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少女は魔族となった  作者: 不定期便
想いが彼女となった
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鬼の如き

目の前を走る、タクと呼ばれる男子生徒の動きが止まる。そして彼に続いていたグレー、アガリ、メアリーの駆け足も止まった。その様子に私は目的地に着いたのだと理解する。


タクが皆んなの顔を恐る恐る見ると、一同は彼に頷いて返す。するとタクも小さく頷き、目の前にある扉を開いた。


扉の向こうには円形の部屋があった。壁を覆うように二段ベッドが並べられ、天井には黄色い光を放つツタのような植物が生えている。部屋の壁が茶色いのも相まって、まるで洞窟の中に居るかのような感覚を覚えた。


そしてそんな部屋の中央に鎮座する、明らかに異質な『それ』を見て私は緊張のあまり唾を飲み込んだ。


黒い鎧を身に纏う、三つの人影。人間より大柄で筋肉質な肉体、猛獣のように鋭く太い牙、憎悪に満ちた表情。それは正しく、鬼そのものであった。それらの鬼達の腹部にはまるで切腹したかのような傷穴がある。


そんな鬼達と、ベッドに寝かされている生徒達の姿を眺めながらグレーは言った。


「鬼か…これはまた強そうね」


グレーが私を降ろして構えると、隣に立つアガリも続けて構えを取った。


「め、メアリー君は下がっていてくれ。ここは俺に任せろ!」


「はーい。タク君、リィハーちゃん。少し下がろ」


メアリーに手を引かれ、私は少し離れた場所へと移動させられる。そんな中グレーはニヤニヤしながらアガリの事を見ていた。


「なぁにぃ?好きな子の前だからって張り切っちゃって〜」


「ばっ…!ば、馬鹿違う!俺は紳士として、女子を下がらせだけでな…」


「私も女子なんだけどー?…まぁ、それはいっか」


グレーはアガリから視線を外し、鬼の方を見る。彼らに向けられた掌は交戦の合図であった。


「副生徒会長、グレー・ボグレーの名において…侵入者を滅します!」


「並びに生徒会役員、アガリも容赦せんっ!」


「『ヘヴンズフレア!』」


彼女がそう叫ぶと、彼女の掌から火球が放たれた。赤と白を基調にしたその獄炎は凄まじい熱気を放ちながら手前に居る鬼の方へと飛んでいく。そして、獄炎は鬼の鎧を溶かしながら直撃し、鬼は膝をついた。


「一撃とはいかないか…!」


「『ロックハンズメン!』」


続けてアガリが魔法名を叫ぶと、彼の両腕は岩と化した。そしてその岩はみるみるうちに膨れ上がり、残る二体の鬼を殴り付ける。鬼達はその衝撃で壁に叩き付けられるが、グレーの魔法とは違い鎧を破壊するまでには至らなかった。


「成程、こいつは強敵だなッ…」


「アガリ、油断しちゃ駄目だからね」


一同に見守られながらも鬼達は立ち上がり、視線をこちらに向ける。そんな彼らの手には何処から取り出したのか分からない、青い宝石が埋め込まれた短剣のような物が握られている。とうとう反撃に出ようとしているのだ。


「鬼に接近されたら死!魔法を連打して近付けさせないわよ!」


「おう!」


そうして彼らは鬼達に掌を向け、魔法を発動しようとする。…しかし、自分達の目論見が甘かった事を彼らはすぐに思い知った。その事に一足早く気付いたタクは叫ぶ。


「駄目だ!逃げるんだ!」


「え…」


次の瞬間、鬼達はグレーとアガリの目の前に居た。何が起こったのかは分からない。ただ一つだけ言えるのは、鬼の形状が変化していたという事だけだ。彼らの姿は霧のように不確定となり、風のように一瞬で二人に近付いたのだ。


三つの短剣が振り下ろされる最中、アガリはグレーを後ろへ倒した。


「アガリ…!」


「あのままだと…二人とも死んでいたからな」


グレーに危害を加えぬよう、アガリは両手を広げた。鬼達の凶刀を一身に受けようとしているのだ。そんな彼の瞳は、強い輝きを放っていた。


だがそんな時、誰かが私達の隣にやって来た。


「おうおうアガリ…自己犠牲たぁ美しいじゃねぇか。えぇ?」


「え…!」


その聞き覚えのある声に私は思わずそちらの方を向く。高い等身、赤茶色の髪、不敵な笑み。私のよく知っている人物の思わぬ登場に、私は目を丸めた。


その人物は鬼達の方へ掌を向けた。


「『デスアクア』」


彼女の手から放たれた、三つの水滴。それらの水滴はまるで弾丸のような速度で鬼達へと向かい、鬼達は水に触れるや否や、着弾箇所から起こった爆発に塵一つ残さずに消滅していった。


死を覚悟していたせいか、未だに生きている実感が湧かないのか呼吸が荒くなるアガリに、助っ人は歩み寄った。


「おいごらてめぇアガリ!お前死ぬ所だったんだぞ?分かってんのか?」


「せ、先生…で、でもあの場合二人とも犠牲になる所だったんですよ!?」


「お前なぁ、良いか?一つ教えてやるよ」


「………」


「二兎追うものは二兎とも取れ。どんな劣勢でも、私様の生徒である以上完璧を目指せ!誰か一人でも欠けちゃあこっちの負けなんだよ。極限状態に陥った時は全てを逆転出来るように頭を回せ!」


「…はい。すみませんでした」


「ったく、まぁ死の体験を出来て良かったじゃねぇか。その経験はお前の強さの糧となるぞ」


「はい…!」


先生と呼ばれた女性はため息をつくと、今度は座り込んだグレーの方を見た。


「グレー、お前の方は慌てすぎだ。アガリに押されるまで意識が飛んでただろ?戦場において、常に冷静でいろ」


「はい…先生の仰る通りです。頭が真っ白になっていました」


「まぁともかくよ、二人とも生きてて良かったな。色々あったが、他の生徒達の為に立ち向かう勇気は評価してやるよ」


そう言いながら先生は手を差し出し、座り込むグレーを引き上げた。普通ならばあの洗練された魔法に驚くべきであろう。しかし、今の私の頭には疑問符しか浮かんでいなかった。


そしてその疑問を解消するように、思わず口を開いた。


「アカマル…?」


先生と呼ばれるその女性は何処からどう見ても…アカマルそのものであった。姿、声、話し方、性格、魔法。どれを取ってもアカマルでしかないのだ。強いて言うならば彼女の真っ赤な肌は、透き通るような白い肌になっているぐらいであるだろうか。


そして私に話しかけられたアカマルは首を傾げた。


「あ?誰だよアカマルって」


「アカマル…とうとう自分の名前を忘れるぐらい脳みそがおばあちゃんに…」


「んだてめぇ。喧嘩売ってんのか?」


「お、落ち着いて下さい先生!」


アカマルを宥めるグレーを横目に、メアリーは私に話しかけた。


「知り合いに似てる人が居るのかな?あの人はアカ…マル?じゃないよ」


その言葉に続くように、アカマルは大きな咳をして声を張上げた。


「良いか?その耳かっぽじってよーく聞きやがれ!私様は基礎魔法学と体育を担当している、ウェルフル・タイラント様だ!バカマルだかカマンベールだか知らねぇが、そんな奴とは何っの関係もねぇ!分かったか!」


そうは言われても、あまりにも酷似した存在に別人だと納得する事は出来ない。『そっか人違いか〜』で済ませられない程に証拠が揃いすぎているのだ。


そうしてモヤモヤした私を放置し、ウェルマルは生徒達に視線を向けた。


「で、何があった?魔族が保健室に居るなんて普通じゃねぇけどよ、魔族も仮病使う時代か?」


「それが私達にも分からなくて…」


「ふーん…例の怪奇現象と関連性があると思ったが、違うのか?」


「それは…まだ分かりません」


「じゃ、お前らが濡れてんのは関係ねぇのか?」


「え」


その言葉にグレーとアガリは慌てて自分の姿を見る。そして確かに、彼らは湿っていた。気付かなかったと言わんばかりに顔を見合わせる生徒達を横目に、ウェルマルは保健室の中を見た。


「見てみろよ。あれは明らかに異変だぜ」


「これは…」


目を凝らして見てみると…何と保健室の天井から黒色の水がぽたぽたと落ちてきているのが分かる。雨漏りだとしても明らかに妙な色をした水に、グレーは目を細める。


「この色…さっきの鬼達と似ている」


「多分怪奇現象の一角だろうな。気絶や幻覚や体調不良とはまた違った、別のものだ」


「何が起こってるの…」


「で、そこでだ」


ウェルマルは皆んなの顔を一人づつ見ると、言った。


「この私様も怪奇現象を調べるのに協力してやる」


「本当ですか!?ウェルフル先生の力添えは助かります…!」


「んで、怪奇現象と同時期に起き始めた妙な出来事がある。説明してやるからグレーとアガリはシズカを連れて職員室に来い」


その言葉に、メアリーとタクは目を細めた。そして挙手をしながらメアリーは質問する。


「私達は?」


「お前らにはお前らでやって欲しい事がある。ずばり、協力者を集めて欲しいんだ」


「協力者…」


「自作魔法の天才のテンメイ。そして身体能力学年一位のロナウドを連れて来て欲しいんだ。あいつらもまだ子供だが、優れた能力故に助けになるだろう」


「分かりました〜」


「俺達に任せて下さい!」


そうして、部外者の私を前にして会議はどんどんと進んでいく。そんな中ぽけーっと立っていると突然私の身体は持ち上げられた。持ち上げるその人は当然、グレーである。


「じゃ、リィハーちゃんは私と一緒に行こっか!」


「私、部外者、子供。理解?」


「大丈夫大丈夫!お姉さんが守ってあげるからさ!それに部外者が嫌なら妹にしてあげるよ?」


「ぐぬぬ」


やはり私はグレーの魔の手からは逃れられないようだ。そうして方針が固まり、苦笑いをしながらウェルマルは言った。


「そんじゃ、作戦決行だ!」


「「「「お〜!」」」」

私も物忘れが激しいので自分の名前を忘れちゃう気持ちは分かります。

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