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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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パワー

「ンゴォ!!!」


妙な叫び声をあげながらセクシーは地面を転がる。そして立ち上がった所に、追い打ちとして私による蹴りが入れられた。そんな状況が続き、彼はまるでお手玉のように一方的に攻撃されていた。


そして、私はふらふらとよろける彼の腹に拳をめり込ませる。その結果彼は後方へと吹き飛び、私の魔法によって半壊したウニストスの校舎に叩き付けられた。


瓦礫の中から立ち上がり、彼は息を荒らげながら言う。


「流石だナ…!さッきと同一人物とは思えねェ…!」


「あぁ…さっきとは別人だからな」


「ン…?」


「私はウェルフルでもケイトでもない。ウェルフルの強さ、そしてケイトの魔法を受け継いだ存在。アカマルだ」


「ヒヒッ…そうかァ…!」


「お前程度じゃ勝てねぇぜ。どうする?」


その言葉に、セクシーはニヤッと笑みを浮かべた。


「俺様が勝てなイ?そいつァどうかナ?」


「あ?どういう事だよ」


「確かに鬼の力に加え、身体能力を向上させる魔法を使ったお前は俺様より強イ。だが、お前は時間と共に鬼の力を失ッてるんだロ?」


「………」


「つまりダ。お前のそのパワーも長続きはしねェなァ?」


「で、お前はそれまで時間稼ぎでもするつもりか?」


「とんでもねェ。お前のそのパワーが消える前に、俺様がぶッ潰してやるッつう話ダ。全力の相手と戦わねェと勿体ねェだロ!?」


「お前は私より弱い。さっきそう言ったばかりだろうが」


「パワーはナ?けどよ、戦いはパワーだけで決まるもんじャねェんだゼ。俺様は魔法は使えない。となるとパワー以外に残されているものハ…」


「…頭脳戦に持ち込む気か」


「違ウ」


セクシーは口角を上げると、自身の左手を自分の後頭部に当てる。その行動に意味が分からず立ち尽くしていると、彼は更なる行動をした。内股となった後に腰をクイッと曲げ、その腰に自分の右手を添えたのだ。そして気色の悪いウィンクをすると彼は顎を上げて言った。


「俺様の魅力…そう、セクスィー」


「お前は一度魅力という言葉を辞書で引き直してこい」


「フッ、俺様には分かるゼ?お前…口では強がッてはいるが動揺しているナ?」


「あぁ、正解だ。今お前に対するあまりの嫌悪感に自分でも驚くぐらい動揺しているぜ」


「つまりダ。お前は俺の肉体に夢中になっていたという事ダ」


「お前な…言っとくが私はお前の肉体になんか興味は…」


「分かりやすく言うならば『目線誘導されていた』という事ダ」


その言葉の意味に私は目を丸くした。確かに彼の言う通り私は彼の突拍子もないふざけた行動に釘付けとなっていた。だがもし、それが彼の作戦ならば…


そう思った瞬間、私の首に刃物が刺さった。切り裂くような痛みと出血に訳が分からずにいるとふと視線にある物が映る。


「…それが狙いか」


私の視線に映った物、それはセクシーの足の指だ。ゴリラらしく太い五本ずつの指だが…よく見てみれば左足の親指の爪だけ短い、しかも乱暴に剥がしたような痕跡が残っている。先程内股になったのはもう一つの足で指を剥がす為だったのだ。そして彼はその剥がした爪を足指で弾き、私の首にその爪を刺したのだ。


ただの爪。しかし勢いと速度の乗った硬い爪は私の喉元に深く突き刺さる。呼吸に違和感を感じ始め焦り始めた時であった。


いつの間にか接近していたセクシーは、私の顔に拳を振るっていた。


「ずゥッと殴られてたけどよ、今度は俺様のパワーも味わッてくれよハニー♡」


「…っ!」


頭蓋骨にヒビが入り、脳が揺れるような圧倒的な一撃。いくらステップアップの魔法で身体能力を向上させていると言ってもあの丸太のような腕から繰り出されるこの拳を素の状態で耐え切るのは難しかった。


意識が飛ぶ中、私はいつの間にかかなり距離のある校庭にあった石像へと叩き付けられていた。目の前には私の作ったクレーター、そしてそれの向こう側に立つセクシーの姿がある。


「やべぇなあの力…油断してたら力が切れるより先に死ぬぞこりゃ…」


衝撃に視界がぼやける中、私はセクシーの次の行動を待っていた。しかし彼は変わらずに仁王立ちをしている。何をしているのだと揺れる視線で彼をよく観察した時、私は気付いてしまった。


「何だありゃ…!?パンチの衝撃と距離のせいで気付かなかったが、あれは土で作った人形じゃねぇか…!」


「俺様の母なる大地と酷似した茶色の毛、そしてこの女子力溢れるしなやかな指先と力仕事をこなす腕力。それぐらいありャあ適当に土人形を一瞬で作るぐらい楽勝ダ」


「む!?」


その彼の言葉はどの方向でもない、下から聞こえた。嫌な予感に身構えていると地面の中から勢い良く一匹のゴリラが石油の如く湧いて出て来る。何と彼は一瞬で土人形を作った後に土に潜り、そのまま地中を泳いでここまでやって来たのだ。その奇想天外な行動に私は反応が遅れてしまう。


その結果、彼のラリアットを食らって私は地面に倒されてしまう。


「ぐあっ…!」


「戦いに最も必要なのはパワー。そして次に『ペース』だ。相手が格上でも実力が拮抗してりャあ自分のペースに引き込む事で勝機は訪れル。お前は今、普通ならしないであろう俺の行動に焦り、ペースを握られているのダ」


「確かに普通は戦ってる最中に気持ち悪ぃセクシーポーズや土遊びなんかしねぇよな…!そりゃ焦るに決まってら…!」


「さァ、早くこの俺様をどうにかしてみロ!さもなければ時間切れになッてしまうゾ!」


「ふざけやがって…!今に見てろよ筋肉野郎…!」


しかし、そうは言ってもこの状況はまずい。いくら素の力は私が勝っていると言っても、体制によって引き出せる力には限界があるのだ。しっかりと腰を落とさないと良い拳が出ないのと同じように、地面に倒れている状態じゃ立っているアイツと比べて十分な力が出せないであろう。かと言って立とうとすればセクシーに妨害されるのが目に見えている。


それを理解しているからこそ、彼は強気に両手を乱暴に私へと叩き付けた。


「マウントを取られたナ!ドラァ!オラァ!」


「なんつー馬鹿力だ…!骨が折れちまう…!」


「さァ!さァ!さァ!早く何とかしねェと死ぬゾ!」


腕で必死にガードするが、それでも彼の拳を受け切る事は出来ない。彼から放たれる重い衝撃に耐えれず、私は両手を力無く地面へと落としてしまった。そしてそれを見逃さないと言わんばかりに無防備となった私の身体に彼は猛攻を仕掛ける。


全身に打撃を受け、一撃を食らう度に意識が遠のいていく。今、私の身体に無事な骨は何本残っているであろう。今、果たして私の内蔵はちゃんと機能しているのだろうか。そんな中ただただしっかりと働く痛覚に私は顔を歪める。


「イヒッ!どうしたァ!?まだ終わりじャねェだろウ!!!」


「…ったりめぇだろ」


「オ!?」


「こんな所で終わってられるかってんだよ…!」


「どうする気ダ!?」


「言っただろうが。私の得意技は…魔法だ!!!」


私は両手の掌を地面に向け、裂けそうな喉を酷使して叫んだ。


「『エルプションボルケーノ!!!』」


「オ…オォ…!?」


地面へと向けられた掌を中心とし、地中にて大爆発が起きた。その結果地面をも空へと吹き飛ばすような衝撃が起き、その勢いで私達二人も空中へと放り出された。自分の身体と共に土や石が空を舞う中、その中から私は一頭のゴリラの姿を見つける。


「形勢逆転だなぁ!セクシー!!!」


「ムッ…!」


「さっきはマウントを取られていたが…今度の条件は対等だァ!純粋な力比べと洒落こもうぜ!」


「良いだろウ…来イ!!!」


「行くぜェ!!!」


再び生み出した炎の爆発によりセクシーへと近付くと、私は拳を握った。それに対し、彼も笑いながら拳を握る。


「最強は…俺様だァ!!!」


その拳圧で辺りの空気や土が全て吹き飛ぶような、恐るべき正拳突き。そんな彼の拳に、私も拳で応える。


二人の拳が合わさった瞬間、とんでもない痺れが腕に伝わる。今まで私はここまで硬いものに触れた事がない。ここまで全力を出し切って何かを殴った事は無い。それはそうだ。今までの弱い私なら、こんな相手に生きて勝てる訳がなかったから。


だが、今は違う。


「お前の力だけの最強はなぁ!ただの二人の小娘の精神を受け継いだ、たった一匹の鬼に敗れるんだよ!」


「…ッ!!!」


力が抜けていくような、そんな感覚だ。自分が信頼しきっている体機能が失われていく嫌な感覚。しかしそれと同時に…どこか懐かしくもあった。あの頃の私に戻っただけ。少しの間だったが…他の人達と同じように、手足を動かせて満足だった。


私は抜けていく最後の力を拳に込め、天に向かって叫ぶ。


「覚えておけ!王者は…この私だァ!!!」


そして…決着はついた。私の力に押されたセクシーはそのまま腕諸共胸に拳を受け、地面へと叩き付けられる。私は彼との力較べに勝利したのだ。だが同時に、私の全身からは力が抜けた。


「…あの時の私に戻っちまったんだな」


大嫌いだった、不便な身体。しかし久しぶりの感覚に何処か安心感すら覚える。私は自分がウェルフルになろうと必死だった。しかし結局私は別人で、何も無いただのケイト。それでも…今は自分が自分である事が何よりも誇らしい。私がウェルフルを騙って彼女の存在を穢すよりかはその方が余っ程良い筈だ。


私は風魔法でふわりと着地をすると、力の抜けたその細い足で何とか体重を支える。あの時と違い、脳が魔族として修復された事により手足は自由に動かせるようにはなった。しかしそれでも運動不足のこの身体ではまだろくに走る事さえ出来ないであろう。


「慣れねぇとな…この身体にも」


そう、独り言を漏らした時であった。私は目の前で蠢く『それ』に目をギョッと丸める。


「良い…パワーだッタ…!最高すぎるぜお前…!」


「嘘…だろ…」


ゴリラの魔獣は真っ赤な瞳を更に輝かせ、仕舞い忘れた舌をぶら下げながらゆっくりと立ち上がる。そしてかつてない程に口角を上げて叫んだ。


「まだまだ戦いはここからだゼ!!!アカマルゥ!!!」

セクシー「俺様の魅力…そう、セクスィー」

アカマル「なんてこった…!あまりにも美しすぎる肉体美…!もうまともに物事を考えられねぇ…!」

セクシー「フッ、俺様には分かるゼ?お前、口では強がッ…え?」

アカマル「やべぇ!あの腹筋から目が離せねぇ!腹筋でクルミ割れそうだ…!」

セクシー「そ、そうだろウ!凄いだろウ!」

アカマル「あぁ!このまま一時間ぐらい見てて良いか!?」

セクシー「…ウン」


こうなっていた場合、制限時間によって鬼としての力を使えず力比べに敗北していました。あの美しい筋肉に魅力されていれば危なかったですね…!マッチョの大男に釘付けにならない方が難しいので高確率でこの展開になってました…!

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