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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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人間失格

「…何やってるの」


グレーさんと別れ、再び人型に戻れる程体力が戻ってきた私はウニストスの何処かに居る筈の連れを探していた。恐らく、彼はオーガと交戦している筈。つまり戦いの痕跡がある筈だ。そう思いながら校庭まで真面目に探していた私だったのだが…


あろう事か、目の前の馬鹿ゴリラは半裸で屈みながら手で自分の身体を摩っていた。先程までグレーさんと真面目な話をしていたのにも関わらずセンチメンタルな気持ちが壊された気分だ。


「オウ!スイミじャねェカ!」


「…オーガは?」


「それがよォ…凍らされたんだヨ!運動したから筋肉に熱が溜まッて解凍されたが、寒ィ!」


「はぁ…つまり逃げられたのね。しょうがない、炎魔法で温めてあげるから早く服着て」


「オイオイ…何で俺様が服を脱いで屈んでいるか分からねェのカ?」


「あなたの事を理解しようとした事ないよ」


「俺様が無防備な姿でうずくまる…セクスィだろウ?」


「は?」


「…オマエよ、メアリーの時の良い子チャンキャラは何処行ッたんだヨ」


「知らなーい」


そうしてぷいっと彼から視線を外す。そんな私に、彼は片眉を上げながら聞いてきた。


「そういやオメェ、砂時計持ッてねェのカ?」


「無いよ。よく分かったね」


「通りでジャングル育ちの俺様の鼻が砂時計の匂いを感知しねェ訳ダ」


「…怒らないでよ?砂時計に嫌われちゃって、グレーさんに取られたの」


「嫌われちまッたんじャあ仕方ねェよなァ!ガッハッハッ!」


「全く…二人共しくじるなんて、お馬鹿さんね」


その最後の言葉を発したのは私でもゴリラでもない、第三者であった。私達はいつの間にかそこに居たその人物の方へと目を向ける。


そこに立っていたのは全身から白色の光を放つ、素顔や肌の色さえ分からない程に発光した人であった。彼女の声、そして体格からは彼女が中年女性であろう事だけは分かる。


「オッ!ビレッジじャねェカ!来てたのカ!」


「帝国、ネバーランドに危機が訪れたのよ。だから同胞である貴方達を回収しに来たって訳」


「危機?」


ビレッジはこくりと頷くと、重々しく言い放った。


「私達の王と騎士団長が接触したわ。だから逆さの砂時計の入手は諦めて加勢しに行きましょう。緊急事態よ」


「騎士団長!?えーっとあの…名前が出てこないけどキザな奴!」


「ホワイト…とかじゃなかったかしら?」


「オイオイ何でオメェら二人共忘れてんダ!シャンだろウ!」


「あ、そうだね。ゴリラの癖によく覚えてるね?」


「アイツは強かッタ。また戦いてェから名前覚えてんダ!」


「今からまた好きなだけ戦えるわ。あの男は私達の中の誰よりも強い、急ぐわよ」


「ウホッ!」


「はーいっ」


こうして、私とゴリラは一年間潜入していたウニストスを後にした。名残惜しくないと言えば、嘘になる。それでも私はやるべき事があるのだ。前を向こう。


「グレーさん。生徒会の皆んな。またねっ」


〜〜〜〜〜〜〜


「ふぅ…」


息を吐きながら私はその場に座り込む。周りを見てみれば気絶して倒れ込む生徒達が山のように積み上がっている。このバイオレンスな状態は私達の頑張りそのものだ。


そして共に戦った相棒、リィちゃんが隣に座る。


「終わったね、キャロ」


「うん。さっき、生徒さん達の中から景色虫がぞろぞろと湧いて集団で何処かへ去って行った。…多分本体に何かあったって事だよ」


「はぁ…疲れた。若くても魔法を習っている魔法使い達を複数人相手によく頑張った私達」


そう言うと彼女はゴロンと大の字に倒れ込む。そうして安心しきった顔の彼女を、私は真剣な眼差しで眺めていた。


「どうしたの?」


「…さっき聞きそびれた事、聞いてもいい?」


「………」


「リィちゃんは本当に人間なの?今はいつもの姿に戻ってるけど…さっきまでの鱗が生えた姿は何?」


リィちゃんはふぅとため息をついた。


「私は人間。あれはそういう体質なんだ」


「体質って…」


「…私は昔、魔族を食べた」


「え…?」


「普通は魔族を食べたからって何か変わる訳でもない。けど、あの時は特殊な状況だったから」


「何があったか、聞かせてくれる?」


「…私にとっても辛い出来事だったから話したくない。けど約束する。いつか、必ず話すから」


「分かった。約束ね」


私とリィちゃんは約束の印として互いの小指を絡ませた。彼女が話したくないのなら無理強いはしない。きっと、彼女にも深い事情があるのだ。私だって故郷の話を無闇矢鱈に掘り起こされたくはない、彼女の気持ちは分かる。


だがリィちゃんは心配そうな顔をした。


「私はキャロを騙してた訳じゃない。それだけは信じて」


「信じるよ。だって私達、友達でしょ?」


「………」


リィちゃんは目を逸らした。


「私もキャロの事は大切な友達だと思ってる。これからも仲良くしたいって気持ちもある。…けど、もし私に何かが起きたらキャロ、その時は私の事を見放して」


「どういう意味…?」


「…魔族を食べた以上、魔族となる条件である清澄の魔石を体内に摂取している事になる。今はまだ人間だけど、もしかしたら私はそのうち本当に人間じゃなくなるかもしれない」


「でも…そうなったとしてもリィちゃんは友達だよ。アカマルやグロテスクさん、プラントさんにプルアさん、クマさんとゲンキさんと同じになっただけじゃない」


「本当に同じかな」


「え?」


リィちゃんは自身の掌を見た。その目は遠い昔を思い返しているかのような、何かを噛み潰しているかのような苦い表情であった。


「キャロは闇魔法についてどれくらい知ってる?」


「ううん。あんまり」


「闇魔法は使い手の少ない特殊な魔法。その分効果は絶大で、私の魔法はまだまだ未熟だけど鍛え上げればとてつもない武力となる」


「リィちゃんの魔法を初めて見た時、少し怖いって感じた。多分…闇の恐ろしさの片鱗を見たからなんだろうね」


「そう、闇は恐ろしい。しかしその力は何故だか歴史的な犯罪者にしか扱えなかった。国家転覆を狙った人、大量無差別殺人鬼、国を滅ぼした詐欺師。色んな闇魔法の使い手が居た中で、ろくな存在は居なかった」


「でもリィちゃんは…」


「立場上確かに人間の敵ではあるけど、私は自分の信念に逆らうような事はしなかった。けどもし、私が私じゃなくなったら、その時はキャロが…」


彼女がそこまで言った時、私の身体は自然に彼女の事を抱き締めていた。リィちゃんが驚いて目をぱちくりとさせる中、私はいつになく真剣な声で言った。


「どうなったって、リィちゃんは私の大切なお友達だよ」


「………」


「友達が皆んな死んじゃって辛かった時…他の皆んなの影響もあるけど、リィちゃんと友達になれた事で凄く軽くなったんだ。リィちゃんと一緒に居ると楽しい。リィちゃんと一緒に居ると落ち着く。…リィちゃんの心が乱れた時、その時は私が助けてもらったお返しとしてリィちゃんに寄り添うから」


「キャロ…」


リィちゃんは目を細め、私の事をぎゅっと抱き締めた。


「結婚しよう…」


「リィちゃん!?」


「はっ…ごめん。今のは忘れて」


「いや忘れてって言われても…」


「忘れないわよ☆」


最後のその声、それは私達の声ではなかった。その声がした方を動揺しながら二人で見ると、そこには数人の生徒達が立っていた。シズカさん、アガリさん、タクさん、テンメイさん。…そして、声の主であるグレーさん。


そんなグレーさんはニマニマしながらこちらへ駆け寄り、顔を近づけてきた。


「聞いたからね!二人共結婚するって聞いたからね!けど子供同士の結婚の場合保護者が必要なの!だから保護者としてこの私が貴女達と一緒に同じ屋根の下で暮らすわ!」


「お、落ち着いて…!それにそもそも庶民の子供の結婚は法律で禁じられてる筈で…」


「じゃあ誰にもバレずにひっそりと結婚しちゃえばいいわ!そうと決まれば一緒に…!」


「ぐ、グレーさん」


「はぁっ…!はぁっ…!ぐふふふ…」


「いい加減にしろ」


ぽかんと後頭部を叩かれ、グレーさんはぐったりと力尽きる。そんなグレーさんを片手で抱えながら叩いた本人であるアガリさんはこちらに頭を下げた。


「すまない、副会長からは俺の方から言っておく。怖い思いをさせたな」


「だ、大丈夫です。ありがとうございました」


「そしてもう一つ…謝らねばならない事がある」


彼がそう言うと、気まずい顔をしながらタクさんがこちらの方へと歩み寄ってくる。そしてアガリさんと同様に彼も頭を下げた。


「生徒会という模範となるべき立場の人間が、己の欲望に負けて仲間と子供に襲い掛かるなんて、人間として恥ずべきだ。…それに、シラツラとシークイの件も全面的に俺の責任だ。謝ってどうにかなる事じゃあないが、本当にすまなかった」


「タクが代弁してくれたが、気持ちの上では俺も同じだ。何か償いが出来るなら何でも言ってくれ」


「償いなんて良いですよ。二人共寄生されていたんだし…」


私がそう言うと、アガリさんとタクさんはちらりとシズカさんの方を見た。そして小声で話し始める。


「けどさ、同じく寄生されてる筈のシズカさんが無事だったのがな…」


「うむ…やはり会長は偉大だ。俺達のような一生徒とは違い、煩悩というものを完全に消している」


「アガリ、お前は鈍いな」


「む?」


「シズカさんとグレーさんは仲良いだろ?…つまり、そういう事なんだよ」


「あぁ…まぁ、確かに納得だな」


互いにうんうんと頷き合う二人に、リィちゃんが割って入った。そんなリィちゃんの視線の先には壁によりかかって自分の前髪を弄るテンメイさんの姿がある。


「そんな事よりあっちの奴からの謝罪が無いんだけど」


「…テンメイは良くも悪くも自由人だ。恐らく謝罪という概念を持ち合わせていない」


「人間失格だよ」


「俺の方から代わりに謝らせてもらう。すまん」


真面目なアガリさんは大変だなぁと愛想笑いを浮かべていると、私はふとある事を思い出した。


「そういえば…アカマルとウェルフルさん、どうなったんだろ」


きっと、上手くいった筈だ。そんな期待を胸に、私は窓から朝日に照らされた外を眺めた。

子供大好き副会長、メアリー大好きタクアガリ、全員私の事好きになれ派のメアリー、そして会長。

犯罪者予備軍や修羅場が巻き起こっている中、シズカさんは唯一の癒しとなっています。

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