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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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尊敬

暗闇に浮かぶ真っ赤な顔。それはまるで狩人のように私達の事を観察し、自由の身となった囚人のような心からの笑みを浮かべ、命を弄ぶようにその黒い巨腕を振り下ろす。あまりにも生物味を感じさせない異質な存在に胸が締め付けられた。


きっと、ここに居る全員が感じ取ったであろう。迫り来る死を。どうしようもない脅威を。重い空気に足が竦み、身体が十分に酸素を受け付けなくなる。


だがそんな状況にてたった一人、その者だけは動いた。


「『ヘヴンズフレア!!!』」


グレーの叫び声が暗闇に響いたと思った瞬間、全身を襲う激痛と共に身体が宙を舞う。そしてそれは私だけではなかったようで、グレーとアガリも別方向へと吹き飛ばされているのが見えた。


あの時、落ちてくる腕を止められないと判断したグレーは私達の足元に向かって魔法を放ったのだ。その結果爆風をモロに食らう事にはなったものの、その反動であの化け物による鉄槌を避ける事には成功した。あの場で唯一グレーが動けたのはきっと、ウェルマルの説教があったからこそだ。


だが、一命を取り留めたとはいえ状況は良くない。この暗闇の中で散り散りになってしまった上、未だにあの化け物に抵抗する方法も分からないのだ。何となく、生物的な本能なのかあの化け物に魔法が通用すると思えないのだ。


「とにかく、合流しないと…」


そう思い、痛みを我慢しながら這いつくばって先へ進もうとした時であった。前方に突然現れた真っ赤な瞳と目が合ってしまう。


「あ、どうも…」


思わず挨拶を交わしてしまうが、そんな事はお構い無しに例の化け物はその口で私の事を捕食しようと喉が見える程に大きく口を開いた。その口が迫る中、私は後方へ飛んでそれを躱す。


「まずい、下がってしまった。ただでさえ暗くて何も見えないのに。これじゃあもっと合流は難しい…」


しかもじりじりと化け物は笑みを浮かべて私の方まで近付いて来る。まるで壁際に追い詰められた鼠のような気分だ。無力な私に迫り来る怪物は殺人鬼のように残忍で、容赦が無かった。


更に後方へ逃げるか?それとも一か八か化け物の隣を通り抜けてみるか?そう頭を回しているうちに、ある笑顔の少女が脳裏に浮かんだ。


「こんな時、キャロだったら…光線を放ったり、闇の中を移動したりして窮地を脱する筈…」


少し、また少しと化け物は私に近付く。そん中私は考える事を止めなかった。


「キャロは凄い。いつの間にかどんどん新しい事が出来るようになって、凄く頼れる存在になって…『二人揃えば不死身だ』って言葉も今じゃ恥ずかしくなる」


すぐ先、あと少しでも踏み込めば私の頭に齧りつけるであろう距離まで来た化け物を前に、ゆっくりと私は瞳を閉じる。


「いい加減私も変わろう。キャロの頼れる、友人として」


身体が求めるままに両手を胸の前へと持っていき、まるで祈るかのように指を組む。化け物の生暖かい吐息が顔に当たる程の至近距離、化け物は観念したように佇む私に口を開いた。


だが次の瞬間、化け物は光に包まれた。光が消えた頃、何が起こったのか理解出来ずに化け物は周りを見渡す。


「『自分が傍に居なくてもリィハーなら大丈夫』ってキャロには思って欲しいから。けど私は弱いから…キャロに倣う。この魔法は彼女への尊敬の証」


そこで化け物は気付いたようだ、自分の身に何が起こったのかを。この暗闇が広がる空間にて…複数の小さな光が点在していた。いや、光を放つ存在と言った方が良いだろう。その少女達は私の決意に呼応するかのようにニヤッと笑う。


まるで妖精のように小さく、二頭身の可愛らしいフォルム。白い髪を伸ばし、白い瞳で化け物を見る。そう、まるで小さくなったキャロのような存在が何人もこの部屋中に散らばっていたのだ。彼女らは皆化け物にぷにぷにの掌を向けている。


そして、その掌からキャロの得意技である光線を放った。至る方向から撃たれる光線に化け物はもどかしそうに藻がいている。


「キャロの使う魔法より威力は劣る。けど、これで十分。私の新しい戦術に火力は求めない」


指をパチンと鳴らすと、最も近くに居たミニキャロが私の隣へとやって来る。そして私の合図と共に化け物の真横へ光線を放った。


そんな光線に、私は飛び込む。


「『ライトステップ』」


キャロが私に初めて見せてくれた魔法、ナイトステップ。その魔法を使ってキャロは私の闇魔法の中を自由に動き回っていた。ならば、私だって彼女の魔法を利用させてもらう。


私は光の中を泳ぎ、キャロの使う魔法のように光の中を自由に動き回る。そして飛び交う光線に足を取られている化け物の向こう側へ、私は移動する事に成功した。


しめたと言わんばかりに私は化け物に背を向けて来た道を走って戻る。


「今のうちにグレーとアガリの元に…」


私は新たなミニキャロを出現させ、光線で道を照らして貰おうと画策する。しかし既に何体ものミニキャロを生み出したからか、魔力が足りない。相変わらず闇の中何も見えないまま私は駆け出した。


だがそんな時、突然目の前に光が生まれた。その小さな蛍のような光は私を何処かへ誘導するかのように何個も整列している。


他に手立ても無い以上、私はそれに従い蛍が導く方へと駆ける。すると突然何者かが私の身体を掴んだ。


「リィハーちゃん!良かった、無事だったんだね!」


「グレー」


「アガリ見てない?何処を探しても居なくて…」


「見てない」


「そっか…会長も消えたし、一体何処に…」


私より脚力の勝るグレーは走る私を抱き抱え、蛍が続く先に向かって走り出す。だがそんな状況にて、私達の後ろには追っ手が来ていた。


二つの大きな腕を動かし、先程の真っ赤な顔は相変わらずの笑みを浮かべながら私達を追いかける。


「グレー!早く!」


「今頑張ってる…!」


グレーは息を切らしながら走る。だがしかし、私より勝っているとはいえ所詮は少女の脚力。追いかけてくる化け物との距離はどんどんと縮まるばかりであった。


「はぁっ…!はぁっ…!」


「グレー!」


「も、もう…!駄目…!足が…」


「頑張って!走り切れたらあざとく甘えてあげる」


「そんな事言っても…限界…!リィハーちゃんは私を置いて先に…」


そう言って、グレーが抱き締める腕の力を弱めようとした瞬間、私達の真横を風が通った。正面から後ろへと流れる風に思わず振り返ると、そこにはグレーのローブを着た一人の男子生徒の後ろ姿があった。


彼は大人と遜色の無い、大柄な人であった。まるで山のような形に尖った茶色の髪。チラっと見えたその横顔からは限界まで開かれた黒い瞳と大きな鼻の穴、ニヤリと歯を見せる余裕ある笑みが写った。


「俺様に任せろォォォ!!!ウォォォ!!!」


野太い声で叫ぶと、彼は迫り来る怪物の腕にパンチを食らわせる。するとただの人間であるにも関わらず彼は互角に化け物と力比べをしていた。そうして化け物を食い止めている彼は私達に向かって言う。


「その光の先が地上ダ!行けェ!」


「あ、ありがとう!」


グレーは再び私を抱き締める腕の力を強め、踏ん張りながら走り続けた。するとやがて差程時間も立たないうちに地上へと繋がる階段まで辿り着く。


「ここを登り着れば…後は…!」


グレーは手摺りの力を借りながら急いで地上まで駆け上がる。そして数分間走ったと思った時、階段の先に光が見えた。


「あそこが…ゴール…!」


「グレーさん!もう少しです!」


光の向こう側から声が聞こえる。その声を糧にし、グレーはひたすら階段を走った。


そして、ついに登り切ったのだ。彼女は辿り着くや否や直ぐに私を抱き締めたまま床に寝っ転がる。


「っぷはぁ!はぁ…やっと…着いた…」


「グレーさん、お疲れ様です。リィハーちゃんもよく頑張ったね」


そう言って倒れる私達に微笑みかける人物、それはメアリーであった。彼女の隣には同じく心配そうにこちらを見つめるタクの姿もある。


「シズカさんとアガリは?」


タクが恐る恐る聞くと、息が途切れてろくに返事が出来ないグレーの代わりに私が答える。


「分からない。はぐれた」


「そうか…落ち着いたら何が起きたか聞かせてくれよ」


「あとついでに、何か突入してきた大きい人。あの人は命を落としたよ」


「何だって…!?」


「おいゴラァ!」


私があっけらかんにそう言うと、怒鳴りながら誰かが階段から上がってくる。その声の主の正体は先程化け物と力比べをしていた彼だ。


「誰が死んだ!?俺様はあんなのに負けねェ!」


「あ、生きてた」


「ったりめぇよォ!俺様の腕力は世界一ィ!あんなんでは死なねェ!」


騒がしい彼に愛想笑いをしながらメアリーは言う。


「彼がウェルフル先生の言っていたロナウドさんです。この学校一番の身体能力の持ち主ですね」


「オウ!よろしくなァ!」


元気良く挨拶をし、彼は私の手をがっちりと掴む。まるでゴリラのように大きくて力強い手だなぁと思っていると知らない声が耳に入ってきた。


「やれやれ…相変わらず君の存在は芸術性に欠ける」


「アァ!?」


声のした方を見ると、廊下で何やら作業をする男子生徒の背中が目に留まる。彼は廊下だというのにイーゼルを立て、持っていた絵の具のパレットで紙に何やら描き込んでいる。まるで女性のように長くウェーブのかかった金髪と赤のベレー帽は何だか気品のようなものを感じさせた。


「えー…彼はテンメイ・フラワーさんです。芸術肌の御方で、魔法の天才とも呼ばれています」


「君達を出口の方へと光で誘導したのもボクだ。感謝したまえ」


「どうも」


「…感謝が足りないな。まぁいい」


それ以上話す素振りも見せず、彼は黙々とスケッチを続ける。マイペースなテンメイに騒がしいロナウド。個性的な助っ人達に囲まれた状況でタクは言った。


「それじゃあもう一度地下に…と言いたいがそれよりも情報だ。グレーさんとリィハーちゃんは地下室で何を見た?」


その疑問に、私はありのまま起こった事を話し始めた。

リィハー「はっ、ミニキャロを無限に生み出せば奴隷として売り込める…?」

メアリー「恐ろしい事言わないでね?倫理観どこ行っちゃったの?」

グレー「私が全員買うわ。破産したって構わない、愛しているもの」

メアリー「副会長はいい加減逮捕されて下さい」

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