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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
74/123

○○しないと出られない部屋

「…メアリー、やっぱりここに居たのね」


赤と黄色を起点とした月明かりを通す円形のステンドグラス。そのステンドグラスを背に佇む老人を模した古びた石像。そして部屋中に並ぶベンチではなく、石像の元にある祭壇にて祈りを捧げる一人の少女。


彼女は閉じていた瞳をゆっくりと開き、たった一人部屋に入って来た私に目を向けた。


「グレーさん。よく私の居場所が分かったね」


「貴女はよくここへ来ていたから、きっとそうだと思って。メアリーに心酔している生徒達がこの付近に集まっていたのを見て予想が確信に変わったの」


メアリーは目を細め、息を吐きながら言う。


「グレーさんは、この部屋が何の部屋か分かる?」


「…ここは神様に祈りを捧げる部屋でしょ。言うなれば、校内にある教会だわ」


「そう、その通り」


彼女は絡ませていた指を解き、まるで天からの施しを受けているかのように両手を空に向けて広げた。


「神様が四つの精霊を生み、精霊達がこの世界を作った。人の生活を豊かにする精霊、シュトラール。人の繁栄を司る精霊、アフロディーテ。人を危険から守る精霊、ブリック。人を望んだ姿へと変える精霊、ミィ。彼らは人にとっての神様だけど、彼らを信仰する事は許されてない。だから教会は精霊を生み出した神様へ祈りを捧げる為の場所」


「………」


「けど、私は神様なんかに祈りを捧げちゃいない。昔から私が唯一崇めているのは精霊ミィだけなんだ。私は可愛くなりたい、美しくなりたい。だから、祈る。世界中の全ての生物から見られるような、そんな生物になりたい」


「…教えて。メアリーの目的って何?」


「言ったでしょ?私は全ての存在を魅力したいんだよ。そしてそれを叶えてくれるのが、魔族の帝国。報われない魔族達の願いを叶える為の国に、私達は『ネバーランド』という名を付けた」


「その目的の為なら、周りの人を利用しても良いって言うの?」


「しょうがないよ、願いを叶える為だもん。それにどの道私以外のネバーランドの住人に人間は殺されちゃうんだ。なら気遣ったって意味は無いよね」


「私はメアリーの事を友達だと思ってた。けどそれは、私だけだったの?」


「そう。逆さの砂時計という魔法増幅装置を得る事によって、ネバーランドは武力を得る事が出来る。私はその為に見た目が好みだったメアリーという生徒に成り代わり、生徒会に入る事で信用を得て情報を集めていたの。…まさか、ウェルフル先生があんなに簡単に会長さん達に情報を与えるなんて思わなかったけどね」


私は自身の腕をぷるぷると震わせながら祭壇に立つメアリーの事を睨み付けた。しかし、全身を襲う脱力感に握っていた拳は開き、私は目線をメアリーから落とす事となる。


「馬鹿だよね。私は今も、メアリーの事を大切な友人として見ている。メアリーは私達の事なんかどうでも良かったっていうのに」


「ま、ただの友達ごっこだったけど中々楽しませてもらったよっ。ありがとねっ」


「なら戻っておいでよ…!いい加減、自分で決断してよ…」


まるで意味が分からないと言わんばかりにメアリーは怪訝な表情を浮かべた。私は少し湿った瞳でそんな彼女の目の奥を見つめる。


「メアリー、貴女は狂ってるんだよ」


「随分と直球な悪口だねぇ?」


「メアリー…景色虫の魔族なんだよね?よくメアリーの周りに景色虫が居たから、薄々勘づいてた」


「ふーん…鈍そうなグレーさんが…」


「景色虫ってさ…天敵である鳥から身を守る為に体色を変えて擬態するんだよ。本来、目立つ事を好まない穏やかな虫なんだ」


「そんな中、私は唯一自分の魅力に気付いてたんだよっ。だから世界一可愛い人気者になろうとしたんだぁ〜」


「違うよね…?」


「………」


「『虹虫』っていう寄生虫がいてさ…虹虫は鳥の体内にある養分を吸い付くし、そこで産卵をするんだ。そしてそんな鳥の体内へ行く為の手段として、虹虫は自分より大きい景色虫へと寄生する」


「…へぇ、そうなんだね」


「しらばっくれないでよ…!虹虫は景色虫の身体を操って、派手で目立つような色へと変色させる。そしてそれを景色虫の天敵である鳥が襲うのを待ち、そのまま景色虫ごと食される事で鳥の体内へと寄生するんだ…!」


「で、何が言いたいのかな?」


「メアリーが皆んなの視線を独占したいのは決して容姿に自信があるからでも、愛されたいからでもない。虹虫に寄生されてるから…本能が狂わされてるんだよ…!」


「………」


私の言葉に、メアリーは俯く。彼女の桃色の前髪が邪魔をして彼女が今どんな表情を浮かべているのかは分からない。だが唯一見えるその口元からは先程までの薄ら笑いが消えており、彼女は小さくその口を動かす。


「…五月蝿いよグレーさん。私は皆んなの人気者になるの。今更何をピーチクパーチク言ったって、私のその意思は変わらない」


「それは貴女の意思じゃないでしょ…!?」


「私って何だよもう…!」


ギリッという歯を食いしばる音がしたと同時に、彼女は私に掌を向けた。


「分からないよ!ただ『見られたい』って気持ちが溢れて止まらないんだよ…!どんな理屈を並べたって、その気持ちはもう変わらないんだよ!」


「メアリー…」


「このたった一つの想いが私を魔族に変えたんだよ。想いが私になったんだ!だからそれを否定するなら、グレーさんも掌をこっちに向けてよ。私達は人間と魔族なんだからさ!」


「………」


「さぁ!来いよグレーさん!!!」


私の中には迷いがあった。正直、分かっていたのだ。説得や友情なんかじゃ彼女は変わらない。人が呼吸をするのを止められないように、彼女に上書きされた『食べられる為の本能』は誰にも変えられないのだ。彼女はもう救えないと、知っていた筈だった。


それなのに…私の中には妙な安らぎがあった。私は静かに彼女を見つめると、身体が動くままに口を動かした。


「人間と魔族って、何?」


「…何言ってるの?」


「私はメアリーの事を尊敬出来る。世の中には自分の息子を部屋に閉じ込めるような親も居る訳でさ。そんな中、メアリーは賢くて、努力家で、意外と気配りも出来てさ。私なんかよりも余っ程女の子らしくて、いつも『少しは見習うべきかもな』って思ってたよ」


「でも残念。そんな私は魔族でした〜」


「そう。私は魔族であるメアリーを人間として尊敬してた。そしてその気持ちは変わらない。何でか分かる?」


「………」


「たとえ根本から相容れなくてもさ…メアリーは私の大事な、お友達なの」


「何度も言わせないでよ。そう思ってるのはグレーさんだけだって…」


「何度言われても分からない。だからメアリー、一緒に確かめよう」


「………」


「私と戦おう。誰かを演じるでもなく、本気で…メアリーの全てをさらけ出して」


「…っ!」


彼女は苛立ったように強く歯を食いしばり、目を見開いて叫んだ。


「『テンタコル!!!』」


彼女がそう言うと、私の四肢はグイッと外側へと引っ張られる。私の身体を引っ張るそれは力こそ並程度だが、ヌルヌルとした感触のせいで振りほどこうにも力が上手く入らない。その感触と見た目。それはどこからどう見ても触手であった。


そんな自分の生み出した触手を見ながらメアリーは溜め息をつく。


「可愛くないよね。こんな気持ち悪い魔法使っちゃってさ」


「そう?趣味とその人の可愛さは別じゃない?」


「別に触手趣味って訳じゃないですけど」


「メアリーと私を比べるのはお門違いかもしれないけど、それで言ったら私だって子供が大好きよ。そんな私にいつも言ってた言葉、あるでしょ?」


「…グレーさん、気持ち悪い」


「そう。そんな気持ち悪い私と友達になってくれたじゃない。だから別にメアリーがどんな魔法を使おうが気にしないわよ。…ごめん、ちょっと自虐が響いちゃったから待って」


「だから友達じゃないって言ってるでしょうが…!」


メアリーは指先をこちらへ向ける。


「その口を閉ざしてあげますよ。『ラブスウィートアタック』」


そう言うと、彼女の指先からは心臓の形をした光がこちらに向かって放たれた。


対する私は触手により身体を上手く動かせない状態。そんな窮地の中、私は咄嗟に叫んだ。


「『ヘヴンズフレア!』」


両手から放たれる白い炎により腕を拘束していた触手は瞬時に燃え尽きる。そして両手が自由となった私は目の前の心臓へと向けて魔法を放った。


「『ヘルフレイム!』」


黒い炎と心臓型の光はぶつかり合い、火花を散らしながら両者とも消滅する形となった。私はその間足に巻き付く触手達にも炎を放ち自由の身となる。


その光景に、メアリーは目を細めた。


「グレーさんって本当に炎が好きですねぇ」


「お兄ちゃんの得意魔法が炎魔法だったんだよ。そんなお兄ちゃんに憧れて、私は炎でお兄ちゃんを超えると誓ったんだ。お兄ちゃんは騎士として何千もの命を救ってるから、私はお兄ちゃんよりもっと多くの人を助けたいと思って」


「なら、私との戦いは騎士としての第一歩という訳ですね。魔族を殺さないと、騎士にはなれませんから」


「そうね。騎士への第一歩として先ずは目の前の親友を救う」


「…本当に話が通じないですね、グレーさんは」


メアリーは深い溜め息をつき、右腕を天へと掲げた。するとその瞬間、いつの間にか彼女の手にはある物が握られていた。金と銀の装飾の中にある輝く硝子と、真っ黒な砂。その異質な空気感を放つそれこそが、『逆さの砂時計』だと私は感じ取った。


「ここからが本番ですよ、グレーさん。この砂時計によって私の魔法は強化される。正直、グレーさん程度じゃ手も足も出ないと思います」


「言うじゃないの。何でも来なさい!」


「それじゃあ、グレーさん…」


メアリーは名残惜しそうに、笑った。


「さよなら」


次の瞬間、私の身体は宙へと放り出された。何か衝撃が加わった訳でもなく、突然ふわりと浮いたのだ。そしてそんな私は前後、上下、左右から透明な壁が近付いて来ている事に気づく。その透明な壁はゆっくりと私に近付き、箱のような形になると動きを止めた。早い話、私は透明な箱の中に閉じ込められてしまったのだ。


手でコンコンと強度を確かめる私に、メアリーは言う。


「この魔法の名前は『ルーム』。何をしても絶対に脱出出来ない部屋に相手を閉じ込める魔法です」


「…確かにそうみたいね。このままじゃいずれ酸素が尽きて死ぬわ」


「でも、たった一つだけその部屋から脱出する方法がある。…それは、私の設定した条件をクリアする事」


「条件?」


「例えば腹筋しないと出られないだとか、私を褒めないと出られないとか、そういうルールを私が設定出来るの」


「なるほど…それで私は何をすればいいの?」


「簡単よ。その条件、つまりその部屋は…」


メアリーはニコッと笑う。


「『死なないと出られない部屋』」

タイトルで困惑した人もきっと多いでしょう。これは作者が性癖を出してきた訳ではなく、ある事情があって事です。

使った魔法はまだ少ないですが、スイミの扱う魔法にはテーマがあります。そのテーマとは『肉体的な愛』。察しの良い方は察しているとは思いますが、彼女は何処かで見たような魔法を使います。今回で言うと例の部屋や、触手ものですね。次回以降も色々出てきます。

求められたい。見てもらいたい。そんな一方通行の愛しか知らないスイミは真実の愛が何なのかを知りません。だからこそ、自分の知る歪な愛の形が魔法にも反映されている訳です。

…それと、タイトルの意味が分からなかった人は絶対にこのタイトルで検索しないでください。お願いします。

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