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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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クラスター

「…あ」


「………」


「会長、戻ってきた」


三人が消えて、どれくらい時間が経ったのであろうか。突然部屋の中央が青色に輝いたと思った次の瞬間、光が消えて会長さんが姿を現した。だが共に消えた筈のシラツラさんとシークイさんの姿は何処にもない。


「会長さん、あの二人は…」


私がそう聞くと、会長さんは静かに頷いた。その行動に全てを察した私はそれ以上深掘りせずリィちゃんの方を向く。


「それじゃあ、後は…」


「アカマルだけ」


「そうだね」


そうしてリィちゃんと頷き合った時であった。私はそこで、廊下の方から誰かの足音がする事に気が付いた。その足音の反響はどんどんとこの部屋に近付いており、遂には止まる。


部屋の出入り口の方を振り返ると、そこにはグレーさんが立っていた。


「あ、グレーさ…」


状況を伝える為、グレーさんに駆け寄ろうとした時であった。突然背後から走って来た会長さんが私の事を押し退け、その乱暴な行動に私は尻もちをついた。一体何事かと思い顔を上げると…


会長さんを中心に中規模の爆発が起きた。


「え…?」


爆発に巻き込まれ、会長さんは力無くその場に倒れ込む。理解出来ない状況に困惑していると、倒れた彼を見てグレーさんはくすくす笑った。


「本当に…あなたはグレーさんですか…?」


「のー♡」


ニヤッと笑ったグレーさんの顔は崩れた。いや違う、顔のパーツがそれぞれ色を変えながら蠢いているのだ。その気味の悪い光景を前に私は固唾を飲み込む。


「なんでバレちゃったのかなー。シズカさん、グレーさんとの歴が長いからかなぁ」


最初はグレーさんのものだったその声も、段々と甘ったるく高い声に変化していく。そしてモゾモゾとまるで虫の塊かのように蠢くその頭はついに、あるべき形となった。


そこに立っていたのはグレーさんなんかではなく、桃色のツインテールをした可愛らしい女子生徒だった。彼女はぱっちりとした目で私の事を見つめ、余裕そうに笑みを浮かべている。


「皆んなの可愛い可愛いお姫様、メアリーちゃんだよ〜♡」


「メアリーさん…?」


『それがなァ…すっかり見当たらねェのヨ。メアリー、タク、テンメイの三人は一緒に行動している筈だガ…』


私はロナウドさんが言っていた言葉を思い出す。メアリーさんというのは皆んなと行動を共にしていた仲間だと、そう認識していた。その筈なのに…会長さんに危害を加えても尚楽しそうにしている彼女の姿はとても仲間のそれには見えなかった。


彼女は相変わらずの笑顔で話す。


「いや、もうメアリーって名乗る必要もないよねっ」


「あなたは…何者なんですか…?」


「私はね〜」


その瞬間、メアリーさんの片腕が崩れた。そしてその崩れ方に既視感のあった私は直ぐに理解した。そう、その崩れ方はタクさんの時と同じ。彼女の身体は複数の景色虫で構成されているのだ。


彼女は光を失った目をする。


「私は魔族となった景色虫、種族名はクラスター。名前はスイミちゃんだよっ♡」


「魔族…!それに景色虫って事は私を連れ去ったのも、タクさんの半身を消したのも…!」


「そう!でもさぁ〜、タクくんに関しては彼が悪いんだよ?私が可愛くダンスしてるのに、タクったら情報をグレーさん達に伝える事に必死なんだから。こっちを振り向いて欲しくて、景色虫達に半分食べさせんだよ〜」


「…言いたい事は沢山あるよ。でもその前に…目的は何?」


「目的ねぇ、実はもう達成しちゃったんだよねぇ」


スイミさんは悪い笑みを浮かべ、左腕を前に突き出した。そこで私は初めて、彼女が何かを持っていた事に気付く。金と銀で作られた土台、虹色に輝く硝子、炭のような色をした硝子の中の砂。その異質な雰囲気の砂時計に、私は目を見開いた。


「まさか…逆さの砂時計…!?」


「いぇぇっす♡」


「それを使って何する気…!?」


スイミさんは可愛らしく首を傾げ、口角を上げた。


「君達と同じだよっ」


「君達…?」


「『私達』の目的は魔族の帝国を作ること」


驚いて目を見開いた私に、彼女は演説を続けた。


「魔族ってのはさ、周知の事実だけど人間より強いんだよ。けど近年の人間は強くてねぇ…魔族は思ったように動けない。そこの…何だっけ、シークイちゃんだっけ?を見たら分かるでしょ。魔族っていうのは願いを叶える為に生まれ変わった、選ばれし者達の事なんだよ」


「………」


「だから私達は帝国を作って、人間に対抗する。帝国は魔族みーんなが願いを叶える場所!ねぇ素敵だと思わない!?」


「…叶えちゃいけない願いだって、ある」


「んー?」


「シークイさんのように…人の命を奪う事を望んでいたら…それも叶えるんですよね…?」


「うんっ!」


「絶対に止める…!」


次の瞬間、私は闇の中に解けた。ナイトステップを使ったのだ。そしてそのまま闇の中を動き、スイミさんの持つ砂時計を奪還しようと彼女の元へと行こうとした時であった。


妖精達から放たれたいくつもの光線が部屋を照らし、闇を消し去った。それにより闇の中から弾かれて姿を現す私の喉元に、小さな私が脅すように掌を向ける。理解が追い付かずに固まっていると、隣に立つリィちゃんの視線がやけに冷たい事に気が付いた。


「リィちゃん…?」


「キャロ、お願いだから死んで」


「どういう事…!?ねぇリィちゃん…!?」


その光景を見て、スイミは楽しそうに笑う。


「その子はね、私の美貌の虜になっちゃったんだよ〜。だから今は私の恋の奴隷ってわけ!」


「そんな筈が…」


そこで私はある事を思い出した。


「そうだ…!タクさんが眼鏡を壊したのは『目』に気を付けろって事…!スイミさんを見たら魅力されてしまうから…!」


「ふーん、タクも面白いヒント与えるね〜」


「でも…じゃあ何で私は正気を保って…」


「………」


「私が他の人と違う事…それはスイミさんに出会ってない事…?」


「君の事連れ去ったのに?」


「…そうか、分かった」


私は目線を動かし、リィちゃんの瞳を見つめた。リィちゃんの目は黒曜石のように美しく、見てて癒される。しかし今は何だかその瞳は心做しか歪んでいるように感じた。


「景色虫だ。景色虫は自分の色を変えられる。それで人の目に張り付き、色を変えて偽の景色を見せてるんだ…!宿主が動く度に自分の色を変えて、気付かれないように…!」


「ま、私は天才だからそんな高等テクニックもちょちょいのちょいなんだよね〜」


「そして…宿主にスイミさんの姿をこの世のものとは思えない程に美しく見せていたんだ!美しい人に惹かれるのは生物としての本能だから…それでずっと寝ていた私は瞼を閉じていたから目に寄生されずに済んだ…!」


「満点!流石だねぇ、よくぞ私のカラクリを見破った!」


スイミさんはニィと不気味な笑みを浮かべた。


「じゃあ、死のっか♡」


私の喉元に向けられていた、妖精の掌が光輝く。それは魔法を放つ前兆だ。この距離で喉に光線を放たれれば、私は間違いなく死ぬ。


死が目前に迫る中、私は自分の掌を床に向けた。


「『ロブ』」


床に放たれた光線は床を破壊し、立ち入り禁止を言い渡される程に古びたこの部屋はその衝撃によって床が完全に崩れてしまった。その結果妖精の放った光線は私にではなく虚空に放たれる事となり、私は瓦礫と共に一つ下の階層へと落ちた。


「ふーん、上手く避けたか。でも逃がさないよ〜?」


「ぐ…」


落下の衝撃で倒れ込む私に、一つ上の階層からスイミさんは人差し指を向けた。恐らく、魔法を使う気だ。急いで起き上がらないとと藻掻く私に、スイミさんは言い放った。


「『ラブスウィートアタック♡』」


彼女がそう唱えた瞬間、彼女の指先から光り輝く何かが発射された。心臓の形をしたその魔法は私を殺そうとすぐそこまで近付いてくる。


だがそんな心臓型の光弾の軌道は突然ぐいっと変わり、壁にぶつかった。その様子にスイミさんは不機嫌そうな顔を浮かべる。


「まだ息があったの」


魔法により軌道を変えたその人物は私の事を抱き抱え、瓦礫を飛び越えながら廊下へと出た。


「会長さん…ありがとうございます」


「………」


一先ず、スイミさんから距離を離す事は出来た。とりあえずこのまま本物のグレーさんと合流し、今起こった出来事を全て話すしかない。そうすればきっと、何かが変わる筈…


そう思っても、どうしても不安が拭えなかった。それはきっと、リィちゃんとアカマルが傍に居ないからだ。

逆さの砂時計を入手する手段をウェルフルが語った時、その場に居たのはシズカ、グレー、リィハー、アガリの四人でした。もしその時、既にリィハーの目に景色虫が寄生していたとしたら?その場合…砂時計の話を聞いたのはその四人だけでなく、スイミにも情報が入っている事となります。

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