気になってくれて良かったよ。これからもよろしくね、アカマル」


「おう!本当の意味で仲間になったんだ、これから任せておきな!」


そうしてはしゃいでいたアカマルだったが、彼女は突然ピタリと動きを止める。どうしたのかと思い彼女の顔を覗き込むと、彼女は何かを思案するような表情を浮かべていた。


「どうしたの?」


「少しな、先の事を考えてた」


「先の事?」


アカマルは私達の事を床に下ろした。


「今回、逆さの砂時計を求めて潜入していたのは私達だけじゃなかった。メアリーとロナウドと呼ばれていた人物、その二人も逆さの砂時計を狙ってたんだ」


「…うん。アガリさんとタクさんからロナウドさんがそうだって事は聞いたよ」


「メアリーとロナウド、本名はスイミとセクシー。奴らの目的は『魔族の帝国を作る事』と言っていた。そして、キャロを攫い私達に殺害予告をしてきたのも奴らだろう。セクシーの奴が私達のうちの誰かを見つけ次第殺す事は許可されていると言ってたからな」


「でもさ…それって向こうは最初から私達の存在を認知してたって事になるよね」


「そうだな、間違いなく奴らは私達の存在を知っていた。けど私は奴らの存在を今まで知らなかった」


アカマルは黙っていたリィちゃんの方を向く。


「王であるお前なら何か心当たりがあるんじゃないのか?」


「…残念だけど、心当たりが多すぎる」


「多すぎる…?」


「まだ私とプラントの二人で行動していた頃、色んな人を敵に回してたから。魔族の国という基盤を整える為に逃亡生活をしながら国の創立に必要な物を盗んでた時期があるの。多分、因縁が生まれたとするならそのタイミング」


「てなるとプラントに聞いても無駄そうだな。奴らの国、確かネバーランドと言ったか。私達と同じく魔族の国を作るという目標を掲げているが、明らかに敵対している。つまり私達とは目的が違うってこった。まぁ何にせよ、良い予感はしねぇよな」


「んー…」


そうして悩む二人に、私は自身の抱いていた疑問を投げかけた。


「あのさ、私を連れ去ったのは帝国を作るのが目的で、尚且つリィちゃんとアカマルを誘き出そうとしてたスイミさんだよね?」


「そうなるな」


「で、当の私はシラツラさんに助けられて自由の身になった。そして今現在シークイさんが何をしているのかの調査を任せられて、リィちゃんと合流した」


「アカマルに襲われてるの見た時ビックリした」


「…シラツラさんの行動について、どう思う?」


私の言葉にリィちゃんはキョトンとする。


「別におかしい事無いんじゃない?幽霊っていうのは活動範囲が決まってる。シラツラは自分の死んだ部屋の地縛霊であって、復讐を目的としたシークイは校舎そのものの地縛霊となった。ウェルマルも先生としてシークイと同じく学校の地縛霊となっている。つまり、部屋から出れないシラツラがキャロに情報を集めさせるのは何も間違ってない」


「もしシラツラさんが自由に部屋から出られるなら自力でシークイさんの事について調べてる筈だもんね。だから本当にシラツラさんはあの部屋から出られない筈なんだよ」


「何が言いたいの?」


「…私がシラツラさんに助けられたなら、スイミさんはわざわざ私を連れてあの部屋に向かったって事だよね?」


リィちゃんはハッとしたように口を僅かに開き、少し考えた。


「キャロの隠し場所に困ってた、とも考えられるけどよりにもよってシラツラ部屋を選んでしまったのはたまたまで片付けちゃいけないかもね。あの二人は生徒として学校を過ごしてたんだからシラツラの存在を既に知っていた可能性はある」


「やっぱりリィちゃんもそう思うよね。でも、肝心の理由が分からない。何でシラツラさんの元に私を連れて行ったのか、『どうして私だったのか』」


「んー…現時点で答えを出すにはネバーランドの住人達に関する情報が少なすぎる。奴らの次の動きを待つしかない」


「だねぇ」


そうして話に一区切り付くと同時に、私は気付いた。真面目な話をする私達の横でアカマルが目をぱちくりとさせていた事に。


「何か…私が暴走している間に色々あったんだな。割と大事な話を聞きそびれてる気がしてならないぜ…」


「どの道今回の事は皆んなと共有しなきゃいけない。だから国に帰ったら紙芝居でも披露する」


「本当か!?やったー!」


「何でわざわざ紙芝居…?」


こほんと小さく咳をし、リィちゃんは私達二人の顔をじっくり見比べた。


「それじゃあ現時点で話せる事は話し終わった所で休憩。といきたいけど最後に一つ大きな議題が残ってる」


「大きな議題…?」


「そう。これだけはどうしても外しちゃいけない、絶対に話さなきゃいけない」


「何だよ。勿体ぶらずに早く言えよ…!」


緊迫する空気感。私とアカマルが固唾を飲み込み、リィちゃんが頬から汗を流す。まるでこれから死の宣告を受けるかのような重々しい空気感の中、リィちゃんは口を開いた。


「帝国、ネバーランド」


「………」


「私達もさ、対抗して自分達の国にかっこいい名前付けたいよね」

今まで頑なに魔族の国と言っていましたが、ようやく名前が決まりそうです。

そして…投稿頻度が落ちてきています。私生活が忙しいのもありますが、少しばかりスランプな時期になっております。普段読んで下さってる方々にご迷惑をお掛けしております。またそのうち沢山書けるようになると思いますので、その時までどうぞよろしくお願い致します。

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